明治維新を看取った「幕末の志士」の物語=谷津矢車「ぼっけもん 最後の軍師 伊地知正治」

徳川幕府と薩摩・長州の官軍が激突した戊辰戦争・鳥羽伏見の戦いで、自軍より3倍の勢力の幕府軍を撃破。さらに明治政府を揺るがした西南戦争ではいち早く西郷軍の敗北を予告し、「類稀なる軍略家」と呼ばれた伊地知正治とその三人の弟子を通じて、新政府側からの戊辰戦争と士族の反乱と戦後の鹿児島を描き、明治維新に別の角度から光をあてたのが本書『谷津矢車「ぼっけもん 最後の軍師 伊地知正治」(幻冬舎)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

明治十五年 鹿児島
一章 鳥羽伏見の戦い
明治十五年 鹿児島2
二章 宇都宮・白河奪還戦
明治十五年 鹿児島3
三章 会津戦争
明治十五年 鹿児島4
四章 明治 1
明治十五年 鹿児島5
五章 明治 2
明治十五年 鹿児島6
六章 明治 3
明治十五年 鹿児島7
終章

となっていて、Amazonのレビュー蘭では

鳥羽伏見の戦い、戊辰戦争。わずか700の兵で4倍の幕府軍を撃破した片眼片足の不自由な「類稀なる軍略家」伊地知正治。ぼっけもんと呼ばれる激烈な性格で兵を駒として操り薩摩人として勝ち続けてきた伊地知が新時代に目にしたのは、荒廃した土地で貧困に喘ぐ民の姿。大久保利通、西郷隆盛と並び称される勤王の志士の胸に、最後に去来するものとは。

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となっていて西郷隆盛からは「伊地知先生さえいれば、薩摩の軍略は大丈夫である」と評価され、戦闘に長けた士は多かったのですが、戦略家のいなかった薩摩軍で重きをなしたのですが、勝海舟からは「恐ろしい智者であったが、また気違いのような男であった」といわれたように薩英戦争では大砲の上にまたがって戦略をたてたようにとびっきりの奇人でもありました。

本書では東京から鹿児島に帰還した伊地知と七之助、大智、源之丞の三人の弟子によって西南戦争で荒廃した鹿児島の様子が描かれる「鹿児島」編と、伊地知から弟子への炉端話として鳥羽伏見の戦いから会津戦争を中心とした戊辰戦争の戦記が並行して語られます。

まず鹿児島編のほうでは、新政府の役職を退いたとはいえ、非常勤の顧問となっている伊地知の元へ弟子入りした三人の青年たちが変わり者の伊地知のもとでこき使われる姿が描かれるのですが、その三人の境遇が、西南戦争で主力となった私学校の生徒の生き残りであったり、幕政時代は江戸詰の家であったのが、明治維新で鹿児島へ帰藩し、その後の廃藩置県で失職した武士階級の子供であったり、と当時の鹿児島らしく、いずれも「敗れた者」であったのが特徴です。

そして一応は大人しく修行をしていたのですが、伊地知が上京している隙をついて、過去の恨みを晴らすかのように反政府運動に参加し・・という筋立てです。ここらは、鬱積した不満が暴発して明治政府への反乱を企てる元私学校生徒たちとそれを応援する風を装って反乱勢力のガス抜きをしている私学校の生き残り幹部など、明治初期に反乱を鎮圧された日本のあちこちで展開されたであろう複雑な政治情勢が垣間見えます。

そして、並行するもうひとつのストーリーでは七之助たち三人は夜毎、伊地知から鹿児島の武士階級がヒーローであった幕末戦争の様子を物語ってもらうのですが、そこでは徳川慶喜の大政奉還で突然、政権運営をぶん投げられて混乱する官軍の中で、西郷隆盛にその軍略の才能を見出され、薩摩軍の参謀として鳥羽伏見から会津へと幕末・明治初期の激戦を転戦していく姿が描かれます。

結果だけをみれば、その圧倒的な兵力と最新鋭の武器により火力を駆使して、幕府軍や会津・仙台を中心とする東北列藩同盟と打ち破っていくことになるのですが、実は古臭い武器を装備した幕府側の諸藩とは違って、幕府の大鳥圭介に率いられた伝習隊は最新の装備で武装しているほか、土方歳三率いる新選組は血を血で洗った幕末の京都を生き残った猛者ばかりですし、会津軍は討ち死を覚悟した「死兵」といってよく、楽勝というわけにはいかず・・といった展開です。

新選組副隊長・土方歳三、幕府伝習隊隊長・大鳥圭介、幕府艦隊提督・榎本武揚、会津の銃姫・山本八重といった、敗者の美学とともに語られる旧幕府軍と、最新の兵器を駆使した新政府軍との激しい戦闘の様子を原書のほうでたしかめてくださいな。

ネタバレ的に付け加えておくと、幕末戦争や明治初期の士族反乱は新政府側の一方的な勝利ではなくて、ひとつ歯車が狂っていれば幕府側が圧倒し、日本が二つに割れていたものであったことがわかります。

レビュアーの一言

本作は、読み応えは十分な、「幕末戦争の勝利者側」と「士族反乱の鎮圧側」、そして明治という時代で貧しさにあえぐ民衆という、明治時代の語られることのあまりない日本の歴史に深く焦点を当てた作品です。

”X”では

といった感じでレビューされていて、概ね好意的なレビューとなっています。

主要な歴史的出来事が詳細に描かれており、特に戦争の描写は非常にリアルで、主人公の伊地知正治を通じて、明るいところばかりではなかった「明治」という時代の矛盾と困難が巧みに表現されています。

特に、新政府に反抗する旧幕府勢力との最大の戦いともいえる会津戦争や、明治維新の終結を象徴する重要な出来事となった西南戦争とその後は、日本の過去を理解するための鮮やかなガイドとして、歴史愛好家には特にお勧めの一冊です。

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