大規模客船火災に立ち向かう、新米女性消防士「蘭」に声援をおくろう ー 佐藤青南「消防女子!! 女性消防士・高柳蘭の誕生」(宝島社文庫)

女性進出が進んできて、多くの職業では女性の「就業比率」ではなく「女性の管理職比率」が話題になることのほうが多いのだが、未だに、その危険性などから女性の就業比率が少ない職業は厳然として存在する。それは、公務員の中では、消防、警察、自衛官といった職で、それぞれ職員総数に占める女性の割合は

消防 2.6%(H29.04.01)
警察 8.5%(H28.04.01)
自衛官 5.9%(H27年度末)
海上保安官 6.2%(H27年度末)

といった数値で、本書の主人公の職業である「消防士」は「女性の少ない職場」の代表といっていい状況である。
本書は、そんな「男社会」の中で、奮闘する新米・女性消防士の物語なのだが、けして「女性の成り上がり」物語ではなく、若い女性消防士が、火災への出動や救助活動を通じて成長していく物語である。元気な「蘭」の活躍に声援を送るうちに、こちらが元気づけられる物語でもある。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一出場
第二出場
第三出場
エピローグ

となっていて、これだけ見ると味も素っ気もないのだが、まず、プロローグは主人公・高柳蘭の誕生のシーン。当直勤務の終わり頃に、妻が産気づいたという報せをうけた、蘭の父親・高柳暁がかけつけるあたりに若い父親の喜びを感じるとともに、主人公「蘭」の名前が、花の蘭の英語名「ファイアーウィード」に由来しているあたりが、「消防女子」の誕生を暗示していますね。

「第一出場」は、成長し父の跡をついで「消防士」となり横浜市消防局湊消防署の消防隊に配属された主人公「高柳蘭」の登場のところ。新人のデビュー戦となる消防学校で開催される「救助技術大会」への出場のために、上司や先輩消防士のしごきに負けずに頑張るあたりや、別れた妻の再婚先に押しかけ、無理心中をしようとする元旦那の放火自殺の現場で母子の救助に奮闘する蘭の姿に、こちらも大応援したくなりますね。

この章の途中で、「蘭」の空気呼吸器のボンベが点検しているにもかかわらず1/3ぐらいまでエアが抜けている、という出来事が起こる。この出来事は、以後もちょくちょくあって、この物語全体を貫く「謎」になるので注意しておきましょうね。

「第二出場」では、第一出場の途中でおきたエア切れの犯人探しに、同じ救急隊の先輩消防士と乗り出すわけなのだが、皆が犯人に思えてきて、疑心暗鬼にかられて消耗していく「蘭」の姿が描かれる。そのうち、隊長から「消防士失格」扱いをされたり、自宅に脅迫の手紙が届いたり、と前途多難なんである。
出動した火災は、観光地化して、昔から店を営む人たちが次々といなくなってしまう横浜の中華街でおきる火災で、要救急者を救助できなかった「蘭」に苦い記憶を残すことになりますね。

「第三出場」は、今巻最大の火災である大型客船「宝来号」での鎮火と取り残された人の救出劇がメインなのだが、「蘭」のボンベのエア抜け事件をめぐっても、はらはらと同じ消防隊に属する隊員への疑惑が晴れていく。さらには、彼女の同僚の、マッチョのイケメン・小野瀬と、「救助技術大会」へ向けた共同練習がきっかけに、ちょこちょこ出会うようになる。このへんが、このエア抜け事件の解決の鍵なのですが、これ以上は、原書で確認をしてくださいな。
火災の場面のクライマックスは、船の上層にあるデッキに取り残された乗客、船員の救助に、はしご車のバスケットに乗って、一人で向かうところ。救助の途中で、客船の船体にか体を叩きつけられた「蘭」が意識を失うところでは、とてもハラハラしてしまうのだが、そこはご安心。「蘭」は凄いヤツです。

この章で、蘭の父親の殉職と、蘭の属する消防隊と隊長「五十嵐」との関係が明らかになる。蘭への仕打ちは、恩義のある先輩消防士である蘭の父親への義理立てでありますね。

【レビュアーから一言】

エア抜け事件の犯人のほうは、恋敵へのやりすぎた復讐ということなのだが、復讐をしかけられた方に「恋敵」の自覚がないので、犯人をなおさらわかりにくくしていますね。

そして、本書の読みどころは、エア抜け事件や、火災の消化での「蘭」の活躍といったところであるのは当然だが、このほかに、

「マルニ」とは要救助者のことだ。「マルイチ」は火災、災害、救急のフィ照射、「マルサン」は行動弱者や一人暮らしの高齢者、「マルヨン」は歌詞による死者、焼死者。そのほか横浜市消防局では、災害通信における多くの略号を定めている(P31)

当直勤務の間、隊員全員の食事を用意するのは新人の役目だ。献立から調理まで、すべて任されている。
食事は昼、夜、翌朝と一当直につき三回。一人につき千円ずつ徴収した予算からやりくりする。・・・消防隊五人と救急隊三人、併せて八人分の食材を毎度調理するのだから、けっこうな重労働だ。
とはいて調理以上に面倒なのが、消防士の料理にたいする、異常なまでのこだわりだった。(P54)

といった消防隊の裏話。本当の話かどうかは検証がいるが、「消防女子」の世界の雰囲気にどっぷり浸れるTipsでありますね。

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このシリーズにはコミック版も出ていますね

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