ニューヨーク検死局帰りの法医学者が奇怪な事件の謎を解く=直島翔「警察医の戒律(コード) 」

「転がる検事に苔むさず」や「恋する検事はわきまえない」など、東京地検の浅草支部で勤務する「窓際検事」を中心に、研修中のはねっかえりの女性検事や検察庁泣かせの女性弁護士たちの活躍を描いた作者が、今度は、ニューヨーク帰りの、死体と会話する奇人法医学者と、神奈川県警捜査一課に新設された、「性」を取り巻くありとあらゆる犯罪の捜査と他の捜査班の支援を行う「ジェンダー班」(まあ有体にいえば、犯罪捜査の「便利屋」ですね)の活躍を描く法医学ミステリが本書『直島翔「警察医の戒律(コード)」』(角川春樹事務所)です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「見守りびと」
「秘密の涙」
「呼び名のない父親」

の三篇。

まず、ざくっと登場人物たちを紹介すると、探偵役は、ニューヨークの検視局でキャリアをつみ、日本へ帰国後、神奈川県警と委託契約を結んで、鑑定医と警察医を委託されている法医学者の幕旗治郎。彼は学校の教師をしている妻をアメリカに残し、一人娘とアメリカから帰国しているようです。そして、彼の監察医としての特殊能力は、死体の生前の姿が見え、それと会話できるというところ。まあ、この話はホラーではないので、かれの潜在意識が見せる幻として理解しておいてくださいね。

この幕旗の研究所には、小池一樹という医師免許取り立ての新米医師が助手として採用になっていて、各種の雑用をこなしています。

で、この幕旗に検死の依頼をもってくるのは、神奈川県警に新設された、「性」」をとりまくあらゆる犯罪を扱い「ジェンダー班」で、ここの班長をしている「村木響子」という女性警部補は、幕旗の義理の妹、という設定です。

そして、この班の班員は、定年間近の、プロ野球の「横浜ベイスターズ」の熱狂的ファンで、仕事へのやる気はほとんど消えている「久米勝治」、元白バイ警官ながら、捜査中の事故で足を怪我したために白バイに乗れなくなった、体育会系女子の「金沢佐織」、科捜研でのパワハラ指導で「電車に足がすくんで乗れなく」なってしまった、オタク系のリケジョ・「戸口遥香」という”クセツヨ”メンバーです。

第一話「見守りびと」のあらすじ

まず第一話の「見守りびと」では、横浜市を流れる大岡川の河口付近で、ミイラ状態になった女性の死体が発見されるところから始まります。死体は死後十五年から二十年を経過している古いものだったのですが、ショウジョウバエなどの虫がついたところもなく、腐敗した様子がない、という奇妙な死体です。ホルマリン漬けとかになっていれば、そういうことになるのですが、死体にはホルマリン臭もまったくなく、という筋立てです。

遺体の身元は、この事件がマスコミにすっぱ抜かれたことで、死体にあった肺腺癌と丁寧な帝王切開の手術痕で、18年前に死んだ金持ちの女性であることが、女性のかかりつけ医だった医師の息子から情報が寄せられるのですが、この女性の二人の子供が全員。長期の引き籠り状態で、女性の死体が保管されていたと思われる邸宅に入ることがなかなかできません。ようやく中に入っても、住人の息子2人と会話が成立しないのですが、ここでコミュニケーションをとれたのが、「トロちゃん」とあだ名をつけられている、オタクの薬剤師「戸口遥香」で・・という展開です。
これがきっかけで、戸口は、奇人法医学者の「幕旗」の助手的な役割を小池から半ば奪ってしまうこととなります。

事件のほうは、引き籠り兄弟への事情聴取など難航していくのですが、死体が腐らなかったわけが判明したところで、意外な人物が犯人として浮上してきます。

第二話「秘密の涙」のあらすじ

第二話の「秘密の涙」は、伊勢佐木町の廃ビルで、大型のスーツケースに入った亜麻色の髪でほっそりとした白い頬をし、朱色のドレスとハイヒールを身に着けた”女性”が見つかったところから始まります。女性は後頭部に殴られて出血した跡があったのですが、死因は首を180度捻られて首を骨が折られて死亡した、という陰惨なもの。さらに、実は、女性ではなくて”男性”であることが判明し・・という筋立てです。

そして、この被害者を殺した犯人に関するタレコミのメールが神奈川県警に届き、”彼女”の恋人の大手銀行の支店長をしている男性が容疑者として浮かび上がるのですが、彼は、”彼女”が部屋にあった5千万円の現金を持ち逃げして失踪したのだ、と主張し、アリバイまであることがわかります。
ここで、その男性から被害者には、学生時代からの親友がいて、その人物も実はトランスジェンダーという証言をとることができます。「ジェンダー班」のメンバーは、その「とっちゃん」と呼ばれる人物と会って、真犯人をつきとめるのですが、「とっちゃん」の正体は意外にも・・という展開です。

第三話「呼び名のない父親」のあらすじ

最終話の「呼び名のない父親」は、家出したと思われている娘が、本当は事件に巻き込まれて殺されたのだ、と主張し、神奈川県警の捜査の怠慢を非難してきた元大学教授の男性・香坂が、横浜球場で深夜に転落死した状態で見つかる、という事件です。
実は、その女の子が家を出た後で、父親から離れるために家を出たという動画が送られてきて、警察のほうは家出と判断したのですが、香坂はそれも偽装だと主張しているわけですね。
ところがここでネットに、神奈川県警が市民の捜査をしてくれない、と香坂が県警を非難する動画がUPされたことから、問題が大きくなっていきます。
この動画を投稿した人物は香坂の娘の失踪に関係しているのか?その目的は?といった謎解きですね。
少しネタバレしておくと、ホラー味は少なくて、犯人はエロ系に寄った事件です。

Bitly

レビュアーの一言

本巻の事件とは別のもう一つの読みどころは、探偵役の幕旗の特異体質で、死体の生前の幻と会話して、被害者の生前や死亡時の情報を読み取れるというとこなのですが、それは、巻中でもネタバレしてあるように、潜在意識の生み出した「幻」です。
そこで、目ざとい読者は、幕旗と娘との会話のあたりでそこのところとの関連性を感じ始めるのですが、真相は原書のほうでお確かめください。

個人的には、幕旗の娘の「聖菜」が母親のもとへ帰っていくのではなく、「探偵役」として出現する次作以降を期待したいのですがダメでしょうかね。

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