センスアップは、どんな人にでも可能である ー 水野学「センスは知識から始まる」(朝日新聞出版)

「アイデアを出す」ことや「デザイン感覚でコーディネートする」ってなことが、ビジネス現場で、かなり主要なこととして語られるようになって久しいのだが、正直なところ、「デザイン」というものはフツーのビジネスマンにとって、まだまだ縁遠かったり、敷居が高語りするもの。

そうしたところで、グッドデザインカンパニーの代表で、クリエイティブ・ディレクターとして、数々の企業のPR戦略にとどまらず、経営の本筋のところに関わっている水野学氏の著作は、とても貴重な「道標となる本」といっていい。

【構成と注目ポイント】

構成は

Prologue センスは生まれついてのものではない
Part1 センスとは何かを定義する
Part2 「センスのよさ」が、スキルとして求められている時代
Part3 「センス」とは「知識」からはじまる
Part4 「センス」で仕事最適化する
Part5 「センス」を磨き、仕事力を向上させる
Epilogue 「センス」はすでにあなたに中にある

となっていて、まず、デザインというものが、こんなに注目され始めたのは

歴史を眺めてみると、技術が劇的な進化を遂げるとセンスの時代が来て、しばらくするとまた技術の時代がやって来るという〝サイクル〟が感じられます

という歴史感に基づきながら、

IT革命によって人類は再び、かつてないほどの進化を遂げました。産業角目気同様、人類全体に大きな進化をもたらす情報革命です。僕の仮説が正しければ、情報各メキによって技術がピークを迎えたあとのこれからの時代は、センスの時代です。
(略)
これも僕の持論ですが、「美しい」という感情は基本的に未来でなく過去に根差していると思っています。ノスタルジーやなつかしさもフックになるに違いありません。
技術とセンス、機能と装飾、未来と過去。
こんなふうに対になっている時代の間を、みんなが行ったり来たりしている気がします。
市場はすでに、センスの方向に動き始めているのです。

といった時代認識である。こうした視点にたつと、今の日本企業の不振も、「ものづくり」だけに専心し、効率や能率だけに尖ってしまった結果、時代の大きな変化の波に乗り切れなかったせいといえるわけで、そうなると、一般のフツーのビジネスマンも「デザインのことはちょっとねー」とも言っていられない時代だということでもある。

そしてそれは、今までのビジネスの手法自体も揺らいでくるということで、筆者によれば

食品でも化粧品でも、新しい商品をつくろうというとき、圧倒的多数の日本企業はまず、市場調査を始めます。僕は、これが大問題だと思っています。 日本企業を弱体化させたのは、市場調査を中心としたマーケティング依存ではないでしょうか

とのことで、多くのビジネスマンは、尻のあたりがなにやらふわふわした感覚に襲われるのではなかろうか。
とはいうものの、「デザイン感覚」や「センス」ってのは、どうしたら身につくかとなると途方にくれてしまうのだが、ここも筆者の助け舟があって

センスのよさとはミステリアスなものでもないし、特別な人だけに備わった才能でもありません。方法を知って、やるべきことをやり、必要な時間をかければ、誰にでも手に入るもの

であるそうなので、ここは筆者のアドバイスに従って、能力を磨いていくにこしたことはないな、と思わせるところが、筆者のまた上手いところではありますね。

じゃあ、具体的に「センスを磨く」にはどうしたらいいのか、といった点については

「センスがよくなりたいのなら、普通を知るほうがいい」と述べました。そして、普通を知る唯一の方法は、知識を得ることです。
センスとは知識の集積である。これが僕の考えです。

としつつも、

まずは「あっと驚く売れない企画」の多さに、目を向けましょう。「あっと驚く売れない企画」は、コアなターゲットに向けたもの以外、社会に求められないことがほとんどです。そうして現実の厳しさを知ったところで、「あまり驚かないけれど売れる企画」に注目するといいでしょう。
(略)
過去に存在していたあらゆるものを知識として蓄えておくことが、新たに売れるものを生み出すには必要不可欠だということです

というアドバイスや

センスをよくするためには、単に流行の情報を集積するだけではいけません。数値化できない事象を最適化するためには、客観情報ほど大切なものはありません。   センスの最大の敵は思い込みであり、主観性です。思い込みと主観による情報をいくら集めても、センスはよくならないのです。
(略)
思い込みを捨てて客観情報を集めることこそ、センスをよくする大切な方法

といったところをみると、「センスを磨く」というのも、けして天才肌の人にしかできないことではなく、むしろ地道な活動こそが大事なことのように思える。

そして、筆者のアドバイスする「知識を増やす」コツは

①王道から解いていく
②今、流行しているものを知る
③「共通項」や「一定のルール」がないかを考えてみる

ということのようで、詳細は原書にあたってほしいのだが、非常にカチッとした手法で、けして、キラキラした才能ある人の専売特許ではないので、ちょっと安心するのだが、一方で「現代社会において、センスとはマナーです」や「「センスとは研鑽によって身につくものです」といったあたりは、「センス」というものを特別なもの扱いして、自分には無関係として努力しない人たちへの叱責はかなり手厳しい。

【レビュアーから一言】

これからのビジネス社会では「センスがいい」ということが、業務知識が豊富であることと同じくらい重要視されてくる時代になるのは、本書を読む限り間違いないようで、「センスのいい悪い」を他人事扱いして済まされる時代ではないようだ。

将来に希望を抱くビジネスマンのあなたは、

多くの人が冒険せずにガラパゴス島に閉じこもっているのは、おそらく怖いのではなくて面倒だからでしょう。また、人間という生きものは、自分のいる場所を肯定しないと生きづらいものです。
小さな島から抜け出さないといけないという意識を持ってみてください。大それた勇気がなくても、きっと抜け出せます。

という筆者の言葉を信じて、一歩踏み出してみてはいかがでありましょうか。

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