「ちるらん 新撰組鎮魂歌」32=土方歳三は榎本武揚とともに「蝦夷共和国」建国を目指す

薩長勢力に抗って、幕末京都の治安を守った「新選組」の副長・土方歳三をメインキャストに、幕末の京都から戊辰戦争・箱館戦争へと続く内戦と激動の時代を「ヤンキー漫画」テイストで描く「橋本エイジ・梅村真也「ちるらん 新撰組鎮魂歌」シリーズの32弾。

前巻では、大軍をもって攻めかかってくる新政府に対して藩をあげて抵抗した、河井継之助率いる長岡藩とともに戦った土方歳三と新撰組のメンバーだったのですが、2万の兵で猛攻をしかける山県狂介率いる新政府軍の前に長岡城が陥落し、土方たちは榎本武揚や大鳥圭介たち旧幕府軍と合流し、北海道で新たな戦いを開始します。

あらすじと注目ポイント

構成は

第百三十一話 それぞれの戦い
第百三十二話 大バカどもの宴
第百三十三話 新撰組の志
第百三十四話 最強の軍団

となっていて、冒頭では、土方の子供を身籠った、元長州藩の刺客であった「琴」を、土方の依頼で江戸を逃がす永倉心配が描かれます。前巻の最後が新潟港が新政府軍に占拠され、長岡城が爆破された1868年(明治元年)の7月末となっているのですが、彼らが江戸へ到着したのは、東京と名前を変える詔書のだされた9月以降のことと思われます。東京郊外の農家に琴を預け、彼はそのまま彼女の護衛を努めます。

斎藤一の方は新政府軍の目を、榎本武揚たちの旧幕府軍に合流する土方歳三からそらすため会津山中でゲリラ活動を始めています。斎藤は、この後も松平容保の説得の使者が来るまで戦い続け、越前高田での謹慎生活を経て、会津藩が転封された下北半島の斗南藩領の五戸へ移住し、元会津藩士の娘と結婚しています。なの、ここが土方歳三との永遠の別れですね。

一方、土方は榎本武揚率いる旧幕府艦隊と合流し、10月16日に宮古湾から蝦夷地(北海道)へ向けて出航しています。

反新政府軍勢力は9月15日に仙台藩、9月22日に会津藩、9月23日に庄内藩が降伏しているので、ここで輪王寺宮を東武皇帝に推戴し、新朝廷を開く構想は頓挫。その後、水戸藩の諸生党を中心とする反新政府軍勢力も10月6日の下総の松山戦争で壊滅し、ここで本州内の反新政府軍勢力は一掃されています。
新政府に反対するたった一つの勢力となった榎本のもとには、幕府遊撃隊の伊庭八郎をはじめとする幕軍の生き残りや、仙台藩の東北最強の歩兵部隊・額兵隊の生き残りである体調の星恂太郎などの歴戦の猛者たちが集まってきているのですが、血の気が多くて噛み合うのが玉に瑕です。
ここで彼らを鎮めるのはやはり、元新撰組副長「土方歳三」ということで、圧倒的な剣気で彼らを統べてしまいます。

これに加えて、旧幕府軍の指導を行っていたフランス軍事顧問団も本国の命令を無視して榎本軍に従っていて、数は4000人足らずなのですが、日本最強といってもいい軍団となっています。

そして、蝦夷地に上陸した彼らが目指すのは、箱館府軍・津軽藩兵が駐留する五稜郭です。ただ、旧式とはいえ欧州基準の近代城郭である五稜郭に籠城されると攻め落とすのに半年以上かかり、榎本軍はこれからやってくる本格的な冬によって戦わずして壊滅することは必定です。これを避けるため、城兵を外に打って出させるために土方が講じた作戦は・・という筋立てです。新撰組当時は、「力押し」の傾向の強かった土方が、長岡で河井継之助と一緒に戦ってきたおかげで、彼の智謀の一端が乗り移ったかのような作戦が展開されていきます。

さらに、箱館府軍を退けた榎本・土方軍は、松前城を次の標的に定めるのですが、この城を守るのは、北海道の地を長く領し、寒冷地での戦いのよく知っている松前藩の軍事総督・鈴木織太郎です。彼は藩主の異父弟で、藩の「正義隊」を率いて藩内の佐幕派をあっという間に粛清し、藩を新政府側に味方させた北方随一の名将として有名な人物です。その彼がとった作戦は、主力兵1200名を率いて、土方軍へ夜襲をかける作戦だったのですが・・と物語が展開します。

後半部分は、東北戦争や北越戦争で軍略を磨いてきた土方歳三の戦略の冴えを堪能してくださいな。

Bitly

レビュアーの一言

今巻の最後のほうで登場するのが、松前に居城を構えていた松前藩なのですが、江戸時代、幕府によって北の最果ての土地であったため、本州内の各藩と違った様々な例外が設けられていました。江戸時代に各地の大名は幕府によって領地の支配権を認めた「領地判物」が交付されていたのですが、これには領地でとれる米の「石高」が記されていたのですが、寒冷に北方地にある松前藩では米がほとんとれなかったため、「無高」いわば収入ゼロの大名であったため、この「領地判物」が与えられなかったとか、参勤交代も3年に一度でよかった、とかですね。
領地が北方にあるため、特別ルールを設定してもらっていたのですが、ロシアと通じているという疑惑や、ロシアが侵攻してくるときは先導となる密約があえる、といった疑惑をもたれる原因ともなり、一時は藩がつぶされたりといった憂き目にもあっています。辺境の地の藩の悲哀ですね。

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