天馬と柚乃がレモンザメのプールでおきた殺人の謎を解き明かす ー 青崎有吾「水族館の殺人」(創元推理文庫)

シリーズの第一巻「体育館の殺人」で、神奈川県立風ケ丘高校の文化部室棟の一階一番奥に住みついている、生活面ではダメ人間ながら抜群の推理力を発揮した「裏染天馬」と、卓球部の1年生で見た目は文学少女、実態はスポーツ少女の袴田柚乃、天馬の同級生でいつもハイテンションの新聞部部長の向坂香織たちが、警察の迷惑もなんのそのの捜査と推理を繰り広げる「風ケ丘高校」シリーズの第二弾である。

【構成と注目ポイント】

構成は

賑やかなプロローグ
第一章 夏と丸美と私と死体
第二章 兄の捜査と妹の試合
第三章 探偵の到着とアリバイの解明
第四章 日曜のデートと水際の実験
第五章 多すぎる容疑者と少なすぎる手がかり
第六章 黄色いモップと青いバケツ
静かなエピローグ

となっていて、今回の事件の舞台は、横浜港の端っこにある「横濱丸美水族館」という、イルカショーで最近人気を復活しはじめた、地元のオススメスポットの小さな水族館。

 

ここに訪れていた、向坂香織たち三人の新聞部員が取材中に、「レモンザメ」の水槽に、ここの飼育員・雨宮が転落して落下して、サメに食われる事件がおきる。
ただ、この事件はサメのプールの上にあるサメにエサをやるための橋が血まみれになっていて、どうやら、雨宮は傷つけられてからプールに落とされてようで、殺人事件の可能性が高い、というものである。

この事件の最中は、メインキャストの一人の裏染は学校の文化部棟の住居で熱さののために気絶寸前、柚乃のほうは、卓球部の学校対抗試合の真っ最中で、しかもライバル校のキャプテンにコテンコテンにやられた直後、という設定で、事件には立ち会っていない。

であるのだが、容疑者の水族館の職員全員にアリバイが成立して、犯人がだれかわからない、と途方にくれた県警捜査一課の仙堂、袴田兄(この二人は、第一巻の「体育館の殺人」で裏染に犯人をつきとめられて、赤っ恥をかいた上に、捜査代金を巻き上げられた二人ですよ)が、万策つきて、「裏染」に捜査を依頼する、という展開である。

で、裏染天馬が現場にやっれくれば、サクサクと推理を始め、犯人はすぐにでも・・、とはならないのだが今回の事件の面倒なところで、例えば被害者がプールに落ちた時、水族館の職員全てにアリバイがあったり、サメの水槽の上の橋に残されてた長靴の足跡や血のついた痕跡のあるモップとか、あれこれ犯行に関連する小物も多く、結構推理が面倒なので、謎解きが趣味の方は、それなりに楽しめるのは間違いない。

そして、真犯人のほうは原書で確認していただくとして、天馬が犯人が主張する動機の真っ当すぎるあたりを暴いていく最後のくだりは圧巻なので、犯人がわかっても安心せず、最後まで読んでくださいな。

【レビュアーから一言】

「風ケ丘高校」シリーズの魅力は、当然、本格モノらしく、しっかりとした謎解きの設定にあるのだが、キャストの動きや、キャストが巻き起こす騒動がコミカルなところである。とかく、本格モノは、謎解きを優先するあまり、登場人物がステロタイプになることがあるのだが、本シリーズの場合、そういうことはけしてない。

むしろ、今巻でも、メインキャストの一人・袴田柚乃ちゃんが、裏染天馬を事件現場につれていく時のパトカーの中で、生脚を撮影されて逆上したり、サメのプールのトリックを解き明かすため、スクール水着で学校のプールに何度も落ちる実験に巻き込まれたり、とか、柚乃ちゃんファンなら嬉しくてたまんなくなってしまうシーンも満載である。

謎解きと学園もの、双方の魅力を兼ね備えたミステリーに仕上がっているので、休日のぼんやりとした昼下がりに読みたい一冊でありますね。

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