旅の食事の基本は「朝」にある ー 西川 治「世界ぐるっと朝食紀行」(新潮文庫)

(この記事は2018.11.24にリライトしました)

旅本でうまいもの紀行というのは、よくある話で、そういうテーマで1冊をものしようとすると、かなりの工夫か味付けか、あるいはグロものか、といったことが必要になるのだが、「朝食」だけにテーマをきめた旅本というのは、ほかにあまり例をしらない。

しかも、とりあげられている国は

トルコ、モロッコ、イタリア、フランス、オーストリア、ドイツ、デンマーク、スコットランド、イギリス、カナダ、アメリカ、メキシコ、オーストラリア、フィジー、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナム、インド、モルディブ、モンゴル、韓国、香港、台湾、中国、そして日本

とアフリカ、南米以外の国を幅広くカバーしている。

おまけに、旅本というとあやしげな屋台やポン引き、あるいは美しいが危険な美女や、おカマといったものが登場するのがおきまりなのだが、「朝食」をテーマにしているため、そうした胡散臭い色合いはなく、非常に健康的で明るい旅本である。

【注目ポイント】

で、どんな朝食がいいかなー、というのは、もうそれぞれのお好み次第だ。こうした「食べ物」をテーマにした旅本は、冷静な態度で読むもんじゃなくて、読者それぞれの偏見と独断で、これは美味そうだ、とか、これは勘弁してくれ、とか、こんなスカした食い物はいやだ、とか我が儘勝手な評論をしながら読むのが一番正しい読み方だと、これも勝手に決め込んでいる。

なんにしても、朝、昼、晩の三食の中で、朝食は旅先で食べるのが一番美味い気がしていて、それは国内外を問わず、ホテルのありきたりのバイキングだろうが、市場のガタガタいうベンチとテーブルで食べる食事であろうと変わらない。
そうした「旅先の朝食」が、これでもか、というぐらいにでてくるのだから、これはもう食べる、というか読むしかないだろう。

で、いくつか引用させてもらうと、まずは最初の一篇のトルコのバザール

三分の一ほどに切ったパンを、今度は縦に切り裂き、なかのやわらかいところを毟り取りその空いたところに、先程、刻んだ羊の腸を詰め、やはり、先程、毟り取ったパンをその上にのせた。肉のこんがり焼けた匂いだ。口にすると羊の強い匂いがする。だが、嫌な匂いではない。香ばしい匂いだ。滑らかな舌座割は羊の脂肪だ。肉の塊とおもっていたのは、羊の脂肪、そこに羊の腸をきっちりと強く巻きつけていたのだ。

美味いものは朝食しかないといわれるイギリスは

あのうまいベーコンエッグにカリカリのトースト(トーストもまり厚くてはいけない。それも前の火に買っておいたやつでなくては)にバターと甘ずっぱいマーマレード。もちろんイギリスの朝食時は、ぼくも背広に清潔なワイシャツ、ネクタイというスタイルである。トーストとベーコンエッグだけではない。ステーキがでたり、キッパー(スモークしたニシン)、キドニーのシチュー、ブラックソーセイジ、コールドミート、ポーリッジ、数種類の卵料理が今でもホテルではでてくるところがある。その料理の数が二十種類以上はあるはずだ。
  それに朝からでも伝統的にビールを飲んでもよいとされている。

という具合であるし、ベトナムの屋台料理の定番フォー・ガー(鶏入りフォー)は

 まず、麺ともやしを茹でる、茹でる時間は沸騰している湯にざっとつける程度だ。それをどんぶりにいれる。日本のラーメンのどんぶりより小さい。
  鶏の肉を削り、それをのせる。そこに、熱いスープを注ぐ。このスープは、本来は、ハノイで食べられている犬の骨がもっともうまいらしいが・・・・。ここは鶏のスープ。ちょっと薄いスープだ。テーブルにはそのとき一緒にザウ・ムォンと生のもやしがでてくる。いきなり食べるのではない。食べようとすると、その店の人が目の前のヌクマム、青い柑橘のチャイン、唐辛子を発酵させたトウオンオット、バナナの果汁から作られた酢につけたニンニクをいれ味を調え、自分の味覚にあわせるのだと、手振りで教えてくれた。調味をし、ペラペラのアルミのレンゲで味を見て食べ始めた。

といった感じだ。どうです、思わず頬が緩んでしまいそうになるでしょ。

【レビュアーから一言】

まだまだ、たくさんの国、たくさんの朝食がある。まずは御一読あれ。それにしても、また旅先の朝食が食べたくなった・・・。

どっか、行くかな。

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