ジャンヌ・ダルクの鉄仮面をかぶった殺人鬼が美人オペラ歌手を襲う=稲羽白菟「オルレアンの魔女」

パリ・オペラ座で上演される新作オペラ「オルレアンの魔女」のプリマドンナに抜擢された、日本のソプラノ歌手「天羽七音美」が、オペラの原作者の老作家への面会と、ジャンヌ・ダルク祭でのPRのために訪れたカンヌで遭遇するジャンヌ・ダルクの鉄仮面をつけた怪人物による連続猟奇殺人事件の謎を解いていくミステリが本書『稲羽白菟「オルレアンの魔女」(二見書房)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

Ⅰ 東京
Ⅱ パリ
Ⅲ カンヌ
Ⅳ 監獄島
Ⅴ 修道院の島
Ⅵ オルレアン
Ⅶ カンヌ

となっていて、まず本編の主人公は、東京にある歌劇団に属している「天羽七音美」。彼女は世界的に注目されているソプラノのオペラ歌手ながら、和菓子と歌舞伎フリークのために、日本を離れない、という設定です。このあたり、歌舞伎などの古典芸能の世界を舞台にミステリを発表している作者らしい設定です。
その彼女の主演が決まっている「オルレアンの魔女」の作者への挨拶とPRを兼ねてヨーロッパのカンヌへでかけるところが冒頭の滑り出しです。

彼女がヨーロッパへ旅立つ準備をしているころ、パリではある殺人事件が起きています。それはパリの下水道や地下納骨洞、地下運河などがつながった地下道のひとつでおきます。パリのオペラ座に近い商店街にあるパン屋から降りた地下道で、ハサミで髪の毛を斬られ坊主頭にされ、そのハサミで刺殺された女性の死体が見つかります。そして、「オルレアンから消えた魔女が戻った」という文字と、カンヌのある住所を記したメモを握っていて・・というものです。
「ハサミ」「地下道」「オルレアンの魔女」、いかにも猟奇殺人の始まり、という滑り出しですね。

一方、物語の主人公・七音美のほうは、オペラ「オルレアンの魔女」の原作者「レジーヌ・ブラパン」が現在住んでいる、カンヌのリゾートホテルのスィートを、オペラ監督と一緒に訪問しています。有名な彼女の作品の映画化や劇の上演を狙って、多くの業界人が群がっているのと、彼女にはLGBTに噂があって、若い頃は実家に多くの若い女性たちと一緒に住んでいたという経歴の持ち主です。現在では、養女として迎えた二人の女性、アリアーヌとイネスとともに暮らしています。

そこへ、パリ警察のブノワとエミールという二人の刑事が訪問してきます。彼らはパリでおきた事件の担当をしていて、被害者の持っていたメモの住所へやってきたらレジーヌの住んでいるホテルだった、という流れです。

そして、レジーヌの周囲を捜査する刑事を同行させながら、カンヌの沖合にある、かつて鉄仮面が収監されていた監獄島と修道院島へとレジーヌのチャーターしたクルーズ船で訪れるのですが、そこで七音美が、「ジャンヌ・ダルく」の鉄仮面をかぶった人物に襲われかけます。その人物はハサミで七音美を襲ってきます。
大声を出したことで、危難を逃れた七音美だったのですが、修道院島で、レジーヌの養女の一人・イネスがハサミで刺殺された状態で発見されます。そして、さらにその夜、もう一人の養女・アリアーヌが監獄島の埠頭のポールに髪の毛を切られて丸坊主の状態で縛り付けられ、火をつけられて焼死するという殺人事件が連続しておきます。

彼女たちの死は、中世、オルレアンの出身で、救国の聖女と讃えられながら、最後は魔女として火炙りにされてジャンヌ・ダルクと関係があるのか、といった筋立てですね。
さらに、オルレアンでは、レジーヌの有力政治家だった父親がからんでいるらしい第二次大戦中に若い女性の連続誘拐事件がおきていたという噂が残っていて、地元ではタブーとして秘密にされていることもわかるのですが・・という展開です。

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レビュアーの一言

このミステリでは、監獄要塞に収監されていたという謎の「鉄仮面」であるとか、ジャンヌ・ダルクのフランス史を彩る人物が、謎解きの重要なスパイスとなっています。このジャンヌ・ダルクには、史上、志半ばに倒れた人物につきものの、密かに脱出して落ち延びた、という「落人伝説」がつきものなのですが、彼女の場合はそうしたものがありません。実は、ジャンヌを処刑したイングランド側は彼女のカリスマ性を警戒し

火刑の途中、処刑人たちは火刑台から焚き火を話して一度火を止めたんだ。ケロイド状に生焼けになって、破れた胸から鼓動する心臓をのぞかせた瀕死のジャンヌの姿を、本人の証として見物人に晒すために・・(本書P142)

とかなり陰惨な処刑を行ったようです。さらにWikipediaによると、聖人の遺物として人々の手にわたらないように徹底的に「灰」にされ、その灰はすべてセーヌ川に流されたそうですね。結構、黒い秘史がかくされているようです。

【レビュアーの一言】

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