父親の破門の汚名を晴らすため、朱音は噺家「あかね」となる=「あかね噺」1・2

落語の一門・阿良川流の真打ち昇進を決める審査会で、審査委員長を勤める大御所から「破門」を言い渡され、それをきっかけに落語を辞めた父親の仇をうつため、その娘「桜咲朱音(おうさきあかね)」が、大看板の落語家となることを決心し、女性としては珍しい落語家の階段を登っていく噺家版サクセスストーリーとなる『末永裕樹・馬上鷹将「あかね噺」』シリーズの第1弾と第2弾。

あらすじと注目ポイント

第1巻 父親の破門の汚名挽回のため、朱音は「あかね」となり噺家を目指す

第1巻の収録は

第一席 あの日
第二席 6年
第三席 初高座
第四席 何者
第五席 通すべき筋
第六席 兄弟子達
第七席 気働き

の七話。

物語は、主人公となる「朱音」がまだ小学生の頃。彼女のこれからの人生の方向を決めてしまう、父親の二ツ目の落語家「阿良川志ん太」の真打ち昇進の審査会から始まります。

父親の「志ん太」は経験も噺の旨さも持っているのですが、その性格のためか噺が固く、人気が出ず、二ツ目でくすぶっていて、美容師をしている奥さんの収入で一家が暮らしている売れない落語家です。まあ、落語で定番の「髪結いの亭主」というシチュエーションですね。

ただ、落語の登場人物と違うのは、そんな父親を尊敬してくれている娘・朱音や奥さんの「真幸」の期待に応えようと、最後に近いチャンスともいえる「真打昇進試験」に臨みます。
演題は「芝浜」で、最初は緊張から客の受けもイマイチだったのですが、途中、朱音のくしゃみを聞いたところから、スイッチが切り替わり、噺を大幅にカットして、自分の得意な方向へと切り替え、そこで客を噺に引き込むことに成功します。
最終的には客の受けもマズマズだったため、真打ち昇進を勝ち取ったと思ったのですが、審査委員長の阿良川一生の降した結果は、今回の試験の出場者全員が「破門」というトンデモないもので・・という筋立てです。

ここから、この審査結果が原因で落語会を引退した父親の「破門の理由を確かめ、父親の汚名を晴らすため、女性ながら噺家となる「朱音」の物語がスタートします。

父親は落語家を辞めた後、コンクリート会社に就職して、営業成績もよく、落語家のときより収入も増えて、世間的には、いつまでも夢にしがみついてなくてよかったね、というところなのですが、父親の落語が大好きだった娘としては、父親の「落語」の汚名を晴らすため、父の師匠の人情噺の名手で「泣きの志ぐま」と異名をとる落語会主流の阿良川一門の主柱の一人「阿良川志ぐま」の弟子となり、高校生となり、卒業を間近に控えたところで、正式に弟子入りし、「真打ち」を目指すことを宣言します。

中盤部分では、「素人」ともいえる朱音が弟子入りを認めてもらうテスト代わりの「初高座」を踏んで、周囲の予想を覆して、噺家としてのすごい才能をみせつけるあたりは、相当の爽快感があります。
しかし、ここで「阿良川魁生」という桁違いの才能をもった若手噺家との最初の遭遇をすることにもなりますね。

後半部分では初高座で見せた才能と、父「志ん太」と母「真幸」の後押しで、「志ん太」の破門以来弟子をとってこなかった「阿良川志ぐま」に弟子入りを認められ、弟子修行を始めるのですが、まず兄弟子の「享二」の厳しい洗礼を受けることとなります。

気が強く、気に要らないと兄弟子にも平気で意見する「朱音」に不足していたのはまず「気働き」なのですが、それをみにつけるため、享二が送り込んだ修行先は・・という展開です。
少しネタバレしておくと、気持ちが先走る。活発な「朱音」にはこの修行先は適職だったような気がします。

第2巻 「あかね」は「気働き」を覚え、噺家として一歩成長

第2巻の収録は

第八席 喜んでもらうために
第九席 喜びの先
第十席 背中
第十一席 短絡的
第十二席 夢見るあの子
第十三席 目的と条件
第十四席 根に持つタイプ
第十五席 こぐまの落語
第十六席 可楽杯開幕

の九話。

前半では、居酒屋「海」でのアルバイトで、接客の「気働き」を学んだ「あかね(朱音)」は、これを兄弟子「享二」の老人ホームでの営業に同行し、ここで早速、学んだ「気働き」をした「噺」を始めます。

入所している高齢者の興味を引きながらスロースタートで噺を始め、彼らにあったペースで噺を展開していくのですが、彼女の才能が発揮されるのはここからです。段々と彼女のペースとテンポに巻き込んでいって、「子ほめ」でオチでどと客を沸かしていきます。

中盤からは、朱音が大学へ進学せず、落語家になるという進路希望を聞いた、担任教師の岩清水からかなりの教育的指導が入るのですが、朱音の高座を見て、彼女も応援側に回るというのが前振りになっています。
この岩清水が持ってきた学生落語の大会「可楽杯」のチラシが、朱音のこれからを大きく変えていくこととなります。

後半部分は、「可楽杯」の審査委員長が父親を破門した「阿良川一生」だとしり、大会への出場を希望する朱音だったのですが、それには師匠の許可が必要です。

破門事件以来、一生との間にわだかまりを抱えている上に、アマチュア対象の大会であるため、半プロともいえる朱音の参加に師匠の「阿良川志ぐま」の許しはでないかと思えたのですが、以外にもあっさりと師匠は許しを出します。

しかし、それには条件があって、演題に「寿限無」をかけろというもの。有名な噺で、素人でもあらすじを知っているため、寄席でもめったにかかることのない噺で出場しろ、という師匠の意図を探るため、東大出で博識・勉強熱心の兄弟子「こぐま」の力をかりることにするのですが、あかね(朱音)の「寿限無」を聞いた「こぐま」はダメ出し。「寿限無」のもともとのオチをあかね(朱音)に教え、彼女の「言い立て」(喋り)が「音」のままで、言葉に成っていないと酷評します。

その批評を聞き、門下に「寺子屋」と称されている「こぐま」の高座を聞いたあかね(朱音)は、彼の研究熱心に裏打ちされた噺を聞いて、担任の岩清水に「江戸時代のことを教えてくれ」と駆け込むのですが、その目的は・・という展開です。

最後半ではいよいよ「可楽杯」が開幕します。ここで「あかね(朱音)」のこれからのライバルとなる強敵二人が登場してきますが、詳細は原書のほうでご確認を。

レビュアーの一言

女性の噺家の成り上がり物語という方向性から、あたりをなぎ倒していく主人公なのか、と想像させたのですが、気性を強いものの、応援したくなりう主人公の登場にホッとするところです。

さらに、このしりーずでは、主人公や登場人物が高座にかけたり修行する「噺」のあらすじもかなり詳しくでていて、落語初心者にも優しいつくりになっています。
ちなみに、このタームで出てくる噺は「芝浜(志ん太改作版)」「まんじゅうこわい」「稽古屋」「子ほめ」「三方一両損」「転失気」「寿限無」「今戸の狐」といったところです。

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