就職面接でおきた「告発事件」の真相は?=浅倉秋成「六人の嘘つきな大学生」

流行のSNSを運営する最先端のIT企業「スピラ」が満を持して実施した総合職採用試験委に残った、優秀な6人の大学生に課せられた課せられた面接試験のグループ討議の議題は、「6人の中から入社するに最もふさわしいと思われる学生を選べ」というもの。

奇妙な椅子取りゲームとなった就職面接でおきた受験生の隠された秘密を暴く告発を軸に、面接会場内での心理的なかけひきと告発の犯人捜し、そして、その後の意外なドンデン返しが描かれた就活ミステリが本書『浅倉秋成「六人の嘘つきな大学生」(KADOKAWA)』です

あらすじと注目ポイント

構成は

「Employment examinationー就職試験ー」
「And Thenーそれからー」

の二部構成となっていて、冒頭のところでは、この物語の最初の語り手である「波多野」の手記が掲げられ、まず、ある就職面接でおきた事件の調査結果が語られていきます。

登場人物は、IT企業「スピラリンクス」社の就職選考に残った

・波多野祥・・この物語の最初の語り手、立教大学経済学部在学中
・嶌衣織・・小柄で色白のあどけない系の美人、早稲田大・社会学部在学中
・久賀蒼太・・端正な顔立ちのモデル並みの男性。慶応大学総合政策学部在学中
・袴田亮・・明治大学在学中。元高校球児で高校時代はキャプテン
・矢代つばさ・・語学力堪能なモデル系美人。お茶の水女子大・国際文化専攻。
・森久保公彦・・一橋大学在学中、情報収集に長けた秀才

で、この6名のメンバーが、最終面接の会場で遭遇した面接アクシデントが第一部のメインの話となります。

その前段として、この6人が志望した「スピラリンクス」という会社は、新しいSNS「スプラ」をリリースするや瞬く間に時代の最先端の企業に成り上がった会社で、ここが初めて募集した新卒総合職なので、5千人を超えるエントリー数があったという設定です。この超難関をくぐり抜けた6人なので、成績も面接技術も、人柄も当然秀ずば抜けている学生たちで、というのが物語のキモとなります。

物語は、まず「スピラリンクス」社の人事担当から、最終面接は会社が実際に抱えている案件に似たようなものをグループディカッションで解決する、という形式なのですが、6人が当時までに「最高のチーム」をつくりあげて課題を解決できれば6人全員の合格もありうる、という破格のやり方です。

当然、「優秀な」6人はミーティングを重ね、6人が一丸となったチームを作り上げていくのですが、このあたりの雰囲気が、「部活」ノリなのと、少しばかり恋愛風味もあって、ほほえましく進行していきますので、まずはこの雰囲気を楽しみましょう。

ところが、面接直前になって事態が一変します。突然、会社から、東北大震災の関係で会社の経営情勢が変わって採用環境も厳しくなり、ディスカッションの課題を「6人のうちで一番、スピラリンクスにふさわしい学生を一人選出しろ」に変更したと連絡が入ります。

面接直前の大変更にとまどいながら、会場に集まる6人はそれでも素直に課題解決のグループディスカッションを始めるのですが、会場の部屋のドアの陰に6人の学生それぞれの「隠していた悪評・悪事」が記された封筒が用意されていたことから、面接が一挙に「告発」の場へと変貌していきます。

そして、その内容が「高校時代、イジメの首謀者で同級生を自殺に追い込んだ」とか「高齢者を騙す詐欺事件に関わっていた」といった、その人物のイメージをとことん悪化させるものばかりです。

ここで告発者探しが始まって、監視カメラの映像から森久保が封筒を持ち込んだことがわかるのですが、彼は自宅に封筒が置かれていたものを持ってきたもので、仕掛けたのは別の人物だ、と主張します。

実は、森久保が詐偽犯だという告発も入れられていて、彼が仕掛け人だという疑惑は薄れるのですが、では一体誰が真犯人なのか、再び事態は混沌としてきます。

そして、封筒を開けずに処分しようという蔦さんたち一部の人の意見を無視して、封筒は開けられ、中の用紙に書かれている内容に影響されて、「一番、「スピラリンクス」にふさわしい人」もどんどん変わっていきます。で、最後から二番目の波多野を告発した封筒を開けてみると、「大学一年のとき、サークルの飲み会で未成年飲酒をした」という取るに足らないことが書いてあり、彼が実は本当の告発者ではないのか、と他のメンバーが疑い始めるのですが、波多野は本当の告発者に気づき・・という展開です。

第二部は、この選考の結果、入社することとなった蔦衣恵の数年後から始まります。彼女は入社後、ペイメント事業に異動し、現在は飽きられて収益性を失ったSNSサービスにかわって、会社の事業の中心部分を担っています。

多忙にしている彼女に、あの採用面接で罪をかぶって部屋をでていった波多野の妹と名乗る人物から、兄が病死し、遺品の中に蔦に関連したものがでてきたので届けたい、という連絡が入ります。

それは、何枚かの書類の入ったクリアファイルで、その一枚目の紙に「犯人、蔦衣織さんへ」と書かれていて、と言う展開です。採用面接で告発したのが自分ではないことを「確信」している蔦は、本当の告発者探しと、波多野が持ち帰ったまま行方がわからなくなっている、自分の秘密が書かれている告発の封筒探しを始めることになるのですが、そこででてきたのは5人の面接者の告発文には書かれていなかった、それぞれの「悪事・悪評」の本当の姿で・・という展開です。

Bitly

レビュアーの一言

第一部の面接会場での告発の連続と告発者のあぶり出しは緊迫感にあふれていて、それと並行して、だんだんと追い詰められていく「波多野」の裏切られ感が切ないのですが、第一部の終わりで一息ついたと思ったら、再び犯人捜しが始まって、と二重三重の仕掛けが施されているのが本作です。

ただ、陰湿な告発者探しに終わらずに、最後に光明の見えるしめくくりとなるのが、この作者の優しいところですね。嫌ミスが苦手な人も安心して読んでくださいね。

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