歴史を「人文」の立場ではなく「地理」「地形」の立場からとらえ直して、歴史の謎を推理し直した一種の歴史の謎解き本。若干、牽強付会的なところもあるが、「文化」「人物」という視点から捉えるのが一般的で、その人物や政府の行動が実は、地勢、地形などの外形的な影響の産物なのでは、という視点から歴史をみるのは、ある種膝を打つような創刊感があるのも確かである。
収録は
第1章 関ヶ原勝利後、なぜ家康はすぐ江戸に帰ったか
第2章 なぜ信長は比叡山延暦寺を焼き討ちしたか
第3章 なぜ頼朝は鎌倉に幕府を開いたか
第4章 元寇が失敗に終わった本当の理由とは何か
第5章 半蔵門は本当に裏門だったのか
第6章 赤穂浪士の討ち入りはなぜ成功したか
第7章 なぜ徳川幕府は吉良家を抹殺したか
第8章 四十七士はなぜ泉岳寺に埋葬されたか
第9章 なぜ家康は江戸入り直後に小名木川を造ったか
第10章 江戸100万人の飲み水をなぜ確保できたか
第11章 なぜ吉原遊郭は移転したのか
第12章 実質的な最後の「征夷大将軍」は誰か
第13章 なぜ江戸無血開城が実現したか
第14章 なぜ京都が都になったか
第15章 日本文明を生んだ奈良はなぜ衰退したか
第16章 なぜ大阪には緑の空間が少ないか
第17章 脆弱な土地・福岡はなぜ巨大都市となったか
第18章 「二つの遷都」はなぜ行われたか
となっていて、全体的に戦国から江戸時代にかけての考察が多いので、NHKの大河ドラマや歴史ドラマのお好きな方は、呑み屋での裏話的ネタとして仕入れておいていいと思う。
「地形」的な色合いが強いのは前半の方で、最後になるに従って「地政学」的な色合いが強いのだが、まあこの辺は肩をいからせずに読めばよいものかと。
細かな内容をレビューしてしまうと、ネタバレそのものになってしまうのだが、
家康が秀吉に命じられて関東入りするのだが、
家康はこの関東の現地踏査で「宝物」を探し当てていた。それを手に入れれば、間違いなく天下を確実にする代物であった。さらに、その宝物はまだ誰にも発見されていなかった。その宝物とは、日本一高台で、日本一比翼で、日本一豊富な水がある温暖な「関東平野」
で、それが、その後の日本統一につながるとか
頼朝が鎌倉に幕府を開いたのは
京都は劣悪な衛生状態だった。頼朝は手が付けられないほど不衛生な京都を嫌った
せいであるとか
赤穂浪士討ち入りの浅野家や赤穂浪士への処遇、吉良家への対応の裏には
吉良領地の直上流部が岡崎の徳川領地であった。徳川領地と吉良領地は矢作川で隣接する上流と下流の関係にあったのだ。これに気がつくと、今まで誰も気がつかなかった両大名の間の厳しい物語が浮かび上がってくる。(中略)優位の者は川の水を優先的に使い、洪水を受けないよう対策を打つ。劣位の者は、水を取水したり治水麹をするにも、優位者の了解がなければできない。優位な者はさらに豊かになり格差は広がっていく。この優劣関係は何十年間、何百年間も覆ることはない。その優劣関係がこの矢作川でも厳然と存在していた。何百年間もの長い間、矢作川の圧倒的な優位者は吉良家であった。
といった事情がある、など「ほー」と思う謎解きが満載である。
まあ、どこまで真実か、なんてことは歴史家の判断に任せるとして、歴史好きの読者たちとしては、筆者の言説にうかうかと乗りながら、日本史の秘話を知ったぞ、てな感じで楽しむのが一番ではなかろうか。
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