城下町の古い家でおきる怪異譚再び=小野不由美「営繕かるかや怪異譚 その弐」

古い建物に憑いてしまい、住んでいる人の周辺にひたひたと迫ってくる怪異の数々を、祓ったり消滅させるのでなく、「なだめて」害をなさないように変質あせる、建物修繕の専門家「営繕屋かるかや」が関わった怪異譚を描く建物ホラー「営繕かるかや怪異譚」の第二弾。

あらすじと注目ポイント

収録は

「芙蓉記」
「関守」
「まつとし聞かば」
「魂やどりて」
「水の声」
「まさくに」

の六篇。

まず第一話の「芙蓉記」は、仕事を辞めて故郷の実家に帰ってきた男性・貴樹が、二階にある自室の壁の割れ目から見える、隣家の女性が、手紙をみ忍び泣いている姿に魅了されているうちに、いつの間にか「魔」に取り込まれそうになってしまう話です。

彼の実家は、城下町の一郭の古い町並みの中にある町家で、かつては花街で、隣の家も以前は料亭か芸者置屋をしていたようです。

実は、彼が自室にしている部屋はかつて弟が使っていた部屋で、その弟は思春期になってから引き籠りになり、壁の割れ目の前に一日中座って、部屋からでてこない毎日が続いていました。そして、ある日、自分の喉をカッターで切り裂いて自殺するという不幸な出来事がきています。

壁の割れ目から見える女性が、弟の引き籠りと自殺に関係しているのでは、という疑いをもちながらも、貴樹はその女性に魅せられていき・・という筋立てです。後半部分では、料亭をしている隣家に貴樹が乗り込んで、該当の部屋に入り、その女がこの世のものではないらしいことに気づいた後、怪異の存在を察知した料亭の女将によって、営繕屋の尾端らしい人物がなにやら作業をして怪異はおさまったようなのですが、実は・・という展開です。

第二話の「関守」は、現在は田園の広がる都市郊外に住んでいる女性・佐代が幼い頃に出会った怪異の話。彼女は幼い頃、この都市の「旧市街」と呼ばれるお城のある地域にすんでいたのですが、その家の近くに古くからある神社があり、その神社の社殿の脇に出る「背戸」で、鬼に出会ったという記憶が残っています。

その鬼は立っつけ袴に、赤い顔をした鬼だったのですが、神社の境内に忘れた祖父の腕時計を取りに還ろうとする佐代をとおせんぼして、「用のないものはとおさぬ」と「とおりゃんせ」の童謡のような問答をしかけてきます。

祖父の時計を探しにいくのだといった佐代を通してくれた鬼は、佐代が時計を持って表の参道から還ろうとすると、通せんぼをして「脊戸」のほうへ彼女を連れていき、そこから家へ帰してくれるのですが・・という筋立てです。

ネタバレを少ししておくと、佐代は無事に家に帰り着くのですが、違う選択をしていたら・・と後から「別の」怖さがおいかけてくる怪異譚です。

第三話は、自分の母親と父子三人で暮らしている一家におきた怪異譚です。

離婚して実家の茶舗を継いだ俊弘は、息子の航、俊弘の母親、猫の「小春」と暮らしているのですが、しばらく前にその母親がクモ膜下出血を発症し入院しています。父子二人でなんとか暮らしている時、飼い猫の「小春」が交通事故にあって家の前で死んでいるのを発見した俊弘は息子を悲しませないように内緒で庭に埋めてやるのですが、しばらくして、小春が帰ってこないと淋しがっていた息子が、夜になると小春が帰ってきたと言い始めます。

そして、その時の息子の寝ていた布団には、生臭い黒いシミがついていて・・という筋立てです。

この三人の家の隣家が、老婦人が犬や猫を多頭飼育していたのですが、彼女が入院・急死したために犬猫が大量死した「猫屋敷」であることもわかり、息子のところへ やってくるものが「禍々しい」ものであることを想像させます。

そして、依頼を受けたやってきた「営繕屋」の尾端だったのですが、彼はなんと、小春がいつも家の内外を出入りしていた「猫のドア」に目をつけて・・という展開です。

このほか、家のリフォームを趣味にしている若い女性が、作り手の想いに気づかずに行ったリフォームが思わぬ怪異を呼びよせる話(「魂やどりて」)、女性からのプロポーズを断ってきた男性が抱えてきた幼いころ友人の事故に起因すると思っていた怪異が実は別の意味をもっていた話(「水の声」)や、祖父が建てた古い家の天井裏にでてくる、家の守り神だといわれる男性の怪異が血まみれの姿になっている理由(「まさくに」)などをお楽しみください。

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レビュアーの一言

今回も、城下町の古い家や神社でおきる怪異譚なのですが、このシリーズの怪異は、恐怖に終始したり、怪異をやっつけてしまう、というものではなくて、最後に怪異が鎮まる「平穏」が訪れてくるものが多いのが特徴ですね(もっとも、今巻の「芙蓉記」はちょっと毛色が違いますが)。

その意味で、この作者の「残穢」などとは違ったソフト・ホラーで、怖いのはあまり好まない方にもおススメのシリーズです。

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