無頼派作家のスランプ脱出の鍵は、出雲割子そばと白いかの刺し身=阿部潤「忘却のサチコ」17〜19

一流文芸誌の敏腕編集者「佐々木幸子」、通称「鉄の女・サチコ」が、結婚式の披露宴会場から、新郎・俊吾に逃亡されたショックを忘れるためにはまり込んだのが「忘却のグルメ道」。次から次へとやってくる仕事の難題を解決し、担当作家や上司のわがままを処理するため、このグルメ道に邁進し、日本各地の「名物」と東京の隠れた「うまいもの」を探求するグルメ漫画シリーズ『阿部潤「忘却のサチコ」(ビッグコミックス)』の第17弾から第19弾。

あらすじと注目ポイント

第17巻 サチコの友人の野生派女性カメラマン現る

第17巻の収録は

第157話 狙え! 白黒つけるタイカレー
第158話 チャレンジせよ! クリエイティブ炸裂がぶ丼
第159話 感謝をこめて! 親子でまわる秘密旅行・前編
第160話 感謝をこめて! 親子でまわる秘密旅行・後編
第161話 大混乱! 個性譲らぬ自由奔放エビチリ
第162話 切り抜けろ! トラップだらけのアイランド・前編(神奈川・猿島)
第163話 切り抜けろ! トラップだらけのアイランド・後編(神奈川・猿島)
第164話 激写せよ! 群れを導くラムチョップ
第165話 踏み出せ! 肩を並べるひとり立ち・前編
第166話 踏み出せ! 肩を並べるひとり立ち・中編

となっていて、最初の「狙え! 白黒つけるタイカレー」では、サチコの大学時代の友人でフリーカメラマンをしている「桜井ほのか」が登場します。彼女は野生動物の撮影でアフリカのサバンナに4年間滞在した経歴をもつ女性なのですが、偶然同席した白井編集長の服を突然脱がし、鎖骨をあたりを撫でさすり始めるという奇行に走ります。どうやら、白井編集長のどこかにひどく惹かれているようなのですが・・という展開です。この後、彼女の自宅マンションに招待されるのですが、白井編集長を待ち受ける運命は・・といった展開です。この話でサチコの食するのは、グリーンカレー、マッサマンカレーの二種のタイ・カレーのセットです。

なかほどの「切り抜けろ! トラップだらけのアイランド」はこれも恒例となった、ライバル「尾野真由美」との離島での対決が見られます。筋肉小説家・武藤に招かれた利用で、彼女とビーチバレー対決の勝負となります。もちろん尾野真由美が正々堂々の勝負をするはずもなく、胸に鏡を仕込んでサチコの妨害活動におよぶのですが、自爆してしまうのもいつものことですね。ただ、何度負けても懲りないのが彼女のいいところですね。

この話では、舞台の神奈川の横須賀周辺らしく、横須賀海軍カレーとヨコスカ・ネイビー・バーガーです。

このほか、人気Youtuberに小説をかいてもらうためにサチコ自らがYoutube配信をした後の食す、赤身肉の薄切り肉を丼からはみ出すほど盛り付けた「がぶ丼」、椿副編集長への父の日のプレゼントを娘・カンナに頼まれて秘密裏に準備した後の「鶏そぼろ丼」などが提供されています。

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第18巻 後輩編集者・小林はネクラをカミングアウトして一歩成長する

第18巻の収録は

第167話 踏み出せ! 肩を並べるひとり立ち・後編
第168話 協力せよ! ゴングが響くカキソース和えソバ
第169話 豪快! じゃじゃ馬暴れるアフタヌーンティー
第170話 終わりなき! 笑顔届ける思いやりリサーチ・前編(栃木・日光)
第171話 終わりなき! 笑顔届ける思いやりリサーチ・後編(栃木・日光)
第172話 共有せよ! 懐かしのトップシークレット
第173話 OH! アメリカ産・最旨バッテリー
第174話 津々浦々! 水戸ランデヴー・前編(茨城)
第175話 津々浦々! 水戸ランデヴー・後編(茨城)
第176話 演じきれ! 熱意詰まったミートパイ

となっていて、前巻の最終話でサチコに比べて編集者としての「甘さ」を自覚した後輩の小林が、担当小説家のジーニアスに新作のアイデアを提供するのですが、内容を誤解され、出禁扱いになってしまいます。辞表を胸に、小林は新作アイデアの本当の由来と、イケメンでスポーツ万能のアウトドア派と誤解されている自分の本当の姿をジーニアスにカミングアウトするのですが・・という展開です。

この小林を元気づけるために彼にサチコが食させるのが、第一巻でサチコが「忘却のグルメ道」に目覚めた「竹田食堂」の鯖味噌定食です。サチコのほうはアジフライ定食と肉じゃが定食を食していますね。

後半の「津々浦々! 水戸ランデヴー」では小学校時代の同級生・梶と水戸でのデート。ただ、デートと思っているのは梶くんだけで、サチコのほうは水戸の街を「水戸黄門」の助さん格さんに扮して散策することが目的だったようですが、ここで、黄門様の格好で観光ガイドをしている光吉と出会ったことから、孫にこの扮装が理解されない、という光吉の悩みを解決していくことになります。

