亡国の女性奴隷がモンゴル帝国転覆を志す=トマトスープ「天幕のジャードゥーガル」1・2

13世紀の初めに中央アジアでモンゴル族を統一した後、モンゴル高原を拠点にユーラシア大陸の東西にわたって軍を派遣し、最終的には西は東ヨーロッパやトルコ、シリア、南はアフガニスタン、ミャンマー、東は中国、朝鮮半島まで広大な「モンゴル帝国」をつくりあげたのが、チンギス・カンとその兄弟、息子たちです。
このモンゴル帝国の初期、第二代皇帝オゴデイの皇后ドレゲネの側近として実権をふるい、「魔女」とも称された、奴隷上がりの才女「ファーティマ」の活躍を描くのが『トマトスープ「天幕のジャードゥーガル」(ボニータコミックス)』です。

モンゴル帝国といえば、チンギスハンが父親の死後、一族滅亡の危機を乗り越えて、周囲の敵対する部族を倒して、モンゴル統一を果たしていく、成り上がりストーリーか、彼に滅ぼされた西夏や金などの中華王朝の遺臣たちの物語が定番なのですが、本シリーズは、祖国を滅ぼされたのち、奴隷となりながらも、モンゴル帝国の中でのし上がっていった女性を描く、珍しい歴史ものです。今回はその第一巻と第二巻をご紹介しましょう。

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あらすじと注目ポイント

第一巻 奴隷少女は女主人の形見を取り返すため、モンゴルへ入り込む

物語は、西暦1213年、イラン東部のトゥースという都市の奴隷市場から始まります。ここで商いをしている奴隷商人から、この町でホラズム王国の学者をしている一族の一人「ファーティマ」が、奴隷の値段を半額にするのと引き換えに、「シタラ」という名の幼い女奴隷に教育をしてもらえないか、という依頼を受けます。
この娘は笑顔が可愛いらしいため、教養をつけて貴族か富裕商人に側仕えとして高く売ろうという奴隷商人の計画に乗って、ファーティマは学者で教師の資格も持っている実家の兄に、この娘を預け、教育を施すことに。

最初は、教養を身に着ければさらに遠いところへ売られてしまうため、学問をしようとしないシタラだったのですが、この家の一人息子「ムハンマド」からあるアドバイスをうけたことをきっかけに勉強をはじめ、めきめきと頭角を現していきます。このアドバイスがどんなものだったかは、原書で確認してくださいね。(ちなみに、このムハンマドは、のちにシーア派を代表する神学者で、数学、天文学に通じ、13世紀イスラムを代表する学者といわれる「ナスィールッディーン・トゥースィー」だと思われます。

平和な時であれば、この後、学問を積んで学者の家の家婢として過ごすか、どこかの貴族の家の奥様付きとなるか、。といった生涯だったのでしょうが、この頃、モンゴルの西征が始まったことが、彼女の運命を変えます。
トゥースの町を攻撃してきたのは、チンギス・ハンの第四皇子トライで、彼の率いるモンゴル軍によって町は破壊され、主人のファーティマも殺害され、シタラも奴隷として連行されてしまいます。そこで、彼女は、主人の死の原因となった、エウクレイデスの「原論」を取り返し、モンゴルへ復讐することを誓うのですが・・という展開です。

第二巻 亡国の女奴隷は新皇帝の第6王妃の後宮に入り込む

第二巻はファーティマ(シタラ)がモンゴルへ連行されてから8年後の1229年に移ります。この2年前の1227年にモンゴル帝国の初代皇帝チンギス・ハンが死去していて、その後継者を決める「クリルタイ」が開かれているのですが、そこで第二代皇帝として推戴されたのは、当時、末子相続が通例であったモンゴルの通例と違い、第三皇子の「オゴタイ」です。

末子相続の慣習に従って、チンギス・ハン軍のほとんどはトルイが相続したのですが、一族の結束を害しないように、温厚なオゴタイに跡を継がせるというチンギス・ハンの意向があったものと思われます。当然、末子で有能な武将であったトルイを「ハン(汗)」にという声もあったようですが、トルイが父親の遺志を尊重したため、大きな争いにはならず後継者争いは決着したそうです。

もっとも、トルイは3年後の1232年に中国の金国あを滅ぼオゴタイの本軍に合流したところで急死しするのですが、この時に「病に罹ったオゴタイの身代わりになった」という記録もあるそうで、二人の仲はそう単純に考えてはいけないようです。

で、次代皇帝が無事決まったところで、ファーティマは使えていたトルイの正妃ソルコクタニから、自分のもとを離れ、次兄チャガタイの宮廷に入り込むよう密命を受けます。モンゴル軍全体の3/4の兵力を掌握するトルイと皇帝の権力を手にしたオゴタイとの離反を狙ってチャガタイが介入してくるのでは、と考え、事前に売っておこうという深謀遠慮ですね。

チャガタイの宮廷に入り込む手段を模索するファーティマだったのですが、その前に草原で拾った黒い石が、オゴタイの第6妃「ドレゲネ」が失った「ジャダ石」ではないかという疑いをもたれ、彼女の後宮に連行されたところから再び、彼女の運命が大きく変わり始めます。

じつは、ドレゲネはナイマン族出身の女性で、メルキト族の族長ダイル・ウスンの後妻として嫁いできていたのを、メルキト族がモンゴルに征服されて夫や義理の息子を殺されたことから、内心ではモンゴル族を恨んでいたのです。

ここで海ファーティマはチャガタイの宮廷ではなく、ドレゲネに仕え、二人でモンゴルへの復讐を計画していくことになります。

レビュアーの一言

モンゴルでは女性のもつ実権の幅も大きく、ファーティマが権勢を握ったのも、皇帝の死後、次の皇帝が決まるまで皇后が監国として国を統治するという慣習があり、この監国の地位にドレゲネが就いたことによるもののようです。
さらに、この当時のモンゴルはあちこちを攻めて領土を拡張している国の勃興期にも当たるので、異国人の奴隷出身の彼女が入り込む余地も多かったのでしょうね。

ファーティマ(シタラ)が当初暮らしていたホラズムなどのイスラム諸国では、とてもこうもいかなかっただろうと思います。

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