黒沢心は、担当の新人マンガ家の「連載」をかちとる=松田奈緒子「重版出来!」5~7

オリンピック出場を目指していた女子柔道選手・黒沢心が心機一転、大手出版社のマンガ雑誌の編集部員となり、一癖も二癖もある編集者たちに揉まれながら、変人やナイーブなマンガ家たちを担当しながら編集者として成長していく、編集者のお仕事系マンガのシリーズ「重版出来!」の第5弾から第7弾。

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第5巻 黒沢は「本」づくりのプロ中のプロの技に魅了される

第5巻の構成は

第二十五刷 グラビアは雑誌の華なのだ!
第二十六刷 夢を持つには責任も伴う!
第二十七刷 美の巨人たち!Ⅰ
第二十八刷 美の巨人たち!Ⅱ
第二十九刷 NO MORE サイン泥棒!
第三十刷 右側に気をつけろ!

となっていて、前半の第二十六刷「夢を持つには責任も伴う!」では、人気小説のコミカライズで連載デビューした新人マンガ家の「東江絹」だったのですが、担当編集者・安井のパワハラに近いマネジメントで、心が潰されそうになっています。その彼女が悩んだ末に出した結論は、なんと大学への復学から一般就職の道で・・ということで、この段階では、安井のマネジメントが、才能あるマンガ家をマンガの世界から遠ざけてしまうことになります。

まあ、東江さんというナイーブなマンガ家というキャラはこのまま消してしまうのはもったいないわけで、後の巻で復活しますので、東江ファンは待っておきましょう。

中盤の「美の巨人たち」は戦後の漫画界を牽引してきた巨匠の「画集」出版に黒沢も関わらせてもらうことになります。この巨匠の「美」へのこだわりがすごくて、ブックデザインのデザイナーと製版の技術者は指名されているという設定です。

さらに、興都館の「紙」の担当者も、その二人に負けず劣らずの「紙フリーク」で、ということで、黒沢はとことんこだわって一冊の本を仕上げていく「プロ」たちの技に直に触れていくという得難い経験をしていくことになります。

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第6巻 黒沢担当の「ピーヴ遷移」、連載決定

第6巻の構成は

第三十一刷 シンパシーとエンパシー!
第三十二刷 ピカピカの勇気で進め!
第三十三刷 オレのまんが道!
第三十四刷 北の書店から!
第三十五刷 きみを見守りたい!
第三十六刷 きみを守りたい!

となっていて、前半は、黒沢が原稿持ち込みの段階から担当している、中田伯の連載入りを目指す話。父親の暴力や母親の育児放棄によって、人と関わる技術を身につけていない彼は、アシスタントをしている三蔵山先生のところでも周囲とトラブってばかりなのですがその分、マンガ、特に自作の「ピーヴ遷移」にかける」情熱は相当のもので、黒沢の何度ものネーム書き直しにもめげることがありません。

その熱意が編集部を動かし、連載をかち取るのですが、それは、同じアシスタント仲間で、なかなか芽がでない「栗山」にも大きな影響を及ぼし、彼がWebkコミックに浮気して三蔵山先生のところを辞めたり、といった騒動へと発展していくのですが、その顛末は原書のほうで。

後半部分では、雑誌編集の中で、あまり目立つことのない「校正」の担当者のお話が展開されています。「校正」関係は、以前、石原さとみさん主演でドラマ化された、宮木あや子さんの「校閲ガール」も賑やかな作風で魅力的なのですが、この「重版出来」シリーズの

知的な「校閲担当」百瀬さんも魅力的です。

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第7巻 黒沢は夢破れたスポーツマンを、無意識に勇気づける

第7巻の構成は

第三十七刷 カップ麺の数だけいいシーンは生まれる!
第三十八刷 イージーじゃないライダー!
第三十九刷 賞ほどステキなものはない!
第四十刷 HER!
第四十一刷 花に嵐!
ビジター編 トラトラトラの巻!

となっていて、連載が始まってた「ピーヴ遷移」の執筆に専念する中田伯くんだったのですが、そのコミュ障からアシスタントが長続きせず、原稿の仕上がりがどんどん締め切り間際になっていきます。そのため「バイク便」を使うこととなるのですが、そのバイク便のライダーが黒沢と同じように、夢やぶれたスポーツ選手という設定です。彼が黒沢と出会って、どう再起していくかがポイントになります。

後半部分では、一人の女性マンガ家が少女向けマンガから大人女性向けマンガへと転身していくのに、寄り添うように彼女をサポートしていく、一人のフリーの編集者の話が印象的です。特に、彼が作家を道具のように使い捨てする編集長に造反するエピソードでいう「守るべきは自分の立場じゃない。作品です。」という言葉には編集者としてのプライドが現れていますね。

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レビュアーの一言

第6巻の「北の書店から!」では、北海道の網走近くの町の小さな老舗書店経営者の奮闘が描かれています。外出がおっくうになってきた老人宅に、予約注文の週刊誌や月刊誌のほかに、トイレットペーパーなどの日用品を届けたり、壊れた電化製品の修理を街の電気屋さんに代わって頼んであげたり、と過疎が進む町を支える働きもしています。

日本の書店数は2000年のときに21,495店あったものが、2020年には11,024店と半分に減少しています。ただ、1店舗あたりの売り場面積のほうは拡大傾向にあるようなので、小規模店店舗、特に地方の書店の閉店が多くなっているようですね。

これはオンライン書店の普及といったことが大きく影響しているのでしょうが、かつて「本屋さん」が果たしていた「地域の知の拠点」的なところはオンライン書店では代替えできないところが多いように思います。この「本屋さん機能」を地域の中でどうカバーしていくかが、地域振興の課題の一つのように思えます。

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