水城聡四郎、京都の裏の姿に出会う ー 上田秀人「抗争 聡四郎巡検譚4」(光文社文庫)

勘定筋の家の出身ながら、冷や飯ぐらいの身の上であった、水城聡四郎が、兄の死によって家を継ぎ、新井白石、徳川吉宗によって能力を見いだされ、勘定吟味役、御広敷用人として、幕府の要人や御用商人、あるいは伊賀者の企む陰謀を打ち砕いた後、「道中奉行副役」に任命され、諸国を巡って、道中の悪党を退治する「聡四郎巡剣譚」の第4弾。
前巻で、将軍・吉宗から、「しばらく京都に滞在しろ」という命令を受けて、京都の「裏」の姿を体験するのが今巻である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 遠国の風景
第二章 都の一日
第三章 無頼の生き方
第四章 各々の動き
第五章 新しい走狗

となっていて、「京」を知るために、炭問屋の「出雲屋」に接触にところからスタート。この出雲屋、「応仁の乱」のことを「前の戦」というぐらいの京都の水が骨の髄まで染み込んでいる京都商人なのだが、「公家たちは平氏の頃から六百年間、政にして」おらず、彼らに政権を渡せばm
、京都は荒れ果ててしまうと予測しています。このへん、明治維新後の「京都」を看破しているようでもありますね。「京都」というのは、「幻想の都」であるときが、一番、力をあちこちに及ぼすところかもしれません。

話のほうは、出雲屋に案内されて、聡四郎は、京都のお茶屋さんとか、一見さんでは足を踏み入れることもできないところを尋ねます。ここで、吉宗の推進する倹約令の批判とか、江戸・大阪の商人と京都の商人の違いとかが語られるのですが、吉宗批判のあたりは、前シリーズではなかなか聞けないところで、ここらが「日雇い浪人生活録」あたりに引き継がれていますね。

そして、出雲屋に茶屋に案内された聡四郎のもとに、京都町奉行が密かに支持した京都の裏稼業の男たちがやってきて、あっという間に撃退されたり、無頼を使った同心を町奉行が隠そうとして、聡四郎の正義感にふれて逆襲にあったり、といった、上田ワールド特有のスッキリするシーンはきちん用意されているので、そのへんは安心してお楽しみください。

というものの、いままでなら、自分が剣をふるって、奸計をめぐらした者たちに向かっていくのが通例であったのだが、本巻あたりから、京都町奉行や京都所司代に対して、吉宗の威光をバリバリに使うあたりに、彼もかなり経験を積んできた感じを伺わせます。

物語の後半のほうでは、吉宗の治世で名高い、大岡越前守が登場してきます。TVドラマでは、吉宗の抜擢で颯爽と任についた感じがあるのですが、本書では、先任の南町奉行を、無理に引退させての就任であるとかあって、けして、吉宗の統治がトントン拍子に進んだわけではないことが伺えます。

【レビュアーから一言】

この巻では、京都で聡四郎たちを襲う、京都の無頼が雇った剣の腕の立つ浪人とのアクション以外に、吉良上野介の旧家臣たちが、吉良本家の復活を企んで、聡四郎の江戸の家に押し込み、娘をさらおうとするアクションシーンが展開されます。もちろん、相手のアクションではなく、聡四郎の剣の師匠・入江無手斎とかくノ一あがりの侍女・袖の腕の冴えとかが楽しめます。

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