土方は宮古湾沖で、敵艦「甲鉄」奪取を目指す=「ちるらん 新撰組鎮魂歌」34

薩長勢力に抗って、幕末京都の治安を守った「新選組」の副長・土方歳三をメインキャストに、幕末の京都から戊辰戦争・箱館戦争へと続く内戦と激動の時代を「ヤンキー漫画」テイストで描く「橋本エイジ・梅村真也「ちるらん 新撰組鎮魂歌」シリーズの34弾。

前巻で「蝦夷共和国」を立ち上げた榎本武陽と土方歳三たちだったのですが、この新しい国家を潰すため、新政府軍はアメリカから輸入したての最新鋭艦・ストーンウォール号、日本名「甲鉄」を派遣します。
この軍艦を乗っ取るため、宮古湾沖で敵艦に乗り込んだ土方たちと、新政府軍の刺客たちとの死闘が始まります。

あらすじと注目ポイント

構成は

第百三十九話 刺客たちの狙い
第百四十話  船上決戦
第百四十一話 わしらの祭り
第百四十二話 最強の答え

となっていて、北海道へと向かう新政府の新鋭艦・甲鉄を乗っ取るため、土方歳三をリーダーに星恂太郎、今井信郎、伊庭八郎のメンバーに加え、新選組の島田魁、市村鉄之助が隊士を引き連れて出航します(かなり、北海の波にもまれ、船酔いに苦しんでいるようですが・・)

土方を待ち受けるのは、明治新政府の首脳陣から直接、土方を始末するよう頼まれた音無し剣の遣い手・高柳又四郎のほか、元土佐勤王党の白井鉄馬、長州の片岡慎三、薩摩の田中凛之介というメンバーです。

白井、片岡、田中は維新志士だった同士や兄弟子・吉田稔麿、兄・田中新兵衛を幕末の京都で土方に斬られた仇を討つために集まった、という設定ですが、高柳又四郎以外は架空の人物だと思われます。さらに、高柳又四郎も晩年の状況は伝わっていないということで、ここらは幕末の混乱の中で新撰組などと戦って斃れた維新の志士の復讐劇を描いてみた、というところでしょうか。

ちなみに高柳以外の刺客たちがつかう武術の流儀が「小栗流和(やわら)術」「宝蔵院流槍術」「野太刀自顕流」です。

「小栗流和(やわら)術」は土佐藩で隆盛となった武術で、もともとは和(やわら)術だけでなく、剣術、抜刀術、槍術、手裏剣術、水練を含めた総合武術で、柳生石州斎門下で、徳川家の旗本であった小栗正信が創始したもので、もともとは徳川家ともゆかりがあったようなのですが、その後、江戸では廃れ、小栗の弟子・朝比奈可長が土佐藩に仕えたことで、幕末まで土佐に伝承されてきてようです。
あの坂本龍馬も14歳から近隣の小栗流日根野道場に通っていたようですが、彼の場合はもっぱら剣術を修行していたようです。
インターネットで山本義泰さんの書かれた「小栗流和術」という天理大学の論文が読めるので興味のわいた方は検索してみてくださいね。

「宝蔵院流槍術」は、奈良・興福寺の宝蔵院の院主・胤栄が創始した槍の流派で、「ちるらん」14巻〜15巻で土方と対決して斬られた吉田稔麿の得意とする武術でもありますね。新撰組では谷三十郎がこの槍術の遣い手です。
十文字槍を使うことが特徴で、けしてこの流派がキリスト教信者だから、というわけではないようです。

「野太刀自顕流」は「薬丸示現流」ともいわれ、薩摩の「郷中教育」で取り入れられ、薩摩藩の下級藩士を中心に広がり、この層から明治維新の志士が多く出たことから、一躍、幕末を象徴する剣術として有名になったものですね。

そして物語のほうは、高柳ら4人と明治新政府の兵士が乗り込む「甲鉄」の横っ腹に、蝦夷政府軍の軍艦・回天をぶつけ、土方たちが乗り移ります。

船上で、まず星恂太郎vs白井鉄馬、市村鉄之助vs田中凛之介、今井信郎vs片岡慎三の戦いが始まります。皆が遣い手ばかりのバトルですので、最後の決着をつけるのは、背負っているものと強さで、過去の想いよりも今にかける想いの強さが勝敗を分けたというところなのですが、詳細は原書のほうで。

この後、高柳又四郎と土方歳三との、幕末のツワモノ剣士同士の戦いが始まるのですが、決着は次巻以降に持ち越されます。

Bitly

レビュアーの一言

今巻の「宮古沖海戦」は列強諸国との交渉を有利に展開するため、榎本武揚と土方歳三の企画した起死回生の新政府軍の有数の戦闘艦「甲鉄」の奪取作戦だったのですが、幕府軍の「回天」から一時に戦闘員が乗り移る人員も限られたため、「甲鉄」に乗せられていた「ガトリング銃」によって多くの犠牲が出てしまった戦いでもあります。ガドリング銃は「るろうに剣心」でも登場した機関銃で、大量殺戮を可能にする当時最凶の兵器ですね。

ただ、「奇襲」と言う意味では新政府側を驚かした作戦で、この時、法術士官として、甲鉄と同航していた「春日」に乗っていた東郷平八郎はこの作戦に衝撃を受け、後の日露戦争の日本海海戦の時の作戦指揮に活かしたということです。

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