院内交番は有名俳優の急死の謎と高校の同級生の拒食症を解決する=「院内警察ーアスクレピオスの蛇」3・4

医師や看護師などの病院職員に対し、暴言や暴力、セクハラ・パワハラを仕掛けてくるモンスター患者に対処するため、大学病院「阿栖暮病院」に設けられた私設警察「院内交番」に勤務する元刑事・武良井治を主人公に、病院内でおきる様々な事件の真相を解き明かし、解決していく、異色の医療ミステリーマンガ『酒井義・林いち「院内警察ーアスクレピオスの蛇」(ヤングチャンピオンコミックス)』の第3弾と第4弾。

前巻の最後で、麻酔科医・白石葵の妹「白石日向」につきまとうストーカーの正体をつきとめ撃退した院内交番の武良井治と川本響子だったのですが、その目的は、院内で起きている連続死の原因についての情報をもっている気配の日向からそれを聞き出すことにありました。今回では日向の口から阿栖暮総合病院のエリート外科医・榊原への疑念がわき出すとともに、事件の輪郭が現れてきます。

あらすじと注目ポイント

第3巻 院内交番は有名俳優の突然死の謎を暴く

第3巻の構成は

第18話 インフォームドコンセント第19話 カバドンのプライド第20話 侍魂第21話 プライドを胸に第22話 舞台第23話 まぶたの重い上級医第24話 真実へのプロセス第25話 D(ディー)第26話 戻る人、戻らない人

となっていて、第3巻の冒頭では当直をしている日向のもとへ、入院患者の逸見が胸痛を訴えてナースコールが入るところから始まります。整形外科医の久保田医師が、その日の循環器の当直担当の前川医師に確認したところ、心筋梗塞が疑われ、緊急カテーテル検査が必要になるかもしれないと告知します。その後、手術が行われたのですが、造影結果も手術関係記録もシステムの中に残っていません。その手術の執刀をしたのが天才外科医と評判の榊原で・・という筋立てです。

逸見は有名な俳優であったため、榊原の執刀ミスを隠すため、病院側の忖度で手術記録が隠蔽されているのではと疑われるところなのですが、その日、相談を受けた循環器の前川医師は、指導医にアドバイスを仰いだのですが、学会発表の準備があると適当にあしらわれ、切羽詰まって担当違いの榊原医師に相談し、指導医である高木副部長から厳しく叱責されたという裏事情があったことをつきとめます。

このトラブルがもとで、前川医師は阿栖暮総合病院を辞め、現在は小さな町の診療所の医師として働いているのですが、真実を明らかにするため、彼を阿栖暮総合病院の医療安全管理委員会へ呼び出すことに成功します。

そして、そこで前川はその日に起きたことを供述するのですが、実はそこには、指導医の高木副部長の誤診というレベルではなく、もっと重大な医療事故が隠れていて・・という展開です。

少しネタバレしておくと、この巻の最後で武良井の恋人がこの病院で入院中に急死していたという事実も明らかになっていて、これが以後、このシリーズを誘導していくネタになっていきます。

第4巻 院内交番の川本は高校の同級生の拒食症に挑む

第4巻の構成は

第27話 巡る記憶第28話 中止された治験第29話 消えた患者第30話 私にできること第31話 君とあの日の続きを第32話 欲しかった言葉は第33話 鏡第34話 神を呪わば第35話 私、見たんです

となっていて、冒頭では、武良井の過去となる婚約者であった「夏目美咲」が阿栖暮総合病院に入院し、末期がんが発見されるのですが、その後、新薬の治験に参加している最中に、間質性肺炎で急死していたという事実が語られます。実は、この治験に参加した患者のうち数名が、同じように肺炎で急死しているという事実が分かったため、武良井は、この治験薬に欠陥があったのでは、と警察を辞職して阿栖暮総合病院に再就職して内部で私的に調査している、ということが明らかにされます。

この内幕の展開はここまでで、読者のほうは少し消化不良の感を抱いてしまうのは否めませんね。

中盤では、冒頭で語られた、武良井たちに振り回されていてストレスの溜まっている院内交番の事務担当「川本響子」が、久々の同窓会で高校時代の肥満した体形が一変し、スリムな美女になっている同級生と再会したエピソードを受けての本編が始まります。

同窓会の二次会で吞み過ぎたらしい川本は二日酔い状態で出勤してくるのですが、そこで、同窓会で痩せて美人に変身していた同級生・宮本茉莉が昨夜救急で搬送されてきたのですが、私物を残して病院からいなくなっているということを知らされます。

彼女は病院近くの道路を入院着のままでふらつきながら歩いているのが発見されるのですが、どうやら強度の接食障害によるビタミンB1不足の意識障害の症状がでていることがわかり、という筋立てです。

ここで、高校時代、川本響子と宮本茉莉はとても仲が良かったのですが、大学受験の頃から宮茉莉が響子を避けはじめ、そこから疎遠になっていたことが明らかになります。茉莉の病状を心配した響子は、彼女を元気づけるため、病院には無断で彼女を街へ連れ出し、元気づけようとするのですが空回りするばかりです。

そして、響子のことを避け続ける茉莉に、ついに武良井が介入するのですが、それは一見、響子は友達じゃないと言い張る茉莉の頑なな態度をさらに煽るものだったのですが・・といった展開です。

レビュアーの一言

今回は、プロファイリングに長けた警視庁の敏腕警察官であったらしい「武良井」が警察を辞職して、あえて閑職ともいうべき総合病院のクレーム担当が主な役割の院内交番に再就職した理由が明らかになってきたわけですが、その理由となった婚約者の死因が「間質性肺炎」です。

この病気は肺の間質(肺の空気が入る部分である肺胞を除いた部分)を中心に炎症を起こす疾患の総称で、その原因は関節リウマチや皮膚筋炎などの膠原病、カビなどの抗原の吸入、薬などによる炎症、特殊な感染症など様々といわれていて、まあぶっちゃけていうと原因は不明、というところですね。なので、このシリーズのコンテクストの解釈としては、この病気にかかる人がどうこうというより、新薬の治験中に原因不明の病気で急死した、といった感じで解釈しておいたほうがよさそうです。

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