とんと昔「殺人事件」があったとさー青柳碧人「むかしむかしあるところに、死体がありました」

日本の昔話の代表格」である「一寸法師」「花咲かじいさん」「鶴の恩返し」「浦島太郎」「桃太郎」といえば、すべてがハッピーエンドとはいえないものの「殺人事件」という血なまぐさいものとは無縁なものであることは皆さんご存知のとおり。そんな昔話を下敷きに、ミステリーの味付けをして大改編した「昔話風」殺人事件の謎解き噺が『青柳碧人「むかしむかしあるところに、死体がありました」(双葉社)』です。

収録と注目ポイント

収録は

「一寸法師の不在証明」
「花咲か死者伝言」
「つるの倒叙がえし」
「密室竜宮城」
「絶海の鬼が島」

となっていて、まず第一話目。

第一話「一寸法師の不在証明」

「一寸法師の不在証明」は、一寸法師が鬼に襲われたお姫さま・春姫様を救って、身長も伸ばし、さらに右大臣家のお婿さんに成り上がったところまでは、本家と同じなのですが、彼に右大臣の隠し子の殺害容疑がかかります。

その隠し子。冬吉はしんばり棒のかかった密室状態の小屋で首をしめられて殺されていたのを近所の女に発見されたのですが、戸に一寸ぐらいの隙間があったのと、一寸法師が生まれ故郷では相当の「ワル」だったことから検非違使が疑いを抱いたという経緯です。

しかし、その冬吉は死んだと思われる時刻、一寸法師は鬼の腹の中にいる、というアリバイがあるのと、大人の男を一寸の小さいままの一寸法師が首を絞めれるわけがないということで容疑者から外れそうになるのですが、ここで春姫様の近侍の武者の「私」は死亡時刻のずらしと打ち出の小槌を使ったトリックを・・・という展開です。

第二話「花咲か死者伝言」

第二話目の「花咲か死者伝言」では、枯れ木に花を咲かせて、殿様から褒美を頂戴した「花咲かじいさん」を殺害した犯人を、爺さんの二代目の飼い犬「次郎(ジロ)」が突き止める話です。

「花咲かじいさん」は昔話のとおり、飼い犬の「シロ」が吠えたところをほって財宝を掘り出したり、シロが死んで埋めたところに生えた木からつくった臼から黄金がでてきたりするのですが、それを全部困っている人にあげてしまいます。そして、殿様からもらった褒美を村が不作になったときに備えるため備蓄蔵を建てると宣言した矢先の「殺人」ですね。

そして、容疑者となったのは、花を咲かせた灰を奪っていった欲深の隣のじいさん、花咲じいさんが死ぬ間際に摘んだ「ペンペン草」がダイイングメッセージとも思える三味線の師匠、あるいは、死んだ際に握っていた「なずな」が象徴する村役人、といったところなのですが、二番目の飼い犬「ジロ」が着目したのは別のこと。

それは、お爺さんが殺された日に、お爺さんがでかけた後、おばあさんもでかけ、一人で帰ってきたことと、お城から届いたご褒美の財宝を見て、目をぎらぎらさせたお婆さんが、「次郎」をみて「次郎、どうしたらいいのかしら」といった本当の意味ですね。そして、お爺さんを殺した犯人に自分も殺されて埋められた「次郎」の復讐劇が意表をついています。

第三話「つるの倒叙がえし」

第三話目の「つるの倒叙がえし」は、鶴を助けた「弥兵衛」のところに、その鶴の化身「つう」が恩返しにやってきて、羽根を織り込んだ反物をお礼に織る話なのですが、この「弥兵衛」が借金のかたに家を追い出そうとした庄屋を鍬で殴り殺してしまうのと「つう」の織った反物で財産ができはじめた「弥兵衛」が、町の饅頭屋の娘といい仲になって「つう」を追い出してしまうあたりがちょっと変化しています。

そして、儲けた金を使って、殺した庄屋の地位を手に入れた「弥兵衛」に対する「つう」の復讐は・・という展開で、物悲しいはずの「鶴の恩返し」が妙に血生臭くなってきます。

第四話「密室竜宮城」

第四話目の「密室竜宮城」では、助けた亀に連れられて「竜宮城」へやってきた「浦島太郎」が竜宮城でおきた伊勢海老(?)の「おいせ」密室殺人事件の謎をとくというお話です。

竜宮城に集まる魚たちを尋問しているうち、「海牛」をめぐる色恋沙汰をめぐる対立が陰に潜んでいることを発見します。そして、密室とはいえ、体表の色を変えることのできる「平目」であれば、「おいせ」を殺した後、部屋の色と同化したままで隠れ、戸が開けられた隙をついて体表の色をもとに戻す、というトリックが使えることを発見するのですが、果たして「平目」が真犯人なのか?というところです。

真犯人は乙姫と別れ、浜へ帰りついたところで、亀の口から明らかになるのですが、そこには浦島太郎が竜宮城に来る前に起きた「フグ追放事件」が絡んでいて・・と陰謀の渦巻く竜宮城です。

第五話「絶海の鬼が島」

第五話目の「絶海の鬼が島」は桃太郎とその部下たちによって鬼たちが抹殺されてしまった鬼ヶ島に、桃太郎の目から逃れて生き延びていた十三頭の鬼たちにおきた連続殺人事件です。鬼ヶ島は「絶海の孤島」という設定なので、これまた「密室」連続殺人事件なわけですね。

もちろん、桃太郎が鬼ヶ島で「鬼」を殲滅してから長い年月が経過しているのですが、再び、彼が帰ってきて「大殺戮」を開始したかのように、遺体には犬が食いちぎったような傷や、雉が突いてできたような傷が残されていて・・・という展開です。

トリック的には、黒、赤、青、緑、黃、桃色と色とりどりの体表の色をどうやったらごまかせるか、というあたりですね。ここに、桃太郎の忘れ形見が絡んでくるという展開をしてきます。生き残りの鬼にしてみれば、「桃太郎」は災厄以外の何者でもないのですが、「桃太郎」たち人間+犬+雉+猿勢力からすると、鬼の残党が生き残っているというのは、鬼ヶ島殲滅作戦がいまだコンプリートしていない、ということになるわけですね。

レビュアーから一言

「昔話」もこんなふうに下味を変えて、調理方法を変えると「ビター」な大人風味になるのね、といった新たな味わいに驚かせる短編集となっています。
本書の続編に「赤ずきん、旅の途中で死体と出会う」もありますので、日本の昔話、西洋の昔話と読み比べてみてはいかがでしょう。

むかしむかしあるところに、死体がありました。
昔ばなし、な・の・に、新しい! 鬼退治。桃太郎って……え、そうなの

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