サチコは、富山、北海道、山形、鹿児島のソウルフードに魅惑される=阿部潤「忘却のサチコ」7~9

一流文芸誌の敏腕編集者「佐々木幸子」、通称「鉄の女・サチコ」が、結婚式の披露宴会場から、新郎・俊吾に逃亡されたショックを忘れるためにはまり込んだのが「忘却のグルメ道」。次から次へとやってくる仕事の難題を解決し、担当作家や上司のわがままを処理するため、このグルメ道に邁進し、日本各地の「名物」と東京の隠れた「うまいもの」を探求するグルメ漫画シリーズ『阿部潤「忘却のサチコ」(ビッグコミックス)』の第7弾から第9弾。

あらすじと注目ポイント

第7巻 サチコは富山撮影旅行で、「ホタルイカ」を堪能する

第7巻の収録は

第59歩 自炊にトライ!湯治旅・後編(盛岡・花巻)
第60歩 ミスマッチ!? 深夜の稲庭うどん
第61歩 ジュワー!! 伝説の?焼きそば
第62話 まったり! 昼下がりのごまそば
第63話 奇跡的!? ホタルイカを探せ・その一(富山)
第64話 奇跡的!? ホタルイカを探せ・その二(富山)
第65話 奇跡的!? ホタルイカを探せ・その三(富山)
第66話 奇跡的!? ホタルイカを探せ・その四(富山)
第67話 疲労回復! 夜明けのソルロンタン
第68話 食欲増進! ひんやりさっぱり冷し中華

となっていて、冒頭の「自炊にトライ!湯治旅」では、前巻で代行取材旅行で訪れた花巻の寂れた湯治場で、かつて結婚式から逃亡した新郎・俊吾に再会します。結婚式から逃走した理由を問い詰めるサチコで、俊吾から仕事が終わる午前4時に橋のたもとへ来てくれれば話す、という約束をとりつけるのですが、再び待ちぼうけをくらわされてしまいます。ここで、サチコの心を癒やしたのが焼きたてのイカ焼きで、この話からサチコの心から俊吾への未練が薄れていっているような気がします。

二番目の「ミスマッチ!? 深夜の稲庭うどん」では、サチコの自称ライバル・尾野真由美が登場し、人気作家の連載の奪い合いが展開されます。もちろん、勝者はサチコなのですが、尾野ファンには見逃せない負けっぷりです。

「奇跡的!? ホタルイカを探せ」では、サチコの属する文芸誌に新規掲載が決まったノーベル文学賞作家の依頼で、富山湾のホタルイカの身投げ写真をとるための取材旅行で訪れる富山でのグルメ三昧です。

最初は、最近人気沸騰の「白エビの刺し身丼」から始まって「ホタルイカの刺し身」へと続きます。そして、身投げ写真が中々撮影できず、宿泊が長引いての元気づけに「白エビのピルピル」と「ホタルイカとフレッシュトマトのスパゲッティ」です。「ピルピル」というのは、スペインのバスク地方で生まれた郷土料理で、にんにくと唐辛子、具材をオリーブオイルで煮た料理ですね。

そして、張り込みを続けていた富山湾から20キロ離れた魚津港でようやく撮影できた「身投げ写真」の記念に食すのは「ホタルイカのしゃぶしゃぶ」です。

このほか、「屋台のやきそば」や徹夜明けで食す蕎麦屋の熱燗と「ごまそば」、さらには担当作家からのコートジボワールの女子高生の制服といった難問調査の末の徹夜明けのソルロンタンの朝食といったメニューが提供されています。

第8巻 北海道新幹線の「ファーストクラス」で旅する北海道取材旅行

第8巻の収録は

第69話 電車でゴー!! 北の大地のソウルフード・前編(函館)
第70話 電車でゴー!! 北の大地のソウルフード・中編(函館)
第71話 電車でゴー!! 北の大地のソウルフード・後編(函館)
第72話 夏到来! 濃厚ふわふわかき氷
第73話 お見舞いスパイ大作戦! 心ほっこり鱧串(京都)
第74話 逆転の発想!? 晩夏の爽快! 担々麺
第75話 めざせ! 俳句 イン ワンダーランド・前編(山形)
第76話 めざせ! 俳句 イン ワンダーランド・中編(山形)
第77話 めざせ! 俳句 イン ワンダーランド・後編(山形)
第78話 最強コンビ! MC塩辛とDJごはん

