横浜で起きる「連続火災」に隠された「謎」を解け ー 佐藤青南「灰と話す男 消防女子!!高柳蘭の奮闘」(宝島社)

前作「消防女子」では、男社会の中でのしごきや、酸素ボンベのエア抜き事件などを乗り越えて、父親譲りの「消防魂」を発揮して大型客船火災で大活躍をした主人公・高柳蘭であったが、横浜市湊区内で連続して起きる「火災」の原因究明に乗り出すのが今巻である。

 

【あらすじと注目ポイント】

物語の出だしは、四階建てマンションの家具とかなにもない部屋から火事がおこるシーンからスタートする。この火事で、蘭たちは、部屋に取り残された赤ん坊や、オタクの男などを救出するのだが、その火事の原因をめぐって、警察と消防とがいがみ合うという滑り出しである。

というのも、この湊区管内で二ヶ月内に42回の出動をしているのだが、そのうち、16件が半径1.5キロ圏内に集中し、出火原因すら明らかになっていないからで、放火を疑った警察が「マルツウ」を隔離して尋問を始めたため、同じく原因を調べている消防の方と軋轢が死生じた、という次第。この場面で、今巻の「敵役」として、いい味を出している神奈川県警本部の松永という刑事が登場するのだが、いかにも、といった悪役ヅラで登場するので、しっかり記憶にとどめておきましょう。この時、警察とあらそうのが、現場検証では凄腕の、蘭の父親の同僚・木場で、この人の通称が「灰と話す男」なんですな。
ちなみに「マルツウ」というのは、消防の隠語で「火事の通報者」のことであるらしい。

 

で、話のほうは、自宅店舗が火事にあって、今は新聞販売店で働いている橋上という男や、そこのカメラマンくずれの店主・瀬戸にいびられている「野口」という不器用な男であるとかが登場。橋上は、自宅店舗が火事で焼失した時の消火の順番で消防に恨みを持っていたり、野口も何やら不満を抱えていたり夜中に現場あたりに居合わせたり、といった感じで、いかにも「犯人では」といった雰囲気を漂わせながら進行していく。
途中、蘭の父親の同僚で、悲惨な火災のトラウマから現場を離れ離職した、「野口」という消防士のエピソードも交えられて、「いかにも」といった設定がされていく。

そして話が大きく動くのが第二章で、この章で起きる火災で蘭の先輩の「荒川」さんが、火災による天井崩落に巻き込まれて殉職してしまう。この家には、痴呆症気味の老人男性が一人住んでいて、内部はゴミ屋敷と化していたのだが、火災の際に偶然起きた「地震」によって、被害が大きくなったというものである。
「荒川」は「蘭」がしごかれて凹んでいる時に親身になって相談にのってくれ、さらには酸素ボンベのエア抜き事件でも、周囲が信じられなくなった彼女を立ち直らせた「恩人」で、「蘭」の落ち込みようは尋常ではない、といった展開となる。

事件の方は、個人的に火災原因を調べていた「蘭」の彼女の同期のマッチョマンで消防のエース「小野瀬」によって、「放火」、しかも「凹面レンズ」を使った故意の「収斂」による火災であったことがつきとめられていく。

ただ、こうした謎解きの過程で、仲間の殉職のショックから、健気にも立ち上がる「消防女子・高柳蘭」といった感じでおさめないのが、このシリーズの特徴で、前作の「大型客船火災」にひけをとらない「地下街火災」が、今回のクライマックスのアクションシーンである。

死者が続々出る中で、前述した「橋上」の息子が、地下街の中の店に取り残されていて、彼を救出するために、ダクトを伝って、体重の軽い「蘭」と、細めの体型の「永井」が地下街へ潜っていく。二人は救出に成功するのか、そして、一連の「放火」の犯人は・・、といった感じで展開していくのである。
ちなみに、消防エースの「小野瀬」は、蘭と一緒に救出へ向かうことを志願するのだが、ガタイがデカすぎ、体重も重すぎ、ということであえなく落選。今回も、救出のクライマックスでは蘭ちゃんにいいところを見せられませんでした。

さらに、ちょっとネタバレしておくと、物語の最後のほうで放火の犯人が捕まるのだが、安心して地下街火災の救出場面のほうへ意識を集中していくと、意外などんでん返しに会いますので、念の為、注意喚起しておきます。敵役だった県警の松永刑事が実は真面目な「警察官」であったことも判明しますね。これ以上の詳細は、原書で確認してくださいな。

【レビュアーから一言】

先輩の殉職から立ち直っていく蘭ちゃんの姿も健気なのだが、もっと泣かせるのが、物語の最後の最後、殉職した「荒川」さんの親子が、奥さんの実家のある仙台へ引っ越すのを、蘭たち浜方署のメンバーが見送りに行く場面。彼の息子「隆太」の

ぐっと足を踏ん張りながら、肩で息をしている。
挑戦状・・・挑戦状を叩きつけられたのだ。

というシーンの「言葉」で、灰と話す男・木場と「蘭ちゃんはきっと、高柳を超える、すごい消防士になる」と言わせた「蘭」と「隆太」のその後の物語を読みたくなること請け合いでありますね。

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