川沿いのレストランで男を誘う白い顔の怪異の正体は?=小野不由美「営繕かるかや怪異譚」その参

古い建物に憑いていて、住んでいる人の周辺にひたひたと迫ってくる怪異の数々を、祓ったり消滅させるのでなく、「なだめて」害をなさないように変質させる、建物修繕の専門家「営繕屋かるかや」が関わった怪異譚を描く建物ホラー「営繕かるかや怪異譚」の第三弾。

あらすじと注目ポイント

収録は

「待ち伏せの岩」
「火焔」
「歪む家」
「誰が袖」
「骸の浜」
「茨姫」

の六篇。

第一話の「待ち伏せの岩」は、川沿いにある古い洋館を改造したフレンチ・レストランでおきる怪異です。多実は、幼い頃に母親と死別し、このレストランの経営者兼シェフの父親と二人暮らしなのですが、ある夜、2階にある自分の部屋からトイレにいこうとするのですが、階下で父親と友人が宴会を開いているところに出入りするのがイヤで、渡り廊下伝いにレストランのトイレを使った時、母親の好きだったオルゴールが置いてあるホール内の個室席のところの窓に不審な人影をみかけます。

その時は見間違いかと思ったのですが、それから数日後、このレストランの2階にいる女性に誘われて、前にある川に船を出して会いにきた従弟が水死したことを、その女性に知らせてほしい、と若い男性がレストランにねじこんできます。しかし、この家には多実しか女性はおらず、彼女にはその男性や従弟に会ったこともないのですが・・という筋立てです。

この後、再び個室席のところで、白い顔をした女性を「窓」の外に見るのですが、その女性の顔が十文字に裂け、無数の尖った歯をみせてきたたま、多実が悲鳴をあげて逃げ出すという事態がおきてきます。この相談を受けた尾端の出した見立ては・・と、川沿いで男性を刺誘う美女といえば、と連想される怪異の日本版ですね。

第二話の「火焔」は気難しい姑の長年暮らしてきたお嫁さんに起きた怪異です。主人公となる順子は、薬剤師の同僚だった夫が急死した後も、夫の姑と長年同居してきています。その姑というのがかなり意地の悪い人で、無理難題を順子に言いつける上に、悪口憎言の嵐という女性だったのですが、ようやく亡くなり、順子も肩の荷をおろしたところです。

しかし、姑の四十九日が済んだあたりから、姑が順子を部屋へ呼びつける合図となっていた、杖で壁を打ち付ける「コツコツ」という音が聞こえるようになり・・という展開です。

そのうちに、解約したはずの姑の携帯番号からの着信も入りはじめ、怯える順子だったのですが、相談を受けた尾端は、順子の姑を憎む気持ちが姑をかえって家に縛り付けているかもしれないと言い、憎しみを「過去」のものとするある提案をするのですが・・という筋立てです。

第三話の「歪む家」では、アンティークドールのドールハウスをつくるのが趣味の女性に起きた怪異です。故郷の実家がイヤで遠く離れた地で一人暮らしをしている弥生は、ドール蓮をつくるのを趣味としているのですが、いつも作っている途中で、そのドールハウスの人形たちの不吉な家族模様を想像してしまうため、完成すると近くのお寺に持ち込んで人形供養をしてもらうことを習慣にしています。ある時、もちこんだドールハウスを、お寺の檀家さんが気に入ったため、それは焼却せずに譲り渡すまでの間、自宅に持ち帰ったことから、ドールハウス内の人形の鼠が小道具のシチューの中に入っていたり、人形の赤ん坊が母親によって首を絞められている構図に変わったり、といった怪異が起き始めて・・という展開です。

今回は、ドールハウスの中にセットされている「鏡」が黒魔術の悪魔の召喚の仕掛けに偶然なってしまったことでおきる怪異なのですが、この経験で、弥生のドールハウスづくりがどう変化していったか、が焦点となります。

このほか、旧家の血筋の長男の最初の男子と最初の妻に不慮の死をもたらしてしまう、納戸にしまわれていたいわくありそうな「茶箪笥」の怪異(「誰が袖」)や、川や海で水死した人が自分の遺体が流れついたことを報せに訪れる庭の怪異(「骸の浜」)や、過干渉の母親に耐えかねていた姉が自殺した小屋にまきついた茨がもたらす怪異(「茨姫」)といった話が展開されていきます。

レビュアーの一言

第一巻と第二巻では、「家」や「建物」にまつわる怪異が中心だったのですが、第三巻では家に古くからある家具や因縁のある「庭」や「窓」といった建物そのものではない「怪異」が多く収録されています。

ただ、今回も怪異を「祓う」「調伏する」のではなく、怪異を受け止めながらそれを受け流していったり、別の方角を誘導していくといった解決方法は健在ですので、このシリーズのファンは安心して楽しめるかと思います。隈田工務店経由の尾端の見立て、というおなじみの怪異診断も健在です。

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