畠中恵「いわいごと」=やもめの麻之助に嫁が突然やってくる

江戸・神田の8つの町を支配町としている町名主の高橋家の惣領息子で、16歳を境に生真面目で勤勉な、両親や周囲の期待も集めた若者から、突然、「お気楽」な若者に転じてしまった麻之助を主人公に、彼の友人で同じく町名主の息子で遊び人の清十郎、武家の生まれで八丁堀の同心の家に養子に入っている相馬吉五郎といったサブキャストとともに、支配町でもちあがる様々な揉め事を調整し、解決していく、江戸風コージー・ミステリーの「まんまこと」シリーズの第8弾が本書『畠中恵「いわいごと」(文春文庫)』です。

愛妻・お寿ずが亡くなってから、再婚の話は数々舞い込みながら、いずれも縁が薄くまとまらず、周囲がやきもきしていた麻之助なのですが、今巻ではひょんなことからトントン拍子に話がまとまっていきます。

あらすじと注目ポイント

収録は

「こたえなし」
「吉五郎の縁談」
「八丁堀の引っ越し」
「名指し」
「えんむすび」
「いわいごと」

となっていて、まず第一話の「こたえなし」では、前巻「かわたれどき」で縁がまとまりけかけたかな、と思われた料理屋花梅屋のお雪から、彼女の記憶があったとき、麻之助のことを「おじさん」と呼んでいたわけを尋ねられます。どうにも答えようのない問を誤魔化すかのように、麻之助は、二十両の富籤に当たった三人の男が、当選する前は一緒にどこかに旅に行こうと約束をしていたのですが、いざ旅先を決めるとなると意見がまとならない、という揉め事の裁定をお雪と一緒にやることにします。麻之助は当時、旅の定番であった「お伊勢」参りを提案するのですが、三人とも承知しません。実は当選金を祝儀とかを除いて三人で分けると5両あまりで、とてもそれでは足りないため、三人が旅よりも叶えない望みには金額が不足していて・・という筋立てです。

果たして、麻之助が下した三人ともが満足できる裁定は・・といった展開です。

そして、お雪の「おじさん」と呼んでいた意味も謎解きの過程でわかってくるのですが、お雪の心はまだ決まらないままで・・という展開でもあります。

第二話の「吉五郎の縁談」では、麻之助の幼馴染の同心見習い・相馬吉五郎に持ち込まれた、同じ八丁堀に住む北山与力の娘・お紀乃との縁談がいよいよまとまりそうになります。ただ、もともとの許嫁である一葉が、同じ屋敷内に暮らしていてそこが少し難になりますね。一葉との婚約が解消されたのは、一葉が吉五郎を許嫁と思えず、他の男性に惚れてしまったのが原因で、わだかまりがあるようでないような感じで、新妻には少し気になる家庭環境ですね。

このため、一葉を嫁に出してから、吉五郎が嫁取りをする予定であったのですが、北山家のほうで、親戚で金遣いの荒さと多額の借金のある旗本がお紀乃を嫁にしたいという話をもってきたので、急いで吉五郎との縁談をまとめようという話になったわけですね。

ところが、奉行所内で、吉五郎の御用箱の中から、血まみれの鮪包丁がごろんと転がりだしたから大変です。この始末によっては縁談がつぶれるどころか、吉五郎のお役目も危なくなってきて・・という展開です。

第三話の「八丁堀の引っ越し」は、同心から抜擢されて吟味方与力になる相馬小十郎の引っ越し祝いに、たくさんの祝物が届くのですが、中でも立派なのは札差の大倉屋からの調度の数々です。しかし、大倉屋の祝いの目的は、相馬小十郎の先任者がなぜ役を解かれたかを突き止めることにあって・・という筋立てです。

ここで、麻之助が謎解きに参入することで、権力側が隠していきたい真実が明らかになっていきます。

ついでにいうと、前話で吉五郎の縁談が破談になったこともあって、小十郎の娘で吉五郎の元許嫁の一葉が客あしらいなど甲斐甲斐しく働いています。吉五郎との仲もそうこじれてはいないようで、これからの愉しみではありますね。

第四話目の「名指し」では、町名主が急死した上に跡継ぎがいなくなった4つの町の名主支配を臨時的に麻之助が務めることになる騒動です。臨時とはいえ、両国の大道芸人と支配町の親子が揉めてこじれたり、といった誰もが敬遠する町内の揉め事を麻之助が解決していくのですが、ここで花梅屋のお雪ちゃん以外との新たな出会いが起き、今まで煮えきらなかった彼女との縁の精算がされることになりますね。

第五話の「えんむすび」では、お雪との縁談が解消され、麻之助の縁談を町年寄の樽屋がまとめるとなり縁談を募集した途端、同時に三つももちこまれてきます。

しかし、持ち込まれた縁談は、いずれも町名主の娘で、江戸で一、二を争う美人で、大名家から側室に、と申し込まれている「お須江」、行儀見習いですでに武家奉公が決まっているらしい「お滝」、すでに縁談がまとまっているという評判の「お真津」の三人で、なぜやもめの麻之助のところに嫁に来たいかわからないものばかり。さらには前話で知り合った西森名主の娘・お和歌から最近お須江さんのグループからお稽古のお師匠さんのところでハブられているようだ、との相談もついでに受けることとなり・・という展開です。

この話で、今まで縁遠かった麻之助の嫁御が突然決まっていきますので、詳細は原書で。

第六話の「いわいごと」では、前話で突然決まった、麻之助の縁談が祝言に向かってどんどん進んでいくのですが、その前に、結ばれそうで結ばれなかった花梅屋のお雪の縁談話で生じたトラブルを解決しないといけなくなります。

Bitly

レビュアーの一言

今巻で麻之助の縁談をまとめるのは江戸の町年寄の一人・樽屋です。江戸の町年寄は奈良屋、樽屋、喜多村の三家で、いずれも元武家で、家康の江戸入府の頃から江戸入りし、世襲で町名主を統括して、実質的な行政を司っていました。

こうした制度は江戸幕府だけではなく、江戸や長崎・京都・甲府・福井・鳥取・敦賀・小浜・尾道・酒田などでは町年寄、大坂や岡山・高知・堺・今井・平野・鹿児島では惣年寄(総年寄)、名古屋で惣町代、姫路・和歌山・松江・松坂では町大年寄、岡崎では惣町年寄頭、青森では町頭、新潟では検断と、名称は異なっているものの同じような統治制度はあったようです。

当時の武家の数は全体人口の約7%とも言われていますし、もともとは戦闘集団としての位置づけですので、江戸時代、大きな反乱や騒動とかが少なかったのは、こうした町民が自ら治める「町年寄」の制度があったおかげともいえるかもしれません。

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