県警事務官が調べる「親友殺し」の陰に警察の闇が現れる=柚月裕子「朽ちないサクラ」

ストーカー被害を受けているという被害者からの訴えがあったにもかかわらず、犯人の行動を阻止できず、殺人事件にまで発展してしまうという残念な事件は現実の世界でも起きているのですが、その原因に警察の不祥事があり、それをスクープした親友の新聞記者が遺体で発見されます。その殺人事件の犯人を独自で調査する警察事務官がつかんだのは、もっと大きな警察の闇で・・という警察ミステリーが本書『柚月裕子「朽ちないサクラ」(徳間文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

物語の舞台は、同じ作者の「検事・佐方貞人」シリーズの舞台でもある米崎県の県庁所在地・米崎市にある県警本部。ここの広報広聴課に勤務する警察事務官・森口泉が主人公で、彼女が県民からの罵倒に近い苦情電話を受けているところから始まります。

実は、2週間前に、米崎市から車で30分ほど走ったところにある平井市で、ストーカー殺人が起きたのですが、そのストーカー被害者と両親から訴えを、所轄の平井中央署では数か月前から「証拠がない」として取り合わずに放置していて、被害者たちが弁護士を頼むと詰め寄ったところ、一転して訴えを受理することにしたのですが、受理期日を1週間後に伸ばしたところ、受理日の二日前に被害者はストーカー犯によって殺害されてしまったというものです。

なぜ、一週間延ばしたのか、警察に非難が集まる中、平井中央署は担当課が他の事件で謀殺されていたから、と弁明して事を収めようとするのですが、そこに、実は被害届を受理すると、その後の捜査などで、すでに計画していた慰安旅行が中止になる怖れがあったため、旅行終了後に受理することにしたのだ、というすっぱ抜き記事が地元新聞に踊ります。

慰安旅行のことは、中央署内と警察幹部だけの部外秘とされていたことなのですが、この物語の主人公・森口泉は、中央署に勤務する同僚から慰安旅行のお土産を貰ったことを、その新聞社に勤める親友の新聞記者・津村千佳に、「女子会」の際に不用意に喋ってしまいます。

後で、事の重大さに気づき、千佳に記事にしないよう頼みこみ、彼女も約束してくれたのですが、スクープ記事をモノにする誘惑には勝てなかったのか、と泉は千佳を問いつめます。

千佳は自分は記事を書いていないと泉の疑いを否定し、「この件には、何か裏がありそうな気がする」と、独自に調べてみると泉に告げるのですが、それから一週間後、地元を流れる川の河原で死んでいるのが発見され・・という展開です。

千佳が自殺ではなく、別の場所で溺死させられ、河原に遺棄されたのだということを県警広報広聴課の上司・富樫から聞いた泉は、彼女に慰安旅行のお土産をくれた米崎中央署の同期・磯崎とともに、千佳を殺した真犯人をつきとめようと独自調査を始めます。

二人が一番怪しいと睨んだのは、千佳が不倫をしていた、同じ新聞社の上司・兵藤で、彼に慰安旅行の情報を漏洩した人物が平井中央署内にいるはずだ、と千佳が死ぬ前に訪れていた「小先市」出身の人物が署内にいないか調べ始めます。そこで、通常なら任期更新してもらえるところをしてもらえず、不本意に職場を去っていった臨時職員の女性・百瀬を見つけるのですが、彼女が任期更新されなかったのは、職場の上司との不倫が原因で・・と、今回のスクープの舞台裏が明らかになっていきます。

泉は、このスクープを巡って、兵藤と千佳が争いになり、兵藤が彼女を手にかけた、と推理するのですが、スクープのネタをリークしたと思われる百瀬が、近くの山中で縊死しているのが発見され。ということで、事件は連続殺人事件へと発展していきます。

と、ここで第一の被害者「津村千佳」を遺棄するときに使ったと思われるレンタカーの借主が、あるカルト教団の信者集団の一人であることがわかり、さらに、最初にでてきたストーカー殺人の犯人もこのカルト教団の元信者であることがわかってくるのですが、ここで、この二つの事件と平井中央署が被害届の受理を先延ばしにしていた不祥事との間に介在する、ある警察内部の組織の関与が浮かび上がってきて・・という展開です。

ストーカー事件を放置していた不祥事と、新聞記者の殺人事件の謎解きを追っていたら:、いつの間にか、警察内部の強大な「闇の存在」ともいえる公安警察が目の前に現れてくる、驚きの警察ミステリーです。

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レビュアーの一言

本巻の主人公は、警察関係者ではあっても、捜査権も逮捕権もない、一介の事務職員が、親友殺しの犯人をつきとめるため、独自調査をしていく、という展開なので、調べるにも限界がある上に、最後にでてくる「警察の闇権力」を黙ってみているしかできないのですが、この物語から数年後、このくやしさをばねに、警察官となった「森口泉」が見られることとなりますので、次作の「月下のサクラ」もぜひ読んでみてください。

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