サチコは「越前カニ」で、後輩編集者の親子のわだかまりを解く=阿部潤「忘却のサチコ」10~12

一流文芸誌の敏腕編集者「佐々木幸子」、通称「鉄の女・サチコ」が、結婚式の披露宴会場から、新郎・俊吾に逃亡されたショックを忘れるためにはまり込んだのが「忘却のグルメ道」。次から次へとやってくる仕事の難題を解決し、担当作家や上司のわがままを処理するため、このグルメ道に邁進し、日本各地の「名物」と東京の隠れた「うまいもの」を探求するグルメ漫画シリーズ『阿部潤「忘却のサチコ」(ビッグコミックス)』の第10弾から第12弾。

あらすじと注目ポイント

第10巻 サチコは、別府の5つの地獄めぐりの後、関サバをゲットする

第10巻の収録は

第89話 大混乱!? 札幌サイン祭り・前編(札幌)
第90話 大混乱!? 札幌サイン祭り・後編(札幌)
第91話 甦る! 復活の鍋焼きうどん
第92話 記念日に! 専門店の海老フライ
第93話 クリアせよ! 地獄の緊急ミッション・前編(別府)
第94話 クリアせよ! 地獄の緊急ミッション・中編(別府)
第95話 クリアせよ! 地獄の緊急ミッション・後編(別府)
第96話 栄養満点! 体を癒す、ヘルシー参鶏湯
第97話 最旬体験! 桜エビの沖漬け丼’かきあげ(静岡)
第98話 永遠の定番! 大人のハイカラセット

となっていて、冒頭の「大混乱!? 札幌サイン祭り」では、人気作家のジーニアス黒田の札幌で開催したサイン会でのグルメ紀行。北海道らしい「ラムしゃぶ」から始まったのはいいのですが、予約ミスから、後輩編集者の小林と同室になるトラブル発生。翌朝は「タラバガニとたまごのサンドイッチ」で始まっているのですが、その夜の様子については原書のほうで。ただし、読者の期待するようなことは起きていませんので、あしからず。

なかほどの、おなじみの美酒乱先生の代行現地取材で今巻では別府に訪れ、最初に「とり天」を食して幸先のよいスタートを切るのですが、ここで担当作家の一人・姫村から追加の取材依頼が入り、6時間の間に、別府温泉の5つの地獄めぐりと鍾乳洞の取材をこなすはめに陥ります。

ここで、取材の途中で急に産気づいた妊婦さんを助けた後、地獄蒸し食した上に、関アジ・関サバも翌日の作家とのインタビュー土産にゲットするというのがサチコの凄いところです。

このほか、この巻でも永遠のライバル「尾野真由美」と東京マラソンで激突した後の食する「鍋焼きうどん」や静岡の地元ラジオ局のラジオドラマに急遽代役として出演したあとの「桜エビの沖漬け丼」といったところが提供されています。

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第11巻 サチコは友人の結婚式で再び「俊吾」の想い出につきまとわれる

第11巻の収録は

第99話 ヒット祈願! 験担ぎの肉吸い
第100話 乗り越える! 友に贈るスピーチ・前編(伊勢)
第101話 乗り越える! 友に贈るスピーチ・後編(伊勢)
第102話 私的アガる塩らーめん
第103話 旨さ開眼!? 悟りの三色しらす丼
第104話 時をかける恋歌・前編(滋賀)
第105話 時をかける恋歌・中編(滋賀)
第106話 時をかける恋歌・後編(滋賀)
第107話 大波瀾!? ヨコハマ中華ランデヴー・前編

となっていて、二話目の「乗り越える! 友に贈るスピーチ」では、第3巻で登場した、大学時代に知り合ったアメリカ人留学生ジョゼの結婚s気が行われる三重・伊勢でのグルメ紀行。

「結婚」という言葉を聞くと逃げられた新郎・俊吾のことを思い出してしまうサチコは、それを吹き払ってお祝いのスピーチをするため、「松坂牛の回転焼肉」で勢いをつけようとするのですが、ジョゼの結婚相手が「春棋」と書いて「シュンゴ」と読むことを知って再び動揺し・・という展開です。サチコがこの動揺を鎮めるために何を食したか、というのが一つのポイントになりますね。

