「あかね」と「ひかる」の因縁の対決の結果は・・=末永裕樹・馬上鷹将「あかね噺」7〜9

落語の一門・阿良川流の真打ち昇進を決める審査会で、審査委員長を勤める大御所から「破門」を言い渡され、それをきっかけに落語を辞めた父親の仇をうつため、その娘「桜咲朱音(おうさきあかね)」が、大看板の落語家となることを決心し、女性としては珍しい落語家の階段を登っていく噺家版サクセスストーリーとなる『末永裕樹・馬上鷹将「あかね噺」(ジャンプコミックス)』シリーズの第7弾から第9弾。

前回までで、持ちネタの少なさを解消するために、女性落語家の大御所「蘭彩歌うらら」に稽古をつけてもらい、自分なりの花魁の了見を掴んだ「お茶汲み」を体得し、さらに八正師匠の「平林」も持ちネタに加えた「あかね」だったのですが、これがきっかけで、阿良川一門の若手2つ目が出演する「四人会」に追加で出場できる権利を獲ることができる一門の「前座錬成会」でライバルたちと火花を散らします。

あらすじと注目ポイント

第7巻 「あかね」は自信満々に錬成会に出場するが、思わぬライバルが出現

第7巻「前座錬成会」の構成は

第五十四席 前座錬成会
第五十五席 練成会の空気
第五十六席 彼女がいる
第五十七席 落語の沼
第五十八席 芸の骨格
第五十九席 難しい三択
第六十席  たった一面
第六十一席 タイムマシン
第六十二席 審査基準

となっていて、阿良川一門の前座の登竜門となる「前座練成会」で一位となり、その後の「四人会」でも二つ目の先輩たちを圧倒しようと目論む「あかね」です。

「可楽坏」や「禄鳴会」での活躍や、「うらら」師匠や「八正」師匠に直稽古をつけられたという箔から「あかね」が一番となるだろうという前評判は高いのですが、そこに立ちはだかったのが、阿良川一生の魁生以来の弟子となった「阿良川嘉一」と、声優出身で、「可楽杯」であかねに苦杯を呑まされ、その雪辱を果たすために阿良川一剣に入門し、あかねと同じく「蘭彩歌うらら」から直稽古を受けた「阿良川ひかる」です。

選考会の第1次審査には、この「あかね」「嘉一」「ひかる」と「ぜんまい」の4人の若手前座が残るのですが、第2次審査を控え、あかねは次にかけるネタの稽古を兄弟子の「阿良川まいける」にお願いします。

彼が提示したネタ候補は、客ウケのいい「禁酒番屋」、あかねの現在の持ち味に一番フィットしている「蝦蟇の油」、そして「あかね」の父「志ん太」が練成会で二つ目推薦の権利を勝ち取った「替り目」の3つです。
さて、「あかね」はどの噺を選ぶのか、というのが中盤部分の注目ポイントです。

後半部分では、父親の今回の錬成会では、父親の後ろ姿をおいかけることを決意した「あかね」が父親の落語家時代のエピソードを集めています。ここらは、後巻の2次審査本番の隠しネタとして大事なところなので、覚えておきましょうね。

そして最終盤では、いよいよ二次審査が始まるのですが、トップバッターの「ぜんまい」は東京と大阪の落語家、芸能評論家という3人の審査員+配信の観客+会場の観客という、それぞれが異なる審査基準で審査する今回の「錬成会」の厳しさにもろにぶち当たることとなります。

少々、キツイ言い方をすると「ぜんまい」は完全にこの場面では「当て馬」状態ですね。

第8巻 ライバル「嘉一」と「ひかる」の芸は「あかね」を圧倒するか?