この悩みを見事解決してのご褒美が、釣り上げたアンコウを見うからつるし切りにして食す、アンコウ鍋とドブ汁の雑炊です。

このほか、パリピ作家・川端アリサの学園祭でプロレスで闘った後の「カキソース和えそば」、ロンドン帰りの大作家をソーシャルダンスで執筆を承諾させた後の「アフタヌーンティー」、サチコの母校の女子高で、当時のサチコそっくりの図書委員の女子高生・藤田とサチコの高校時代の秘密を共有して食す「焼きそばパン」と「エビステーキカツサンド」が提供されています。

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第19巻 出雲割子そばと白いかの刺し身で無頼派作家は新境地を開く

第19巻の収録は

第177話 探せ! 個性が光る二色天もり
第178話 響かせ! 火花を散らす創作魂!・前編
第179話 響かせ! 火花を散らす創作魂!・後編
第180話 追いつけ! 手に汗握るバインミー
第181話 唱えよ! 魔法のワッフル
第182話 紡げ! しめ縄のような二人の絆・その一(島根・鳥取)
第183話 紡げ! しめ縄のような二人の絆・その二(島根・鳥取)
第184話 紡げ! しめ縄のような二人の絆・その三(島根・鳥取)
第185話 紡げ! しめ縄のような二人の絆・その四(島根・鳥取)
第186話 合流せよ! シャッターチャンスの栗ご飯

となっていて、冒頭の「探せ! 個性が光る二色天もり」では社屋ビルの改修のために、部屋を一部分明け渡すことになった「月刊 さらら」編集部の大騒ぎが描かれます。大人ではあるものの、基本「オタク」たちの集まりですので、全くといっていいほど捗りません。現代っ子の「橋本」も見つけた少女マンガ誌を読みふけったり、といった始末です。ここで食するのは「引っ越し」の後らしく「エビ」「野菜」の二色天もりです。二色のもうひとつの蕎麦は、伊予柑を練り込んだ「伊予柑切り」のようです。

なかほどの「響かせ! 火花を散らす創作魂!」では、人気ロッカーに小説の執筆を依頼しようとするサチコなのですが、その過程でその青年がノーベル賞作家の実の息子であることが判明します。秘密にしていた事実をすっぱ抜かれ、サチコの編集部がリークしたと疑われ、執筆を断られそうになるのですが、そこを救ったのはサチコではなく、実の父親で・・という展開です。

この話では、ロッカーらしくテーブルの上に敷いた紙に直接盛って手づかみで食す「ロブスター入りコンボバッグ シグニチャーソース」が提供されています。

後半の「紡げ! しめ縄のような二人の絆」では、第15巻と第16巻で椿のアシストで信頼を取り戻したノーベル賞候補の無頼派作家・柴崎の新境地を開拓するため、出雲・鳥取へと取材旅行にでかけます。

最初に訪れた出雲では、三色の「出雲割子そば」を食して取材に拍車をかけようと目論むのですが、親子旅行中の椿親娘に偶然出会ってしまいます。ここで、椿の娘・カンナが、父親とサチコをくっつけようと企んだことから、取材どころではない方向へ展開していきます。

カンナの企みが破綻した後は、宍道湖名産の入った「しじみラーメン」を食し、翌日は鳥取砂丘でラクダに乗ろうとするのですが、柴崎先生がサチコからもらった「お守り」を砂丘の中のどこかに落としてしまい・・という展開です。

広大な砂丘の中からお守りを見つけ出したサチコの姿に柴咲は新境地を見出し、という筋立てです。ここでは、日本海の白イカの刺し身と沖漬け、とろろがセットになった「いかとろろ定食」を食しています。

このほか、ライバル・尾野真由美とマジック対決をした後の「ワッフル」、野生派カメラマン・櫻井ほのかと幻のSF作家の山小屋を取材に訪れて食す「栗ご飯」といったメニューが提供されています。

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レビュアーの一言

第19巻の後半にでてくる出雲割子そばと白いかの刺し身は、全国的には知名度がまだまだの「山陰グルメの秘密兵器」といっていいのではないでしょうか。

出雲割子そばは、割子と呼ばれる丸い漆器にそばを盛り、薬味とそばつゆを直接かけてたべるお蕎麦で、出雲地方の蕎麦は挽きぐるみと呼ばれる、蕎麦の殻がついた玄そばを石臼でひいた、もくもくした味わいの蕎麦ですね。

割子はもともとは使い捨ての弁当箱を使ったようですが、何度も繰り返し使えるように漆器に変え、さらに慶弔の席でも出せるように朱塗りにして、今の洗練された器になったようです。

また「白いか」はいわゆる剣先イカのことで、初夏から晩秋にかけて、夜に漁り火をつけてイカを誘って、一本釣りで釣り上げたものを刺し身にすると、コリコリと甘みが強く、山陰の夏の最強グルメですね。

山陰地方にご旅行の際は、この二つは食しておかないと後悔しますよ。

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