柔道女子の新人漫画編集者・黒沢心の活躍が始まります=松田奈緒子「重版出来」1〜4

オリンピック出場を目指していた女子柔道選手・黒沢心が心機一転、大手出版社のマンガ雑誌の編集部員となり、一癖も二癖もある編集者たちに揉まれながら、変人やナイーブなマンガ家たちを担当しながら編集者として成長していく、編集者のお仕事系マンガのシリーズ「重版出来!」の第1弾から第4弾。

すでにえTVドラマ化がされるほどの人気マンガなので、知っている人多数かと思いますが、「重版出来」とは、印刷された初版の発行部数を上回って、さらに発行することの意味で「じゅうはんしゅったい」と読みます。出版社にとっては、ベストセラーと並んで魅惑的な言葉だそうです。

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第1巻 柔道女子・黒沢心、漫画雑誌「バイブス」に配属

第1巻の構成は

第一刷 黒沢心参上!
第二刷 ドラゴン危機一髪!
第三刷 Do The Right Thing!正しい行いをせよ
第四刷 売らん哉!松
第五刷 売らん哉!竹
第六刷 売らん哉!梅

となっていて、冒頭は日体々大学でオリンピックを目指していたのですが、怪我のため断念し一般就職に切り替えた柔道女子・黒沢心が、人気の出版社・興都館の入社試験を受けているところから始まります。就職面接でおなじみの圧迫面接にたじろく彼女なのですが、ここでは、興都館の社長が毎年恒例にしているらしい覆面面接の洗礼を浴びることになります。暴漢に扮して面接会場に竹刀をもって殴り込む社長に対し、柔道女子のとった行動は・・というところで、ここはけっこうメジャーな場面ですね。

そして、めでたく興都館に入社した黒沢の配属先は、経歴やバイタリティを活かせるスポーツ誌や営業部でもなく、漫画雑誌「バイブス」の編集部で、ということで、本編がスタートします。

中盤部分では、社長の半生が紹介されているのですが、黒沢のそれとは関連なく、高齢になりデッサンが狂ってきたとアシスタントに指摘され、引退を決意した大御所を、彼女のスポーツ女子らしい気づきで思いとどまらせます。

後半部分は、ほのぼの系漫画の「たんぽぽ鉄道」の販促活動で、希望とは違う漫画雑誌の「営業部」に配属されてヤル気を失っていた「小泉くん」が、黒沢の体育会系の奮闘や、編集部、書店、作者みんなが販促に取り組む熱意に巻き込まれて、「開眼」していく姿が描かれます。この話が書かれたのは2013年のあたりで、アベノミクスが始動して、景気回復ムードが高まっていたのも、話の筋に影響しているようです。

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第2巻 黒沢心、担当マンガ家をもつがトラブル続きの毎日

第2巻の構成は

第七刷 ぬ!
第八刷 一本道
第九刷 シンデレラの夜!
第十刷 押忍!SNS!
第十一刷 タイムマシンにお願い!山
第十二刷 タイムマシンにお願い!川

となっていて、この巻の冒頭で、主人公・黒沢心は、初めての担当をもつことになります。担当するのは「ツノひめさま」というSF異世界系マンガを描くバイブスで一、二を争う人気漫画家「高畑一心」。

安定した人気を誇るマンガ家なので、ハンドリングは楽かと思いきや、高畑が恋人に振り回されて執筆活動が大幅に遅れたり、「バイブス」の対抗誌「エンペラー」の引き抜きがか
かっていたり、と実はトラブルの種満載なのですが、さて、猪突猛進の「小熊」こと黒沢心はどう対応するのか・・という筋立てです。

後半部分では、かつ大人気だったタイムスリップもののギャグマンガの電子化をするため、電子書籍担当者と原作者・牛露田獏の許可をもらおうと訪問するのですが、その作者は人気作で稼いだ金もギャンブルや豪遊で使い果たし、妻にも先立たれ、すっかり零落しているのですが、未だに有名漫画家だった当時の夢が忘れられないでいます。

黒沢は、牛露田に反発している彼の娘・アユのことが気にかかり、彼女に接触するのですが、彼女は父親を軽蔑している上に一向に心を開こうとしません。黒沢は、父のマンガを読ませれば、彼女の心も変わるのではと思い・・という展開です。

電子書籍化は一応成功するのですが、牛露田の娘・アユには思ってもみなかった別れが訪れます。アユはこのシリーズで後に重要なキャラクターになっていくので、覚えておきましょう。

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第3巻 黒沢は二人の新人漫画家を手掛けるが、一人は別の編集者へ去る

第3巻の構成は

第十三刷 新人さんいらっしゃい!
第十四刷 才能のある者はその才能の奴隷となれ!
第十五刷 〇!
第十六刷 選ぶのはキミだ!
第十七刷 白、虹色、赤!
第十八刷 GIFT!

