「田舎の事件」は自然味あふれるも、隠し味が「奇妙な」味 ー 滝田務雄「田舎の刑事の趣味とお仕事」(創元推理文庫)

田舎の警察署の刑事課を舞台に、ワサビ泥棒であったり、ストーカーの殺人未遂事件であったりを、田舎風に味付けした事件を、探偵役の「黒川鈴木」が見事な推理で解決していく話なのだが、この投げやりな名前を見てもわかるように、颯爽としたミステリーではない。

どちらかというと、黒川鈴木と白石高作の漫才チックなやり取りにあるとか、黒川の奥さんのストレートで、奇想天外な行動を主菜に、推理をオカズにするという、少し変わった味のミステリーである。

【収録とあらすじ】

収録は

「田舎の刑事の趣味とお仕事」
「田舎の刑事の魚と拳銃」
「田舎の刑事の危機とリベンジ」
「田舎の刑事の赤と黒」
「田舎の刑事のウサギと猛毒」

の六編。

 

第一話の「田舎の刑事の趣味とお仕事」は、彼らが住む町のさらに山の中にあるワサビ田から300本以上の天然ワサビが盗まれる事件。事件を難しくしたのは、事件当夜、目撃された車のライトで推測される車種と数人の容疑者が持っている車が一致しないこと。
ここは、探偵役の「黒川」がオンライン・ゲームで解き明かす「ダンジョンの謎」が解決の鍵となるのだが、黒川と白石と奇妙な人間関係がゲームの途中に明らかになって、ツッコミの黒川とボケの白石という役柄を、シリーズ第一作らしく、舞台設定がされている。

第二話の「田舎の刑事の魚と拳銃」は、近くに山林で杉の木の幹に、銃弾が打ち込まれていた事件の謎を解き明かすもの。
この銃弾は、改造拳銃から発射されたものであるらしいのだが、この改造拳銃の出どころと、なぜ、田舎町の山中で拳銃を撃つ必要があったのか、というのが謎解きに密接に関連する。

ネタバレ的にいうと、この拳銃をつくった町工場の倒産に隠された秘密、というところですね。

注目しておきたいのは、黒川の奥さんが、山林の近くのダム湖でとれる「ブラックバス」をたくさんもらって、黒川に食べさせていたのが発覚するところ。第一話では、エキセントリックながら推理の鋭い「刑事」としてデビューした黒川のイメージが、ぐずぐずと崩れていくきっかけとなっている。

第三話の「田舎の刑事の危機とリベンジ」は、この町のだだっ広い田んぼの中にあるコンビニ強盗事件に、電球を買いに来た黒川刑事がまきこまれる話。謎解きは、コンビニ立てこもっていた犯人たちが、周囲をマスコミや警察が取り巻くなか、店内から姿を消し、マスコミの背後に姿を現すというトリックを解き明かすもの。ネタバレ的には、犯人は関係者の中にいる、という古典的なもの。

この話でも、黒川刑事の奥さんが登場して、犯人に捕まっている「黒川刑事」が電球を買って帰ってこないところを詰ったり、いつの間には糠味噌の世話のため、旦那を放っといて家に帰ったり、といったかなりのマイペースなところを披瀝していて、こちらの方が謎解きより楽しみになったりする。

第四話の「田舎の刑事の赤と黒」は、事業に失敗して莫大な借金を負っている事業家の病気で亡くなった奥さんがもっていた、高価なルビーの盗難関連の事件。とはいっても、厳密には犯人探しではない。

犯人は「黒いカラス」が盗んでいった、とこの事業家が主張していて、カラスではなくカラスがもっていったルビーを捜索するよう懸賞金を出していて、このためにやってきたトレジャー・ハンターの一人が、学校のトーテム・ポールを壊すのだが、壊れたのは2基なのだが、犯人が壊したと認めるのは1基のみ。犯人の目撃者は、彼が二基壊すのを見た、と主張するのだが、真実はどちら、というもの。

真相は、この目撃者の証言が嘘なのだが、彼が嘘をついた理由の謎解きが、この話の本筋。もっとも、この謎よりも、ルビーの持ち主だった事業家の奥さんの真意のほうがちちょっと怖い。

最終話の「田舎の刑事のウサギと猛毒」は、ストーカーの相手女性を青酸カリで殺害する謀みを阻止するもの。実は、このストーカーの男は、女性を殺害する前に自動車で転落自殺しているのだが、彼の死後確実に、その女性を殺害するための仕掛けとは・・・、というのが今話の謎。

このストーカーの男、自殺した車の中に、青酸カリをまぶした「白米」を大量に積んでいたのだが、彼が購入した米はまだたくさん残っているはず。この米を食べさせて、彼女を殺害しようとしたのでは、という推理がされるが、この女性は極度の自然志向で「玄米」しか食べないのだが・・・、といったところを解きほぐすもの。まあ、玄米を「精米」すると何ができますか、というのと、その使いみちがヒントかな。

【レビュアーから一言】

最初の話の黒川刑事と白石刑事との感情的なもつれは、最終話まで続いていて、黒川の白石への意地悪はねっちり度を増していくのだが、それにもまして、黒川刑事の精神状態が、奥さんの攻撃によって崩壊していくのが、なんとも奇妙におかしくて病みつきになる感じですね。

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