終盤の「時をかける恋歌」では、おなじみの代行取材で滋賀を訪れます。鰻の上に特大のだし巻玉子を載せた「きんし丼」から始まるのですが、取材テーマが「恋」ということで、元新郎・俊吾の幻に悩ませられる取材旅行となります。さらには、競技かるたの名人戦が開かれる「勧学館」ではここの「かるた会」に所属する男子学生から「競技かるた」の勝負を挑まれてしまいます。

このほか、このシリーズで、この後、人気作家にのしあがる「川端アリサ」を発掘して食す「塩らーめん」、人気お笑いコンビに自叙伝を書かそうとするサチコが夜中に食する「肉吸いと卵かけご飯」、第9巻で登場したイタリア人児童文学者・ロッシの鎌倉取材に同行して食す「しらすの三色丼」などが提供されています。

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第12巻 サチコは福井で後輩・小林の親子の絆をつなぎ直す

第12巻の収録は

第108話 大波瀾!? ヨコハマ中華ランデヴー・後編
第109話 真冬に祈りを・・群雄割拠のおでん合戦
第110話 オンリーワン! あかね色に輝く地元めし・前編(尾道)
第111話 オンリーワン! あかね色に輝く地元めし・後編(尾道)
第112話 食べ歩き! マイモン★グルメ!!
第113話 快走! 寄り道カレーパン
第114話 発掘せよ! 恐竜メモリーズ・前編(福井)
第115話 発掘せよ! 恐竜メモリーズ・中編(福井)
第116話 発掘せよ! 恐竜メモリーズ・後編(福井)

となっていて、中ほどの「オンリーワン! あかね色に輝く地元めし」では、小説家・姫村の代表作が映画化されることになり、その撮影が行われている「尾道」でのグルメ紀行です。突如、エキストラとして出演することになるのですが、「あしらい上手のホステス」役になりきるサチコは素晴らしいですね。

この話では、砂ずりとイカ天をいて、食べる直前に胡椒をかけるご当地お好み焼き「尾道焼き」と大きなチャーシューがゴロゴロ入入り、背脂が浮いている醤油味の「尾道ラーメン」が物語を引き締めます。

後半の「発掘せよ! 恐竜メモリーズ」の行き先は福井県。恐竜博物館で講師アシスタントを務めるハプニングもあるのですが、最初の出だしは「ソースカツ丼」。福井のソースカツ丼は、しっかりとソースとまとわせた薄目のカツを何枚かご飯の上に載せ、キャベツとか敷かないシンプルな出で立ちが特徴のカツ丼です。ここで後輩編集者。小林が、サチコが講師アシスタントを務めた著名な古生物学者の子息であることがわかります。研究生活に夢中で家庭を顧みることがなかったため、すっかり疎遠になってしまっている親子の溝を埋めようとサチコが奮闘するのですが・・という筋立てです。親子の絆を取り戻してのグルメは、やはり福井らしく「カニ刺し」「焼きガニ」と「特製カニ雑炊」といったラインナップの越前ガニです。

このほか、ジーニアス先生がアイドルの危機を救った後に食する「白麻婆豆腐」や売り出し中の女子高校生作家「川端アリサ」の大学受験勉強につきあって食す「おでん盛り合わせ」などが提供されています。

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レビュアーの一言

第11巻で登場する「肉吸い」は大阪の一部の飲食店で提供されるメニューなのですが、1980年代に吉本新喜劇に人気俳優・花木京が出番の空き時間に難波千日前にあったうどん屋「千とせ」に入店し、二日酔いであったため、「肉うどんのうどん抜き」を注文したことから始まっといわれているのですが、多くの関西お笑いタレントが番組などで紹介し、爆発的に広まったメニューですね。

こうした類のメニューは東京でも、蕎麦屋の「天ぷら蕎麦」から蕎麦を抜いた「天ぬき」。「鴨南蛮」から蕎麦を抜いた「鴨ぬき」というのがあります。板わさとこうした「台ぬき」を肴に酒を呑み、仕上げに「盛り」の蕎麦をたぐるってのが、江戸っ子の「粋(すい)」であったようで、池波正太郎先生的世界によくでてきそうな感じですよね。

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