幕末を彩る「新撰組」を、副長・土方歳三をメインキャストに、幕末の京都から戊辰戦争・函館戦争へと続く激動の時代を「ヤンキー漫画」テイストで描く「橋本エイジ・梅村真也「ちるらん 新撰組鎮魂歌」」のシリーズの第7弾から第9弾。
前巻では幕末の四大人斬りのうちの田中新兵衛、岡田以蔵が刑死されたのですが、今巻からはいよいよ浪士組内での粛清騒動が本格化します。このタームでは、佐々木愛次郎を陥れた佐伯又三郎に始まり、芹沢鴨の腹心・新見錦の粛清の真相に迫ります。
第7巻 サイコパス・佐伯又三郎を斃せ
第7巻の構成は
第三十話 局中法度
第三十一話 凶刃
第三十二話 決死
第三十三話 宣戦布告
(特別編)侠気の桜
となっていて、京都市中の警備のお墨付きを得、大所帯となった壬生浪士組は山南敬介の献策で、あの悪名高い「局中法度」を制定します。
士道違反、局の脱退、許可のない借金や市中の揉め事の仲裁、私闘をお粉た場合は「切腹」という、あの過酷なルールですね。増えた隊員の統率を強めるという理由はあるのですが、本当の狙いは芹沢たち「水戸派」の排除にあることは間違いないですね。
この動きに対し、芹沢の側近「新見錦」が密偵の山崎蒸を使って近藤たちの動きを探らせ始めるのですが、その最中、試衛館派の一人・佐々木愛次郎と佐々木の恋人・あぐりを惨殺されるという事件がおきます。これは新見が試衛館派の屯所「前川荘司邸」に潜入させている佐伯又三郎の仕業で、この佐々木殺しの犯人捜しから、試衛館派と水戸派の血を血で洗う抗争が始まります。
抗争の始まりを告げるのは、佐伯又三郎vs永倉新八の一騎打ちです。圧倒的に秀でた剣才をもつ佐伯又三郎に対し、自らの前に立ちはだかる壁を打ち砕いてきた永倉新八の拳が炸裂するバトルシーンをお楽しみください。
佐伯又三郎については長州藩の久坂玄瑞の密偵だったという話や、彼の死についても、二重スパイがばれたとか、情報を渡さなくなったので久坂に暗殺されたであるとか、佐々木の恋人のあぐりを狙っていた芹沢に殺されたとか説が入り乱れているようですね。本書では、サイコパスとして描かれています。
この佐伯又三郎を斃したことを「私闘」と新見錦が糾弾し、永倉新八の切腹を画策します。永倉を助命するため、近藤、山南ほかが自ら降格を申し出ます。新見の狙いは、これで試衛館派の勢力を削ぎ、剣術バカと思っていた芹沢を操って、浪士組の実権を握り、さらに長州と密約を結んで幕府転覆勢力の中でも力を持つことだったのですが、「芹沢鴨」の本質を見誤っていたことが新見の命取りになっていきます。
最終話の「侠気の桜」は、会津藩主・松平容保が会津藩を継いだ頃の逸話です。もともと彼は会津松平家の出身ではなく、尾張藩の支藩であった美濃高須松平家の六男だったのですが、家光の腹違いの弟ともいわれる保科正之以来の武の名門・会津松平家の当主として、養父からしっかりと受け継がされていたようです。
第8巻 山南敬助の作戦で新見錦率いる夜盗勢、殲滅
第8巻の構成は
第三十四話 遠き空
第三十五話 死線
第三十六話 沈黙の死神
第三十七話 渾身の一振り
第三十八話 逆転
となっていて、冒頭で「八月十八日の政変」によって長州勢力が京都から追われることになります。久坂玄瑞ら長州勢と組んで、倒幕勢力の中で勢力を伸ばすつもりだった新見錦は少々当てが外れたところなのですが、昔なじみの夜盗たちを束ねて、近藤勇ら試衛館派と芹沢鴨の首を密かに狙い続けているところが、この人物の「悪賢い」ところですね。
そして、京都校外の鹿ケ谷の山荘で、松平容保と近藤勇が密談するという情報をつかみ、150人の夜盗仲間とともに動き始めます。
