もっとも安い食べ物が、もっともうまい ー 西川治「世界ぶらり安うま紀行ーもっとも安い食べ物が、もっともうまいー」

世界のグルメ紀行は数々あれど、高価なものがうまいと書かれても、それは当たり前のことで、「もっとも安い食べ物が、もっともうまい」と断言したルポはちょっと小気味がいい。それが本書 西川治「世界ぶらり安うま紀行ーもっとも安い食べ物が、もっともうまいー」である。

 
構成は
 
楽しい昼食は、いつも街の中にある
 いつも食べたいブルスト(ソーセージ)/小さな村の小さなパン屋さん/小さい実のつまったもの/イタリアの駅弁/スープを飲めば、冷麺のうまさがわかる/カルクックスは、韓国式手打ちうどん/裏町で子どもたちと食べたトゥポギ/大学生街で食べ始められたサムギョプサル/ホーショールがあるのだけれど/混沌の味覚 バイン・ミ・ティット/バイン・セオというベトナム風お好み焼き/素焼きのタジンを待ちながら/トルコ式ピッツァがあるって知ってますか/鯖をはさんだサンドイッチをかじりながら
 
甘いおやつと飲み物の効果は絶大
 椰子の木が一本あれば・・・/なんだかなつかしい、ハロハロ/こんなに甘いものを食べたことはなかった/甘いミント_ティーがなくては、始まらない/ナツメヤシの実/悪魔のような果物の王様/カボチャの馬車でなくて、お菓子/ポケットの中のクリ/油で揚げたいくつかのお菓子がある/佐藤キビのジュースにもスパイス/人参だけで作ったデザート/人参汁の絶対的効果/ルジャックという果物スナック/朝から菓子をクエと言われてもなァ/カキ(cachi)って何だろう?/
 
米料理・鍋料理は、どこでも食べたい
 アランチーニを食べながら/チーズを使った二つの料理は・・・/石焼ビビン・バップ/韓国式海苔巻きは、うまい/ムールの汁かけご飯/原価ゼロの魚の頭のカレー/ガラム・マサラ、すべてがカレー風味
 
見た目は悪いけど、味は最高
 ウニはパンと一緒に/新鮮な内臓を生で/見た目はグロテスクだが、その味には自信あり/唐辛子を見ただけで舌が潤ってくる/豚の顔が笑っている/この世に、こんなうまいものが!子豚の丸焼き/パンの木って、あるの
 
思い出深い夕食、旅の醍醐味
 チリ・ドッグは、チリがボタボタと/ブイヤベースの元祖/カラマーリの感慨/パーティー・サンドイッチを一人で食う/ミッパチャンでかなりの酒を呑む/食べてはいけない海亀のサテの味は/バナナの葉に盛られたサテ七〇本を食べつくす/ソムタムは美容食/五月二十六日の噴汗ディナー/船上の食卓/「清蒸海鮮」の思い出
 
となっていて、出てくる食べ物の多くは、街角・漁港の屋台や場末の店で食べ
る「肉まん」「麺」、「串焼き」、「ソーセージ」、「菓子」、「果物のデザート」等々、基本「ポケットの中の小銭」で買える類いのものである。
 
 

 
そして、例えば、モンゴルのボーズ(小麦粉の生地に肉や玉ねぎなどを包み蒸したもの)では
 
うまそうなボーズだ。
一つ、つまむ。手に持てないほど熱い。そいつを食う。中から熱い肉汁が、飛び出してきた。当然「アチチ」となる。刻んだ肉が硬い。肉はこうでなくちゃ。ハンバーガーや餃子の中のひき肉と違う。歯にコリコリ当たる。かみ砕くと、じわりと肉の味が滲み出してくる。
 
とか、インドのベルプリという菓子は
 
ピンポン球ぐらいの大きさで、そのなかに酸味が強い液体が入っていた。
インド人は好きだという。それがのどの渇きを癒してくれるらしい。危険だと知りつつも、乾きに耐えかねて思わず手にしていた。
酸味が強いが、渇きを癒してくれ、暑さでぐったりとした体に喝をいれれくれた。
しかし、その結果は・・・。
 
とか、バリでは海亀のサテは
 
大きなたらいのはしに、肉片を刺したサテをソースに絡めている。「いったい、何の肉か」と聞くと、デワさんは「海亀だ」と言った。
「海がけは禁止されているのでは」と言うと、デワさんはニヤリと笑った。そのニヤリですべてが分かった。そうだろう。いくらおかみが禁止しても、今まで食べてきたものを「はい、そうですか」と、あっさり止められるものではない。
(中略)
海亀の肉と、海亀の大きな心臓のかけらがさしてある。車に乗り、そいつをかじった。なかなか旨い。スパイシーなタレにせいかも知れないが、嫌な臭いはしない。
肉は硬くない。うまい。二センチ位に切り分けられた心臓はクセもさほどなく、濃厚でうまい。
 
のように、それは庶民のものであるがゆえに、街角の匂いと一種の危なさを醸し出しいるのだが、それが絶妙なスパイスになっていて旨そうだ。
 
ただ、本書の楽しみ方は、世界各地の安くてうまい物の話を読むというだけではなくして、街角の、多くの「普通」の人々との出会いである、
 
それはソウルの街角でトゥポギを子どもたちと食べる時の
 
鍋に入っている赤い物は、韓国だから唐辛子の色だ。串に刺してもらい食べてみ

た。やはり辛い。だが、子供たちも食べられるぐらいだから、激辛ではない。牛肉

の出しがきいていて、うまい。三本食べた。子供たちは五本ほど食べていた。
 

子供たちが遊んでいる路地に、安い値段で食べられるものがいろいろとあるの

は。潤いがあっていい。またこういうところで食べるのは、実にうまいものだ
 
とか
 
イタリアで、意思に反してウニを盗み食いをした時の
 
さっきから食べていたのは、この男のウニではなかったのか。「じゃ、誰に払えば

いいのか」と聞くと「この店の尾横は、ヴィーノでも飲みに行っていないから、金

はいいだろう」と少年まで言う。それでは盗み食いになるではないか。困惑してい

ると、少年は胸の前で十字を切った。ぼくにもそうしろというのだ。男も神妙に目

をつむり十字を切った。それでよしと男は頷いた。

ぼくも十字を切ると、少年も男も「それでいいんだ」と言わぬばかりの顔をした
 
などなど、街角のふれあいは絶好のスパイスでもあるのだ。
 
さてさて、世界の街角の「安旨」を披露した本書の最後の方の
 
動物の世界では、ライオンは肉しか食べない、キリンは草しか食べない、同じ木の

葉であってもコアラは、毒のあるユーカラしか食べない。人間も食べ物にはじつに

保守的である。国境という線を超えるとまるで違う食域になる。人間は保守的で

あったから、その国のうまいものが国旗のように残っているのだ。
 

特に小銭で口にできる食べ物は、国境を越えると言葉と同じように受け入れないの

だ。
 

どうして安い食べ物が、もっともうまいのだろうか。話は簡単だ。その料理を作る

食材が、その国でもっとも大量に、しかも安く手に入るからだ。気の遠くなるよう

な昔から、そこで手に入りやすい食材で作られてきたものだ。調理法が、これ以上

どうにもなっらないくらい洗練されているはずだ。そして大量に手に入る材料

は、その国の気候にあっているから無理がない。うまいものを食べるにはその国で

調理されたものを、その気候の中で食べるに限る
 
を引用して〆としたい。
 
「もっとも安い食べ物が、もっともうまい」。至言である。
 
 
世界ぶらり安うま紀行: もっとも安い食べ物が、もっともうまい (ちくま文庫)

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