サブロー信長は宿敵の浅井家、強敵の武田家を打ち破るー「信長協奏曲」8-10

現代から戦国時代へとタイムスリップしてきた高校生・サブローはなんと、あの「織田信長」とそっくり。病弱のため戦国時代を生き抜くことが難しいと自覚している「本当の信長」と入れ替わった現代高校生が天下統一へ向かっていく姿を描いたのが本シリーズ『石井あゆみ「信長協奏曲」(ゲッサンコミックス)』の第8巻から第 10巻まで。

前巻までで、上洛して天下布武の基礎を固めたと思っていたら、将軍・足利義昭の策謀や旧勢力との軋轢がおきて、一転「信長包囲網」が構築され、存亡の危機におかれたサブロー信長が、反転攻勢にでるのがこのタームです。

構成と注目ポイント

第8巻 延暦寺を焼き討ちし、僧兵どもを皆殺し

第8巻の構成は

第39話 鬼退治
第40話 出陣
第41話 延暦寺攻め
第42話 重そう
第43話 信長、困る
第44話 家康くんの決断

となっていて、当時、信長の悪名を高めた「延暦寺の焼き討ち」が今巻です。

この延暦寺の焼き討ちは、信長の中立要請に逆らい、浅井・浅倉を支援するとともに、宗教勢力でありながら実質亭には武装勢力であった「延暦寺」へ仕掛けた信長の行動であったように通常は言われているのですが、今シリーズでは、焼き討ちに反対したと言われている「光秀」からの発案ということになっています。
最近よくみる論説でも、光秀は延暦寺焼き討ちに積極的に参画しているという話が多いのですが、本シリーズでは、光秀=本物の信長なので、信長の考えたことと言えば、まあそのとおりでありますね。
「延暦寺焼き討ち」のシーンでは、コミカルなこのシリーズには珍しく、

といった感じで仏教を楯に驕り高ぶる僧侶たちが一掃されています。森長可の父親の仇討ちの凄まじさというところでしょうか。

そして、この巻では、松永久秀が信長陣営に入ってから一回目の謀反を起こします。このシリーズでは久秀は、現代からタイムスリップしたヤーさんという設定になっていて、現代の高校生あがりのサブロー信長の配下になっているのが面白くないのが原因だと推測します。この謀反は第9巻で、久秀が降伏して助命されているのですが、久秀がこれから何度も謀反を繰り返しながらも、信長から許されているのは「現代人つながり」があるせいかもしれません。

後半部分では、信玄の上洛が始まります。ここで、陰で蠢き始めるのが「秀吉」と「秀長」兄弟で、

武田の進軍に合わせて事を起こしてもよいように準備を始めるのですが、これを見抜いていたのが竹中半兵衛で、砦の中に収蔵されていた鉄砲をそっくり岐阜へ送り届けます。
表面上は、秀吉の功績大というところなのかもしれませんが、小さな砦の防備に必要以上の鉄砲を準備しておくなんてのは「不審」極まりない状況ではありますね。

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第9巻 戦国の雄・信玄没し、名家「朝倉」「浅井」滅びる

第9巻の構成は

第45話 家康くんの敗走
第46話 元亀争乱、最終章①
第47話 元亀争乱 最終章②
第48話 天正のはじまり
第49話 戦国の女子
第50話 浅井家滅亡

となっていて、前半部分では、家康が三方ケ原がこてんこてんに敗れます。

この三方ケ原戦の戦で、待ち伏せしていた武田軍から命からがら逃げ出すときに、家康は便も漏れ放題で逃走したといわれているのですが、流石にこのシリーズではそういう醜態は詳細には書かれていません。注目しておくべきは、武田軍の動きが急に鈍ったことを、秀吉が素早く察知して、謀反の動きを止めていることですね。

ここらは、無邪気に挙兵して後で痛い目にあう、足利義昭とは違うところです。義昭は信玄の急死が判明した後、京都から追放されるのですが、今まではここで「室町幕府滅亡」ということになるのですが、実は、義昭は毛利に保護されながら「鞆」で亡命政権をつくり、信長追討の指示をあちこちの戦国大名たちに出していたようです。策謀家で有名な義昭らしい強かさですね。