もちろんこれは、近藤勇たちの罠で、山荘を舞台に、新見錦たちと試衛館派の大乱戦が始まります。
山荘を襲撃する新見錦と夜盗たちを待ち受けるのは、新選組一の戦略家・山南敬助の「序・破・急」の三段構えの作戦です。
まず山荘の前の橋上の主戦場には、山南敬助た本隊が陣取り、新見錦たちの主力を待ち受けます。新見の作戦は主力を正面に配置したとみせかけて、夜盗時代の側近「ムシクイ」を裏門から邸内に突入させて近藤と容保を暗殺する作戦なのですが、ここには「槍」使いの原田左之助が待ち受けていて、ムシクイたちを殲滅するバトルシーンが展開されています。
そして、正面の橋上では、新見錦たちが圧倒的な多数で山南たちへ攻めかかるのですが、狭い橋なので一度に攻める人数が限られ、山南たちに削られていきます。しかも、切り伏せられた新見側の夜盗たちの死体が土塁のように積み重なり、砦のようになって堅固な防衛陣を形成して、行く手を阻んでいるところに、沖田総司たちが側面から切り込みをかける、という展開ですね。
こちらも迫力あるバトルシーンが続くので、ぜひ原書のほうでご覧ください。
最後半では、南敬助の策に敗れ、「新見錦」が斃される仲間たちを見捨てて逃亡を際立てるのですが、彼を待ち受けるのは阿比留鋭三郎の仇を討とうとする「斎藤一」で、というところで次巻へ続きます。
第9巻 新見錦の卑劣な動きを斎藤一が一閃する
第9巻の構成は
第三十九話 新見錦誕生
第四十話 生への執念
第四十一話 水戸天狗党七鬼衆
第四十二話 最凶の武
となっていて、冒頭では上州で岩鼻陣屋で育った新見錦の幼少期が描かれます。
幕府の天領の貧農の子供として育った彼は、百姓たちを守るという代官を尊敬していたのですが、夜盗たちに襲われ自分の命を守るため、新見たちを夜盗に差し出す代官の姿に絶望し、夜盗の道に入ったとされています。
そして、仲間を捨て山中に逃げ込んだ彼を待っていたのは、斎藤一の刃です。新見は最後の最後まで卑劣な技や毒薬を使って、斎藤を斃して逃げ切ろうと抵抗するのですが、斎藤の剣技のもとに全て跳ね返されてしまいます。
そこで、斎藤に懇願に懇願を重ね、斎藤を根負けさせたと思ったところで、斎藤一の剣が彼の脳天に突き刺さります。命乞いをしながら心の内では、斎藤一への復讐を企んでいるあたりが見透かされたとしか思えませんね。
水戸派内で一番の毒物「新見錦」が斃された後、いよいよ、試衛館派と水戸派の正面からの激突が始まります。
まず、芹沢は、水戸天狗党時代に仲間であった「七鬼衆」を呼び寄せ、彼らに新選組の隊服を着用させ、京都市中で薩摩藩士を襲わせるのですが、その狙いは・・というところで次巻へ続いていきます。もっとも、薩摩藩士を襲ったことで中村半次郎を呼び寄せてしまったことが、芹沢派が誤算だったのかもしれません。
レビュアーの一言>新見錦の「正体」は?
本シリーズでは、「阿比留鋭三郎」粛清や、「佐々木愛次郎」殉職の黒幕であり、長州藩とのつながりを持つ、夜盗あがりで、芹沢鴨の腹心とされているのですが、芹沢の行った大和屋焼討事件や大阪力士騒動に参加した記録もなく、大阪商人から100両を押し借りしたときの借用証文に、芹沢、近藤とともに名前があるのが唯一の隊士としての活動という謎の多い新選組隊士です。その分、筆者としては、芹沢派の「暗闇」を象徴する人物として描きやすかったのかもしれませんね。
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