第8巻「強すぎる思い」の構成は

第六十三席 相性最悪
第六十四席 くだらんね
第六十五席 一番は
第六十六席 忘れようか
第六十七席 あの日のまま
第六十八席 強すぎる思い
第六十九席 おっ父の魔法
第七十席  落語家 阿良川志ん太
第七十一席 解像度

となっていて、前巻で、かなり出来のいい高座であったにもかかわらず、審査基準と見るポジションがバラバラという今回の錬成会の審査の特殊さにはまり込んで低評価となった「ぜんまい」に続いての出演は、「阿良川嘉一」です。

彼は「金明竹」をかけるのですが、前職であった腕利き営業マンの技をすべて使って、くすぐりを畳み掛けてくるという話法ととります。

当然、渋い芸が好みの、芸能評論家にはウケが悪いのですが、彼の本命は会場にいるお客たちで・・という筋立てですね。

まっすぐの会場の客をターゲットにした落語で高得点を叩き出した「嘉一」の次は「阿良川ひかる」です。彼女は、友人のように無頓着にはなしかけてくる「あかね」に対し、「阿良川あかねに勝つ為に私は落語家になったの」と宣戦布告を告げてきます。

そして、その「ひかる」が高座にかけるネタは、「花見の仇討ち」です。

たくさんの登場人物がでてきて、しかも役柄が違うという演じ分けの難しい噺なのですが、これを「ひかる」は声優としての経歴と才能を活かして、すべて違う”声色”で演じるという離れ業をしかけてきて・・という展開です。

圧倒的な才能を見せつけられた「あかね」は「おっ父」との思い出を振り返りながら、高座にあがります。
彼女がかけるネタは、父・志ん太は二つ目昇進をきめた練成会でかけた噺、酔っ払いの亭主と女房とのかけあいを主体にした「替り目」です。

若い「あかね」には、噺の”味”を出すのが難しい噺で、出だしはインパクトにかけた滑り出しだったのですが、噺の途中で、あかねは「あること」に気づき・・という展開です。

巻の最後では、シリーズで初めて九州に単身赴任している父・志ん太が登場しますのでお楽しみに

第9巻 「あかね」と「ひかる」の勝負の行方は・・

第9巻「替り目」の構成は

第七十二席 替り目
第七十三席 勝者は
第七十四席 志喜彩祭①
第七十五席 志喜彩祭②
第七十六席 志喜彩祭③
第七十七席 燃えてますよ
第七十八席 軽薄な男
第七十九席 標に鳴り得る男
第八十席  大看板・今昔亭ちょう朝

となっていて、冒頭では父・志ん太の「弱さ」に気づいた「あかね」の芸が脱皮する瞬間が訪れます。笑いの多さや芸の巧みさでは、前に出演した「嘉一」や「ひかる」の芸に及ばない「あかね」の芸なのですが、「温かみ」では彼らに勝っています。

それを審査員たちがどう評価するかが見ものなのですが、審査の結果は・・ということで、前半部分で今回の「錬成会」の順位が明らかになります。「あかね」は高座の最初の失点を挽回できるか、といったところですね。

そして、中盤では、錬成会終了後、宇坂天満宮で開かれる「志ぐま一門」と志ぐま師匠の住む天神町の町会が合同して開催する夏祭り「志喜彩祭」の様子が描かれます。

ここでは一門あげて出店の売上勝負が目立つのですが、注目しておくべきは、妹弟子に追い抜かれそうになりながら、必死に踏ん張る「あかね」の兄弟子「ぐりこ」ですね。

そして後半では、「二つ目」への昇進を目指して、「あかね」がまた新しい動きを始めているのですが、詳細は原書のほうで。

レビュアーの一言

今回でてくる噺は、前座錬成会で演じられた、熱いので有名なお灸を我慢する江戸っ子の意地比べを描いた「強情灸」、叔父さんの経営する骨董屋を手伝いにきた与太郎が巻き起こすドタバタを描いた「金明竹」、長屋の衆が花見にでかけるのですが、そこでの趣向でニセの仇討ちを芝居をやるのですが、本当の仇討ちと勘違いした武家がでてきて大騒ぎになる「花見の仇討ち」、そして「あかね」が演じた「替り目」、そして志喜彩祭での「ぐりこ」の「粗忽の釘」といったところです。

「強情灸」「金明竹」「粗忽の釘」「替り目」といったところは、時代設定が変わっても変わらない、意地っ張りやうっかり者、夫婦愛といったあたりがテーマなのでわかりやすいですが、「花見の仇討ち」は、花見というイベントの力が薄れてきている現代では、登場人物の熱心さがちょっと入り込みにくいかもしれないですね。

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