となっていて、前巻で担当マンガ家をもった黒沢だったのですが、今巻ではそれに飽き足らず、新人マンが家の原稿持ち込みを待っている姿から始まります。ただ冒頭では、有望な新人作家をしっかり見逃して、他社へ推薦してしまうという、作家に寄り添うアドバイスながら、雑誌編集者としてはチョンボをしでかしてしまいます。

そして、その失態を挽回するためのコミケの持ち込みマンガの「バイブス」の相談コーナーに座っていた時、この後、黒沢の編集者人生に大きな影響を及ぼすこととなる「東江絹」と「中田伯」という二人のマンガ家志望者の持ち込みを受けることになります。

「バイブス」では最初に持ち込みの相談を受けた編集者がとりあえず担当者となるというルールがあり、黒沢は二人のネームの指導を熱心に続けます。

中田伯の作品、後に「ピーヴ遷移」というタイトルで人気作となるマンガは、黒沢の推薦で絵がド下手ながら、そのストーリーで掲載にこぎつけるのですが、東江のほうは今ひとつのところでネーム直しが続き、焦った東江は担当編集者をベテランながら「つぶしの安井」という通り名をもつ、ドライでビジネスライクな編集者に乗り換えてしまいます。

安井は、東江の画力を活かして、小説のコミカライズで連載デビューをさせようとします。東江にとってそれは人気漫画家になる大チャンスであるとともに、ある危険をはらんでいて・・という展開です。

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第4巻 連載デビューする者、マンガ家を諦める者、悲喜こもごも

第4巻の構成は

第十九刷 ここが勝負の一里塚!
第二十刷 ホーム スウィート ホーム!
第二十一刷 MOVE!
第二十二刷 天の泉を汲め!
第二十三刷 時は過ぎゆく!
第二十四刷 アイムヒア!

となっていて、冒頭では、前巻であとはペン入れを済ますばかりの7話分の原稿を、映画の主役を演じるアイドルの事務所の意向ですべて書き直しになり、連載をもったとはいえ、心が削られていく新人マンガ家の東江絹が描かれます。

新人マンガ家を潰しかねない担当編集者の安井の仕事の仕方に怒りを覚える黒沢だったのですが、安井がそうした編集スタイルになった原因が、彼が以前属していた雑誌「FLOW」の
廃刊にあったのですが、そのあたりの経緯がこの巻で語られます。

巻の半ばでは、新人なのに早い連載デビューの決まった中井に対して、嫉妬のため、原稿に墨をかけてしまう先輩アシスタントの沼田だったのですが・・という展開です。
連載デビューを目指して、アシスタントを続けていても、夢の成就する者と夢を諦める者がでてくる。マンガの世界の厳しさを感じる筋立てです。

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レビュアーの一言

本シリーズの時代設定は、はっきりとは書かれていないのですが、黒沢の興都館の入社試験の問題に「オリンピックと国際政治」であることや、大御所の三蔵山先生が、ネットの掲示板でデイスられる時の、年月日表示が「201X/07/12」というあたりから、ロンドンオリンピックの開催された2012年から翌年の2013年あたりかな、と思います。

ちなみ2012年のマンガランキングは①ONE PEACE、②黒子のバスケ、③NARUTOーナルト、2013年のランキングは①ONE PEACE、②進撃の巨人、③黒子のバスケ、となっています。出来事的には、2013年にはアベノミクスが本格始動し、2回目の東京オリンピック招致が決まり、「お・も・て・な・し」が流行語となった時ですね。しかし、コミック誌・単行本の売上が5億円を割って、1990年代と同水準まで落ち込んだ、マンガ誌の冬の時代の流れは止まらない頃ですね。

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