校内の「あまそぎ」の黒幕「迷い家」現るー浜田よしかづ「つぐもも」10・11

母親ゆかりの帯である正絹爪掻本綴袋帯「あやさくら」が年月を経て意識をもつようになった付喪神「桐葉」と、彼女の”ご主人さま”的立ち位置のはずなのだが、完全に下僕扱いされている主人公「加賀見一也(かずや)」をメインキャストにして、ひきよせられてくる妖怪や人の呪詛や想いが結集した怪異「あまそぎ」を、土地神「くくり姫」の「すそはらい」として調伏していく、お色気満載・コメディータッチの「陰陽師」物語の第10弾と第11弾です。

前巻で謎掛けがされていた、校内の「あまそぎ」頻出を裏から糸をひいていた黒幕の正体が今回で明らかになってきます。そして、彼らの狙いが「土地神殺害」にあることとそれに秘められた悲しい過去も同時にわかってきます。

【構成と注目ポイント】

第10巻 校内のあまそぎ騒動の黒幕が現れる

第10巻の構成は

第49話 赤椀
第50話 迷い家
第51話 石片
第52話 あざみ
第53話 対戦1
第54話 対戦2

となっていて、今まで学校でおきていた「あまそぎ」の事件の陰で何者かが糸をひいていたことがわかってきます。

それは、人間たちの欲望に振り回され過ぎて「人」に対する信頼を失ってしまい、人と暮らすことを辞めた付喪神たち(いわば、「はぐれ付喪神」ですね)で、ここで、「かずや」たちの学校へやってきている鋏の付喪神「あきと」や水晶玉の「あるみ」が、付喪神たちが人と分離していても霊力を補充しながら暮らしていける拠点となっている「迷い家」に辿り着いた経緯と、そもそもの「迷い家」が出来上がった謂われが語られます。

その詳細は原書のほうで読んでほしいのですが、結論だけ言うと、そのはぐれた付喪神たちの暮らす「迷い家」の霊力の源は、「迷い家」の付喪神”ミウラヒ”が大昔、ある土地神を殺害して奪った、土地神が体内に宿していた「石片」にあったのですが、長い年月が経過して家の霊力が最近落ちてきています。このため、新たに、別の土地の土地神から霊力の源となる「石片」を奪うことが計画され、「かずや」たちの暮らす上大岡の土地神「菊理(くくり)姫」がターゲットになった、というわけですね。

これには、「迷い家」の近くの森の中に出現した「黒い帯」の付喪神「あざみ」のもたらした最も弱っている土地神の情報と、さらに弱体化する方法といった情報が大きく寄与しているのですが、「あざみ」の正体と「菊理(くくり)姫」が弱体化しているわけは、後巻で明らかになります。

そして、物語の方はゲームセンターで遊んでいた「みまね」と「あきと」と「かずや」が偶然出くわすところに場面展開します。

このゲームセンターでゲーム・オタクの作り出した「対戦ゲーム」の”あまそぎ”の世界に引き込まれてしまいます。この世界から脱出するためには、対戦ゲームに勝って、所有者にあまそぎを破壊させるしか方法がないのですが・・ということで、ゲーム内のバトルの様子は原書のほうでお楽しみください。

つぐもも : 10 (アクションコミックス)
「すそはらい」としての任務を着々と果たしていくかずやと桐葉だったが、頻発す&...

第11巻 「迷い家」勢との決戦前のひと休憩

第11巻の構成は

特別編1 すそはらいと神領流
第55話 夢枕ふたたび
第56話 恋のすごろクイズ
第57話 新入部員
特別編2 ふうまでん

となっていて、本編が3つ、特別編が2つという構成で、本格的に「迷い家」勢との対決が始まる前の「前菜」的な位置づけです。

本編の第55話「夢枕ふたたび」では、第8巻で登場した夢枕のつぐもも「獏楽」ちゃんの趣味「枕収集」に協力したところ、お礼に、桐葉や菊理姫、黒曜たちを、”かずや”の夢の中に潜入させてくれることになります。そこで見たのは、”かずや”が秘密にしていた「ハーレム」の夢で・・・という展開です。

第56話では、”かずや”+”桐葉”、”あきと”+”あるみ”が、男性に振られたやつあたりですごろくのあまそぎを生んだ女子生徒の”恋のすごろクイス”というゲームの世界に引きずり込まれてしまう話です。

ゲームの内容と脱出の様子は原書のほうで見てほしいのですが、注目しておきたいのはゲームの最終問題となった「相手男性が今まででもっとも好きになった人」という問題の”かずや”の答えです。自分でないことがわかった”桐葉”はショックを受け、菊理姫ほかの女性たちはそわそわし始めているのですが、真相は・・というところですね。ネタバレすると、この人です。さて、この人の正体は・・・という筋立てです。

特別編の1「すそはらいと神領流」では、上大岡の土地神「菊理姫」のもとへ足狩浜の土地神「豊玉姫」から、足狩にある天狗を祀る密教の祠の御神体へ、教団の「天狗降臨」の願いが通じて、「あまそぎ化」しそうなので、「すそはらい」できる者を派遣してほしいという頼みが入ります。菊理姫によって派遣された、”かずや”と”桐葉”が、ここで比叡山から天狗調伏のために比叡山から派遣された神領流の薙刀つかい”いつき”とつぐもも”初雪”とコラボしての戦いが見られます。
(この短編は砂原真琴さんの「赫焉のヒナギク」とのコラボのようですね。「赫焉のヒナギク」は2021年5月現在、Kindle Unlimitedの対象になってますね)

特別編の2「ふうまでん」では、オカルト研究会会長「布津浦ふう」は「異常」を求めての夜の校内探索に、”かずや”と”桐葉”が巻き込まれてしまいます。出てくる怪異は、彼女が書いた妄想小説の中のモンスターで・・という展開ですね。

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本来ならばかずや達と敵対関係にある安次峰あきとと、なぜか協力して立ち向かう&...

レビュアーから一言

「迷い家」で連想されるのは「マヨイガ」という言葉で、民俗学者の柳田國男先生の「遠野物語」にもでてくる、東北地方に伝わる伝説で、訪れた者がその家を訪れたら、その家にある物品を何でも持ち出してもよく、その家から流れ出てきた「赤い椀」を使うちいくらすくっても穀物が減らず、その家にたどり着けた一家は裕福になったと伝えられています。一方で、欲心をもってその家を探そうとしても見つからない、というものですね。
本シリーズでは、こうした「富貴を与えてくれる家というより、付喪神の「隠れ里」のようなイメージで使われているようですね。

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