戦国の戦い方を一変させた「鉄砲」を取り巻く戦国絵巻が面白い=門井慶喜「信長、鉄砲で君臨する」

戦国時代後期、他の戦国大名に先んじて、合戦に大量の武器を持ち込んで、それまでの戦のやり方を根本から変えて、天下布武(日本統一)へと進んでいった織田信長。彼は「鉄砲」という武器の使途を一番早く見抜いた人物であるとともに、日本で一番、「鉄砲」に振り回された人物でもありました。

日本への鉄砲伝来から織田信長が本能寺に斃れるまでの、「信長」と「鉄砲」の戦国絵巻を描いたのが本書『門井慶喜「信長、鉄砲で君臨する」(祥伝社)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

第一話 鉄砲が伝わる
第二話 鉄砲で殺す
第三話 鉄砲で儲ける
第四話 鉄砲で建てる
第五話 鉄砲で死ぬ

となっていて、まず第一話「鉄砲が伝わる」は、鹿児島と沖縄の間の大隅諸島のうち、一番鹿児島に近い島・種子島の南端の浜にポルトガル人と中国人の商人が訪れるところから始まります。この島を訪れた理由については、漂着したという話もあるのですが、今巻では、九州の大隅半島南部を支配する禰寝氏に屋久島の半分を奪われてしまった種子島氏に、鉄砲を売りつけるため、商売で渡来したという設定になっています。

普通なら、高価なうえに使えるか使えないかわからない新式の武器など歯牙にもかけないところなのですが、種子島家の当主が、禰寝氏との戦いで屋久島に逃亡した父から家督を預けられた若い種子島時堯であったことが、ポルトガル商人に商利をもたらしただけでなく、日本の将来を大きく変えることとなります。

彼は2丁の鉄砲を買い取り、自領内で独自開発を目指すことになります。今話では、ポルトガル商人が管轄の浜に着いたことがきっかけで、独自開発の指揮をとらされることになった庄屋の織部の苦労譚が描かれるのですが、日本の歴史を変えたのはそっちのほうではなくで、時堯が紀州の根来寺の坊主にもう一丁を無理やり寄贈させられたほうなのは皮肉な結末です。

第二話の「鉄砲で殺す」は、信長が尾張一国を支配下におさめるまで鉄砲隊を指揮していた、元は信長の敵である織田信安に弓術で使えていた鉄砲師「一巴」の目線から、最初は興味も半分程度だった信長が、だんだんと「鉄砲」に取り込まれていく姿が描かれます。

その最初は、まだ吉法師と呼ばれていて家督も継いでいない若いころ、根来寺で鉄砲づくりの技を見せらた後の宴席です。ここで根来寺の鉄砲を織田上総家介へ優先的にまわすかわりに、根来寺の宿敵である延暦寺潰しへの協力を約束させられています。信長の「延暦寺焼き討ち」のもう一つの「理由」というわけですね。

さらに、戦国史の名シーンとして有名な信長と道三との対面の場面で、当時、尾張の半国しか手中にしていなかった信長が数百挺の鉄砲を揃えることができた理由は注目です。

第三話の「鉄砲で儲ける」では、鉄砲の有効性が諸国の大名に知れ渡り始めたころの、鉄砲をめぐるビジネス・ウォーズが描かれています。

当事者となるのは、政商や茶人としても有名となり「納屋」の今井彦右衛門(今井宗久)と「ととや」の千与四郎(千利休)で、根来衆から十年を遅れて鉄砲製造を始めた堺の鉄砲を売り出そうとする彦右衛門に対し、根来衆の原材料調達を一手に握る与四郎とが、鉄砲火薬の肝で、日本ではほとんど産しない「硝石」の輸入を巡って激しく争います。

「輸入」とはいっても、当時、硝石の一大産地である中国の明国は「海禁政策」をとっていて、実質は「密輸」で、今までの実績から硝石を少量しか回してもらえず苦杯をなめてきた、彦右衛門が、取引が行われる鹿児島沖の海上の船に自ら乗り込んで示した「破格の条件」とは・・といった展開です。

この話の最後のほうで、尾張・美濃を支配下におさめ、将軍・義昭を旗印に上洛してきた信長と、堺の町衆たちとの「二万貫の矢銭」の拠出をめぐっての鍔迫り合いが繰り広げられます。「堺の自治」についての、彦右衛門と利休の解釈が注目です。

このほか、鉄砲足軽として駆り出されていた百姓たちが、安土城の天守閣建築をめぐって、「櫓」程度の建造物に留めようとする、丹羽長秀たち武士と激しく争う「鉄砲で建てる」や、明智光秀が信長を弑した「本能寺の変」の陰に「鉄砲」があったことが描かれる「鉄砲で死ぬ」など、「鉄砲の戦国史」が信長を軸に語られていきます。

Bitly

レビュアーの一言

大和信貴山城の城主で、「将軍殺し」「主殺し」「延暦寺焼き討ち」の三悪を実行した稀代の姦雄といわれる松永久秀は、今村祥吾さんの「じんかん」では、三好長慶を助ける理想家の武将として描かれたり、「信長のシェフ」では、主人公のケンの目の前で自分の信義に順次て爆死を遂げる武将として描かれたりしているのですが、今巻の最初のところで軍資金を武野紹鴎に無心するところでは、紹鴎にいいようにあしらわれる官僚的な人物で、彼の天下の名物の茶器を三好長慶に進呈しようという申し出を断ってしまう「ビビリ」として描かれています。

ここは彼の意外な側面が見えたというよりも、彼をそこまでビビらせた、武野紹鴎、今井宗及、千利休のイメージを改めるべきなのかもしれません。茶人としての取り澄ましたイメージが先行してしまっているのですが、戦乱の世で巨富を築いた図太くてしたたかな「政商」のほうが本当のイメージにあっているのかもしれません。

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