霊媒師探偵・翡翠は、殺人犯のアリバイづくりに利用される=相沢沙呼「invert 2 覗き窓の死角」

純粋で少し天然系の風貌と仕草で、容疑者に先入観と油断を与えておきながら、実はその鋭い観察力で初見で犯罪の兆候と犯人を見抜いていて、突然の豹変と推理で犯人を驚愕させる美人霊媒師探偵・城塚翡翠の活躍するミステリーの第3弾が本書『相沢沙呼「invert 2 覗き窓の死角」(講談社)』です。

第1弾と第2弾で、警察上層部の要請で不承不承ながら、迷宮入りしかけていたり、事件として認識されていない事件を、心理的な洞察を用いながら犯人を見つけ出してきた城塚翡翠と千和崎真だったのですが、今巻では、千和崎以外に初めて日本でできた翡翠の「友達」の犯行を暴いていきます。

収録と注目ポイント

収録は

「生者の言伝」
「覗き窓(ファインダー)の死角」

の二編。

「生者の言伝」のあらすじ

最初の「生者の言伝」では、山中にある別荘の中で、「夏木蒼汰」という少年が腹部をさされて血を大量に流して死んでいる女性のそばで目覚めるところから始まります。死んでいたのは、彼の友人の母親らしく、彼は無断でこの別荘内に入り込み、泥棒と勘違いして刃物をもって撃退にやってきた彼女ともみあって殺してしまったのだろう、と自分で納得させます。彼には、女性ともみ合った記憶しかのこっていないのですが、別荘内に他にだれもいないため、自分が犯人だろうと当然の推測をしたわけですね。

そして、犯行の時についたらしい後頭部についた血を洗面所で洗い流している最中に、山中をドライブしているうちに暴風雨に巻き込まれて、車が故障してしまった「城塚翡翠」と「千和崎真」が雨宿りで、この別荘にやってきて・・という展開です。

可愛らしい風貌とあざとい態度で、傍若無人に別荘内に入り込んでくる「翡翠」たちから、2階にある死体に気づかれないようにごまかそうとする蒼汰なのですが、翡翠たちは彼の発言の矛盾を指摘したり、別荘の所有者の息子だと言いながら、別荘内の設備や食料や生活用品のことを聞かれてドギマギする姿から、彼を追い詰めていきます。

そして、とうとう死体のある2階に踏み込まれるのですが、翡翠の本当の狙いは少年ではなく・・という展開です。

「覗き窓(ファインダー)の死角」のあらすじ

二番目の「覗き窓(ファインダー)の死角」の犯人は、「ファインダー」という単語で想像されるように、江崎詢子という女性の売れっ子フォトグラファーです。

彼女は、実の妹を「イジメ事件」で失っていて、その復讐をしようと加害者たちを狙っているのですが、その一人で、現在はモデルをしている藤島花音という女性を殺害します。

ところが、その殺害時に「翡翠」をモデルにした撮影をしていたという「アリバイ」があったことから、「翡翠」がアリバイ証人として警察の取り調べをうけることと併せて、この事件の謎解きにも引きずり込まれることとなり・・という筋立てです。

捜査の情報や、江崎詢子との会話の中で、彼女が犯人では、という疑いを払しょくでき入れないまま、モヤモヤを抱えていく翡翠なのですが、詢子の犯行を立証するためには自らがつくった「アリバイ」を崩さないといけませんし、それは日本に帰国して十数年間でできた数少ない友人を自ら葬ることにもなり、といつも「あざとい可愛い子ぶりっこ」で周囲を幻惑する「翡翠」がいつになく動揺した姿を見せることとなります。

ただ、翡翠の、ターゲットの生活に入り込んで情報を集めていく手口は今回も強力で、詢子のマンションを不意に訪れたり、彼女の撮影の仕事現場にひょっこり姿を見せたり、とじわじわと詢子のいらだちを誘って、敵失的発言を引き出していくやり口は有効で、彼女の犯行だろうと確信を深めていくのですが、彼女が殺したという「証拠」がなかなかつかめません。

ところが、その物証は、意外なところ、「翡翠」の近くにあることに突然気がついて・・という展開です、

物語の最後半では、詢子のマンションに忍び込んで、逆に拘束されて、生命の危険にさらされる「真」の姿もあって、彼女のアクションシーンも楽しめることとなります。

ちなみに、「翡翠」の過去に関係する「弟」の存在が今回少しほのめかされています。

レビュアーの一言

「城塚翡翠」シリーズは、2022年10月から、翡翠役に「清原伽耶」さん、千和崎真役に「小柴風花」さんの主演でテレビドラマ化されますね。シリーズ第一巻の「medium」の表紙カバーを模したPR画像が目をひきました。(日本テレビの「霊媒探偵・城塚翡翠」の特設サイトはこちらです。)

ふわふわした可愛い子ぶりの第一印象ながら、実は犯人と睨んだ人物の動作や仕草、発言を注意深く記憶、分析していて、

奇術師は、なんでもないことのような表情で奇蹟を披露するが、その裏では膨大な時間を練習に注ぎ込んでおり、その努力が人目にふれることはない。努力が成し遂げた業であると知られてしまえば、その時点でそれは魔法ではなく、ただのテクニックに変じてしまうからだ。翡翠もそれと同じように探偵としての努力や苦悩を見せることはない。

といった感じでドラマチックに推理を最後に展開する「城塚翡翠」の魅力を、朝ドラ「おかえりモネ」で抜群の演技力を発揮した清原果耶さんがどう演じるか、楽しみなところであります。

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