福田和代「東京ホロウアウト」=オリンピック間近の東京を封鎖する「テロ事件」の真犯人の狙いは意外にも・・

新型コロナウィルスの感染拡大が続く中で、オリンピックの開催を間近に控えた「東京」で配送トラックを狙った青酸ガステロ事件が発生します。その後も、物流を狙ったテロ行為が相次ぎ、全国の3割以上の物流量を占める東京圏の物流は大きなダメージを受けていきます。犯人の正体はテロリストなのか?、目的は東京オリンピックの妨害なのか・・といった感じで展開していく、「TOKYO BLACKOUT」「東京ダンジョン」に続く東京パニックものが本書『福田和代「東京ホロウアウト」(創元推理文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

第5回東京都市圏物資流動調査によると、1都6県を範囲とする東京都市圏の物流量は圏内流動が約280万トン/日、圏外流動が約160万トン/日となっていて、この膨大な物流によって、東京都市圏の経済活動や住民生活が支えられています。さらに、この物語の時期設定は、東京オリンピックの開催前後となっていて、この時期に物流へテロ攻撃が加えられることによって、大きなパニックが起きていく姿が描かれます。

物語の冒頭では、東京近県で、若手の産業廃棄物業者が自殺する場面が登場します。廃棄物の不法処分に関わったせいで会社が存続の危機に立たされたことによる自殺のようですが、これが後になって事件の謎を解く重要なカギとなってくるので覚えておきましょう。

物語の本編は、まず「燕エクスプレス」という大手の運送会社の物流基地で、コンビニから集配した荷物から青酸ガスが漏れだすという事件がおきます。荷物の中に、シアン化ナトリウムを上端に塗った紙を、塩酸の小瓶の中に付け、紙をつたって塩酸が上がっていくと青酸ガスが発生する仕掛けがされていたものです。

仕掛けられていた量が少なかったので、命にかかわるものではなかったのですが、この犯人に、主人公となると長距離トラックの運転手・世良のトラッカー仲間で引退間際の「ハマさん」という初老の男性が逮捕されます。彼は、政治的な活動やテロに関わっていた経歴もなく、動機がまったつかめないのですが・・というのが連続する物流テロの発端です。

そして、第二のテロ事件は、常磐自動車道の東京圏へと入るトンネル内で起きます。トラックの荷台に積まれた8個のガソリン缶に火がつけられ、トンネル内で爆破事故がおきます。幸い、この事故による衝突事故はなかったですが、トラックの処理と火災の鎮火で長時間通行止めとなります。

さらに物流への妨害はJRでもおき、東京圏内への食料品をはじめとする物資輸送に影響が見えはじめたところで、犯人となのる人物がネットに動画をあげ「これからTOKYOは孤島になる。心ゆくまで楽しめ」という犯行声明を出します。おりしも東京オリンピックの開催が間近に迫っているところで、犯人の狙いは東京オリンピックの妨害なのか、と疑われます。そして、テロ行為は、青酸ガスのよるテロ事件、JR貨物の線路爆破事件、トンネル火災、都内での車止めを悪用したトラック横転事故、東京港臨海トンネル以内のゴミ投棄事件、ガソリンスタンドの軽油への水混入と連続してエスカレートしていきます。

物流関係を狙うテロ行為で、事故に遭遇することを恐れて、東京圏内へ物資を輸送するトラックが激減し、スーパーや食料品店から生鮮食料品をはじめとする食料が消え始めます。ここで、立ち上がったのが、トラックドライバーで組織する「輸送部隊」です。彼らは「俺たちは、単にモノを運んでるわけじゃない! 俺たちが運ぶのは、信頼だ」という意気込みでテロに屈せず物流を支えていくのですが、その行動が偶然にも、連続テロ事件の真相近くに迫ることとなり・・という展開です。

実は、東京圏へ物資を輸送するトラックなどが激減し、物が入ってこないという事態の裏側で、東京圏内から圏外へ運び出される「廃棄物」の輸送もストップしていて、これが物語の後半で、一連のテロ事件の本当の動機と犯人を明らかにする謎解きの重要なカギとなっていくのですが、ここから先は原書のほうでお楽しみください。

少しネタバレしておくと、東京オリンピックの妨害を狙った「政治テロ事件」と見せかけておいて、実は個人的な復讐で・・というところです。

Bitly

レビュアーから一言

本巻はトラックなどの物流関係者を狙ったおおがかりな事件の謎解きになっているのですが、新型コロナウィルスや災害による「物流」へのダメージの大きさを感じさせるものでもあります。
都市パニックものというと、爆破事件や大規模軍事攻撃による都市破壊がテーマのものが多いのですが、こうした物流などの都市インフラが遮断されることによる「真綿で首を絞める」ような都市パニックものは新鮮ですね。

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