1789年7月のバスティーユ監獄の襲撃によってはじまる「フランス革命」で、もっとも過激な恐怖政治を敷いた、ジャコバン党のリーダー・ロベスピエールの盟友として、ルイ16世やマリー・アントワネットを始めとするフランスの王族や貴族を断頭台に送り込み、「革命の大天使」あるいは「死の天使長」という異名をとった、血塗られた政治家「サン・ジュスト」を主人公に、フランス革命を描く歴史コミックが本書『メイジメロウ・花林ソラ「断頭のアルカンジュ」(ゼノンコミックス)』シリーズです。
今回、物語の始まりとなる単行本の第1巻が2022年6月に刊行されています。
あらすじと注目ポイント
第1巻の構成は
第1話 堕天使
第2話 存在理由
第3話 朕は国家なり Ⅰ
第4話 朕は国家なり Ⅱ
第5話 朕は国家なり Ⅲ
となっていて、物語はフランス革命がおきる2年前の1787年の春のパリ。騎士階級の出身でパリに滞在している、サン・ジュストが妹のマリーがゼラミールという製紙工場を営むブルジョアジー(資本家)と結婚することになって喜んでいるところから始まります。
史実では、1785年にパリ近くの古都ソワソンの学校を卒業後、1788年にランス大学に入学していますので、物語はその間におきる彼のフランス革命で凶暴となった原因を描いていく、という感じです。サン・ジュストに女性の姉妹がいたという公式記録は見当たらないのですが、上原きみ子さんの「マリーベル」では、主人公の少女の生き別れの兄という設定になっていて、「マリーベル」執筆の参考本に「姉妹が二人いた」という記述のあるものがあったということですので、このシリーズもその一変形ととらえればいいでしょう。
で、シスコン気味のあるサン・ジュストは家柄にうるさい貴族階級に嫁にいくより、裕福なブルジョア階級の男性と結婚することを喜ぶのですが、夫となるゼラミールという男は工場を繁盛させるために、妻となる女性をシャンパーニュに領地をもつ大貴族・ブランジ男爵へ差し出すというゲスな奴で・・という筋立てです。
この貴族によって凌辱され、自殺を図り、命だけはとりとめた妹・マリーの復讐をするため、まず、このブルジョアジー・ゼラミールをパリの下水道で処刑し、さらには、領地に籠もったブランジ男爵へ、その刃をむけていくのですが・・という展開です。
ここでは、かなりゲスな二人への残酷な復讐劇が繰り広げられるので、血を見るのが苦手な人は気をつけておいてくださいね。
そして、妹・マリーの精神を破壊した二人に復讐を果たしたサン・ジュストだったのですが、マリーの心が回復しないのを見て、その原因となった王族と貴族階級が支配する「フランス王国」への復讐を決意します。具体的には、「朕は国家なり」という言葉で象徴されるルイ王朝の国王・ルイ16世とその王妃、マリー・アントワネットです。
彼は、復讐の相手となるアントワネットの顔を見るため、招待客限定の仮面舞踏会に忍び込むことを企むのですが、その招待状を手に入れるため、貴族の侍医として贅沢な暮らしをしている医師から招待状を奪い取ることを計画します。
実は、その医師は、貴族に取り入るために、貴族の馬車を暴走させて貧しい兄妹を負傷させておいて、それを見捨てたというゲスな過去をもっていることが判明します。貴族たちへの復讐を誓うサン・ジュストは招待状を奪うだけではなく、この医師にまず制裁を加えることを決断し・・という展開です。
レビュアーの一言
フランス革命のあたりを描いた歴史コミックとしては、ルイ15世末期からフランス革命期までのベルサイユ宮殿での王族や貴族を描いた「ベルサイユのばら」をはじめ数多くの作品が書かれていて、最近では、マリー・アントワネットのファッション大臣と呼ばれた「ローズ・ベルタン」を主人公にしたものが連載中なのですが、本シリーズは、それらの華やかな階級をぶっ潰して、ギロチン送りにした反対勢力のエース級の人物が主役ということで、セットで読むことで、革命当時のフランスを陰と陽の双方向から眺めることができます。
フランス革命に興味のある人はおさえておきたいシリーズです。
【レビュアーの一言】
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