院内刑事は治験中の婚約者の急死の謎に迫る=「院内警察ーアスクレピオスの蛇」5・6【ネタバレあり】

医師や看護師などの病院職員に対し、暴言や暴力、セクハラ・パワハラを仕掛けてくるモンスター患者に対処するため、大学病院「阿栖暮病院」に設けられた私設警察「院内交番」に勤務する元刑事・武良井治を主人公に、病院内でおきる様々な事件の真相を解き明かし、解決していく、異色の医療ミステリーマンガ『酒井義・林いち「院内警察ーアスクレピオスの蛇」(ヤングチャンピオンコミックス)』の第5弾と第6弾。

前回で武良井治が警察を辞め、閑職ともいえる阿栖暮総合病院の院内交番に転職した理由が、末期がんの新薬治験中に原因不明の肺炎で死亡した婚約者の死の真相を暴くためで、死の直前に痕跡が消された秘密の手術を請けていたことやその死に病院のエリート外科医・榊原俊介が絡んでいるのではないか、という疑惑がでてきたのですが、今回は、その謎に院内交番のメンバーが迫ります。

第5巻 院内刑事は生活保護患者の薬横流し事件を暴くが、これが院内交番に存続危機へ

第5巻の構成は

第36話 つかんだ尻尾
第37話 拭えぬ血
第38話 ナイフ
第39話 俺がすべてを受け止める
第40話 もう大丈夫
第41話 秘密
第42話 もう一つの日記
第43話 与えられざる者
第44話 黒魔術の冀求

となっていて冒頭は前巻の最期で、武良井の依頼で、響子がかぎまわっていた内科の田尻副部長に金銭を渡していたと思われる男・木村の調査に武良井が乗り出します。盛り場でその男をみつけた武良井は、誘導尋問で彼がホームレスたちに生活保護を申請させた上で、田尻の神診療科を受診させて薬を処方してもらい、それを横流ししていることを喋らせるのですが、逆上した木村とその仲間に逆襲されてしまいます。武良井が元警察官であったことを知った木村は、田尻から情報が漏れたの勘違いし、彼を呼び出して問い詰めます。

その中で、金銭目当ての薬の横流しと思われていた田尻の行為が実は若い研修医を守るためであったことがわかり・・という展開です。

後半部分では、薬の横流しが明らかになり、阿栖暮総合病院を田尻医師は辞職することになったのですが、この生活保護患者の薬横流し事件をとりあげた記事には阿栖暮総合病院のことは一切書かれていないことに、なにか背後にいる勢力の巨大さを感じる武良井たちだったのですが、それを証明するかのように、阿栖暮総合病院の院長が院内交番の責任者「横堀」へ、院内交番の撤収を告げます。

これに対抗して、武良井のほうは、婚約者であった夏井美咲が急死直後に受けた緊急手術を行った医療チームの医師や看護師、技師の名前を美咲の母親から聞き出すことに成功します。武良井は、この記録が抹消されている緊急手術の秘密をつかみ、それを以前勤務していた警視庁の上司からリークして病院の不祥事を世間に出すことができれば、世間体を極度に期にする病院側が院内交番の廃止をこの不祥事の隠蔽ととられないように、廃止を撤回するに違いない、という目論見ですね。

そして、彼は、手術のもみ消しで病院側から見返りを受け取っていないように見える手術の助手を努めていた第一外科の伏見医師の狙いを定めます。彼は出世からは見放されているのですが、彼が嫌っていたり、仲の悪い医師はすべてどこかの病院に飛ばされてしまっているため、「黒魔術がつかえる」という評判のある医師なのですが・・という展開です。

第6巻 院内刑事は美咲の事故死の現場を見た看護師の心を溶かせるか?

第6巻の構成は

第45話 本当の死因
第46話 過去を変える
第47話 見えない給料
第48話 遠い日の約束
第49話 未来の選択肢
第50話 頼みごと
第51話 部長会決議
第52話 言えなかったこと
第53話 院内交番

となっていて、冒頭では前巻の最後で婚約者の夏目美咲の死因を、当時の手術チームの第一助手・伏見から聞いた武良井は。手術の執刀医であった榊原に美咲の本当の死因を教えろと詰め寄ります。榊原の口から語られたのは、美咲は階段の踊り場で発見されたのですが、心は「心臓破裂」。おそらく階段から意識的に飛び降り、どこか固い部分に旨を強く打ちつけたと推測されます。そして、それは。家族や親しい人に自分の意志とは違う「治験」を強く勧められ、強い副作用と痛みの伴う治療を継続することに耐えられなくなったから、と思われ・・という筋立てです。

自分が延命を訴えていたことが婚約者の美咲を追い詰めていたのか、と一旦は落ち込んだ武良井なのですが、それを告げた榊原の態度になにか不審なものをかぎつけます。武良井は、榊原が美咲の死が自殺だと推測しながらも、なにか腑に落ちないものを感じていると考え、美咲の転落の第一発見者で担当看護師だった「和田」に発見時の様子を聞こうと調べるのですが、彼女はすでに病院退職しています。

手がかりもここで途絶えるかと思われたのですが病院の給与システムで、退職し勤務していないはずの「和田」に病院側から引き続き給料が支払われていることをつきとめ、彼女の行方を探し始めます。しかし、ここで、腫瘍内科医の尼子伊織が彼女の調査を止めるよう圧力をかけてきて・・という展開です。

美咲が階段から落ちたときの様子をしっている看護師の「和田」は難病を抱える息子の養育費と治療費を負担してもらう見返りとして、病院を辞職した形にして、ひっそりと身を隠して暮らしているのですが、武良井の婚約者の死の真相を明らかにしたいという熱意がその頑ななな心を溶かすことができるか、といったところがキーになりますね。

少しネタバレしておくと、武良井の熱意というよりも和田の息子の独立心と母親を思いやる心が事態を変化させていきます。

レビュアーの一言

武良井が看護師の和田が口を開こうと思い直すところまで説得するのは、かなりの時間を要していて、あわや院内の部長会で院内交番廃止の決議がなされようか、というところまで追い込まれるのですが、そこを何とか食い止めて時間をつくったのは、病院内を急遽、警視庁の副総監するという計画です。

これは院内交番の責任者・溝内の計らいのようなのですが、武良井だけでなく、院内交番の警察OBは警察組織の中で、意外な影響力をもっているようですね。

武良井の婚約者・美咲が治験を受けていた「新薬」の開発・認可の影には製薬会社だけでなく国家権力も絡んでいるようなので、ここらは次巻以降の展開で注目しておいたほうがよさそうですね。

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