後半部分では、将軍・義昭を追放後、信長は朝倉・浅井攻めへ取りかかります。
ここで信長は、浅井勢の居城・小谷城と、朝倉勢の本陣・田上山をつなぐ砦二つを、桶狭間の時と同じパターンで雷雨の中をついて急襲して陥落させるのですが、ここでスゴイのは、捕虜にした朝倉兵をわざと逃して、朝倉本隊の退却を促したところ。朝倉義景の不利とみるとすぐ越前に帰りたがる性向を逆に利用したわけですね。退却する朝倉勢を追撃して越前・一乗谷まで進撃し、このままずるずると朝倉家は滅亡していくこととなります。

朝倉勢が滅び去った後は、浅井家は孤立無援の状態となり、本拠地・小谷城は信長軍の猛攻にさらされることになります。とはいうものの、小谷城は浅井家が三代にわたって固めてきた難攻不落の山城なので、攻城にはかなり苦労します。
その突破口になったのが、秀吉の「京極丸攻め」なのですが、京極丸の位置する崖の上から、縄をたらし、それを手がかりに登っていくという奇襲戦を、秀吉の弟・秀長が先導します。ここらを見て、竹中半兵衛は、彼らの出身が「忍び」であろうことに気づいたのではないでしょうか。

京極丸を落とし、浅井久政を討った後、秀吉は長政へ降伏勧告を申し入れます。ここで、なにか信長に対する悪巧みを仕込むのかな、と思ったのですが、さすがのこの戦況では無理だったようですね。娘を逃した後、お市は浅井長政と運命をともにしようとするのですが、信長の呼びかけに思わず応じてしまいます。長政は、お市の極度の「ブラコン」を突破することはできなかったようですね。

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第10巻 浅井家滅亡後の仕置きと長篠の戦で武田家敗北

第10巻の構成は

第51話 戦いの後
第52話 家康くんがやってきた
第53話 目撃
第54話 長篠の戦い①
第55話 長篠の戦い②
第56話 天主

となっていて、浅井家滅亡後、信長の元へ帰ってきたお市は早速「ブラコン」ぶりを発揮します。

今回は、長政との間にできた「茶々」「お初」の二人も加わっての大騒ぎがなんとも「良い」ですね。

戦のほうは、武田信玄が没した当座は鳴りを潜めていた武田勢が再び動き始めます。織田家の支城の「明智城」を落とした後、徳川の遠江の拠点・高天神城も落とされてしまいます。この時の救援要請に信長が兵をなかなか送ってこなかったために、徳川方の織田への不信の念が芽生えたことは事実なのですが、鉄砲3千丁の軍備が整わなかったというのも事実です。

その後、武田勝頼は満を持して1万5千の兵で。三河の長篠城へと攻めかかりはじめます。信玄亡き後、国力の増強に努めていた「武田軍」がいよいよ新当主のもとに進軍を開始したということで、織田・徳川vs武田の大決戦が繰り広げられることとなります。

この「長篠の戦」で起きたのは、信長の三千丁の鉄砲部隊と武田の騎馬軍団とのガチンコ対決ですね。本シリーズでも「馬防柵」に沿っての死闘が描かれています。

ただ、忘れてはいけないのは、武田軍が設楽原へ進軍せざるをえなくなったのは、酒井忠次率いる別働隊が他武田軍の背後の砦を奇襲して、そこを攻め落としていったために、背後から襲われるのを嫌って前へ出ざるをえなくなったためで、ここでもサブロー信長の策略がものをいってますね。この戦いの様子については原書のほうでどうぞ。

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レビュアーから一言

武田勝頼が織田信長に敗れ、武田家滅亡へのきっかけとなった「長篠の戦」は、最新の兵器を使いこなす信長軍に、武田家の伝統ある「騎馬隊」が敗れた戦いとして有名なのですが、最近では、このころの銃でうまく連射ができたのか、といった話や、武田の騎馬軍団は本当にあったのかってなことも言われていますね。興味ある方は調べてみると、また違った「長篠の戦」の姿がでてくるかもしれません。

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