「警察の雪女」は、半グレを襲う拷問殺人鬼と対決する=「嗜虐の拷問官 異常心理犯罪捜査官・氷膳莉花」

幼い頃に何者かに目の前で両親を殺害されたショックで、「感情」の起伏を失ってしまった女性刑事、通称「警察の雪女」こと「氷膳莉花」が、両親を殺した犯人を突き止めるため、犯罪研究のために、多くの猟奇犯罪事件を企画し、事件の共謀共同正犯として起訴され、死刑を求刑されたまま早稲田にある「東京警察医療センター」に収監されている「阿良谷静」のプロファイリングに基づいて、都内で起きる猟奇殺人の犯人を突きとめていく、ホラー・ミステリー・シリーズ「異常心理犯罪捜査官・氷膳莉花」の第三弾が本書『久住四季「嗜虐の拷問官 異常心理犯罪捜査官・氷膳莉花」(メディア・ワークス文庫)』です。

第一弾で内臓を持ち去る連続殺人犯とその模倣犯を捕縛するためにしでかした無断の単独捜査や内部規律違反を咎められて左遷された奥多摩署でも、再び強盗殺人犯を顔の皮を剥いで殺した犯人を確保し、その成果をもとに、警視庁の捜査一課に抜擢された氷膳莉花だったのですが、今回は、手足を車で轢き潰した末に溺死させるという拷問殺人犯の行方を追うことになります。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
第一話「密告」
インタールード
第二話「沼のふちに佇む女」
インタールード
第三話「死臭」
インタールード
第四話「罪と罰」
エピローグ
あとがき

となっていて、今巻の冒頭では、奥多摩署での犯人検挙の功績で、本庁捜査一課の剛腕刑事である仙波和馬警部補のひきで、彼が指揮をとる第四係の捜査員として抜擢された「氷膳莉花」の赴任初日のシーンから始まります。仙波のひきということを全員が知っているのと、捜査のプロとしてのプライドがあるせいか、以前所属していた江東署や奥多摩署でのあからさまなパージこそないものの、やはりここでも莉花を歓迎していない雰囲気は溢れています。まあ、ここあたりは警察の内規破りの常習犯で、

美人で愛想がないという氷膳莉花に対する、フツーの警察官の対応としては当然なのですが、この「四係」では、莉花の捜査実績と才能はしっかり認めていそうなところが他のところと違う点ですね。

で、事件のほうは赴任早々に勃発します。大田区蒲田の東にある廃工場で若い男性の死体が発見されたのですが、その死体は両腕の両足が関節と反対に折れ曲がり、右手は左足に、左手は右足に交差するように結ばれた状態で発見されています。さらに、両腕両足は何度も車で轢き潰された上に溺死されているという凄惨な状況です。

ここに臨場した莉花など四係のメンバーなのですが、莉花が近くに身を潜めるようにして捜査の様子をうかがっている不審な若い男性を見つけ、検挙したところ、警察も目をつけていた半グレ集団のメンバーの一人で、被害者もその集団の一員であることが判明したため、事件は半グレ集団の対立抗争か、内部対立によるリンチ殺人、という線で捜査が進められることになります。

半グレ集団がらみの殺人事件ということで、捜査の主導権は捜査一課から組織犯罪対策課のほうへ移り、莉花たちは組対の下働きのような仕事がメインになり不満が溜まっていくのですが、そこへ、本庁の警務部人事一係の尚澄監察官から莉花に直接内命が下ります(物語中では、一応、莉花に断ってもいいようなそぶりなのですが、おそらく莉花の捜査情報の阿良谷への提供のこともつかんでいるようなので、断る選択肢はないですね)。

それは、捜査一課内で捜査情報の外部への漏洩疑惑があり、その犯人を内偵しろ、というものです。莉花は猟奇殺人を半グレ集団がらみとする本部の捜査方針に違和感を感じるとともに、同じ職場の同僚のスパイをする、という役目に困惑しながら、今回も、天才犯罪心理学者の死刑囚「阿良谷」へプロファイリングを頼みます。

すると阿良谷は、今回の事件も快楽殺人者の手によるものと断言し、一月前におきた女性パティシエが、両眼を釘で潰され田植えに、その釘の上でロウソクを燃やされていた猟奇殺人との関連性があり、二つの事件に興津するのは、中世ヨーロッパで魔女裁判の際に行われた「拷問」だと指摘します。

そして、尚澄監察官が情報漏洩があったというデータを調べると、二人が「前科をもっていた」という情報も含まれていることもわかり、再び阿良谷にアドバイスを求めると、阿良谷は、刑罰に「拷問」を取り入れるべきだと主張して学者生命を絶たれたある研究者の名前を上げます。

それを聞いた莉花は、証拠をつかもうという単独捜査を再び始め、その研究者の自宅に潜入するのですが、そこで見たのは死後数月経過した研究者の姿で・・という展開です。

今回も単独捜査によって真相究明に大きく接近するものの、いつものように莉花の身に危険が迫ってきますので、そのあたりの詳細は原署のほうでどうぞ。

さらに、後半部分では、死刑が未決のままになっていたおかげで、警察医療センターで宙ぶらりんな状態でいられた「阿良谷」の二審の裁判が始まることとなり、次巻以降では彼の身の振り方も大きく変わってきそうです。

レビュアーの一言

今回、猟奇殺人の方法として使われたのが、中世ヨーロッパの魔女狩りの際に、魔女であることをこくはくさせるためや、魔女の呪いを解くために用いられた拷問の数々ですが、魔女狩り自体は、12世紀のカタリ派の弾圧や、テンプル騎士団への迫害など、「異端審問」の激化によって教会主導で盛んにおこなわれるようになった、と言われていたのですが、現代では、女性の迫害や、災害や不作の不安不満が集中したといった様々な要因がからみあって発生したと考えられているようです。

現代でも妖術や精霊の存在が信じられていて、シャーマニズムの影響のあるところでは「魔女狩り」に似た事例が発見されているようなので、けして過去のものとして片づけられない問題を含んでいるようですね。

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