となっていて、冒頭の「電車でゴー!! 北の大地のソウルフード」では、第3巻の「北斗星」に引き続いての、北海道新幹線のグランクラスに乗っての鉄道乗車ルポです。同じ編集部には「小野寺」という鉄道ファンの先輩編集者がいるのですが、いつもサチコに鉄道ルポが回ってくるのは、編集者としての仕事ぶりの差か編集長のえこひいきか、どっちかのようですね。

そして、一車両18席しかない、新幹線のファーストクラスでサチコの食するのは、銀ひらすの漬け焼き、鶏肉の塩麹焼串といった内容の和軽食なのですが、仙台の3分間の停車中に牛タン弁当を買い込んでくるのは彼女らしいところです。

そして函館でのご当地ルポでは、「やきとり弁当」、ハッピーピエロの「チャイニーズ・チキンバーガー」、函館朝市での「かにまん」「函館塩ラーメン」といったラインナップです。

後半の「めざせ! 俳句 イン ワンダーランド」で訪れる山形では、なんといっても地域の名物「芋煮」からスタートせねばなりますまい。新潟や宮城などからもご当地名物として名乗りが上がるかもしれませんが、やはり一番有名なのは山形で決まりでしょう。コクのあるスープを飲み干した後、ゲリラ豪雨に襲われるというハプニングに見舞われるのですが、そのおかげで、「北海道ではなく山形が発祥の地」という異説のある山形の「ジンギスカン」に出会うこととなります。

このほか流行作家の愛人と奥さんとのバッティングを回避した京都での「鱧」の串焼きセットや、冷房の壊れた編集部の事務室でダラダラ汗を流した後の激辛「担々麺」などが提供されています。

第9巻 サチコは鹿児島で、マッチョパプ勤務の俊吾に再会する

第9巻の収録は

第79話 旨さモーレツ! 神戸牛ハンバーグ(兵庫)
第80話 シンプル・イズ・ベスト! 本格マルゲリータ
第81話 新発見! お月見オムライス
第82話 行くでごわす!! 薩摩メモリアルツアー・前編(鹿児島)
第83話 行くでごわす!! 薩摩メモリアルツアー・中編(鹿児島)
第84話 行くでごわす!! 薩摩メモリアルツアー・後編(鹿児島)
第85話 食感連鎖!三重奏の焼き餃子
第86話 体の芯に熱々を! あんこぎっちり鯛焼き
第87話 どすこい! 宇宙力士の?ちゃんこ鍋
第88話 雪山逃走劇!? 力漲る軍鶏鍋(福島)

となっていて、中ほどの「行くでごわす!! 薩摩メモリアルツアー」では大学時代、仲の良かったゼミ仲間二人とで、卒業旅行で行った鹿児島へのリピート旅行です。

しかし、鹿児島空港限定の空弁「桜島灰干し弁当」を食しながら北海道に住んでいる二人を待っていると、吹雪で飛行機が欠航になり、その日には鹿児島に漬けない、という連絡が入ります。やむなく、サチコは一人で鹿児島旅行をすることとなり・・という展開です。

サチコは、以前の鹿児島旅行をリピートして、「白くまのかき氷」「六白黒豚の桜島溶岩焼き」を堪能するのですが、ここで偶然、マッチョパブで働いて、その店の売れっ子になっているらしい俊吾に再会して、という展開です。

彼のことが記憶から消えてしまいそうなところを見計らって登場するのが、いつものパターンですね。ちなみに、なぜ俊吾が鹿児島のマッチョパブで働いているかは明らかになっていません。

このほか、神戸在住の作家と徹夜で飲み明かした早朝の「神戸牛ハンバーグ」や、イタリア人人気作家の取材旅行につきあったあとの大判の「マルゲリータ・ピザ」など少々、胃にもたれる料理が今巻は多いようです。

レビュアーの一言

第7巻で「ホタルイカの身投げ」の写真をとるために富山県に向かうサチコなのですが、実はホタルイカは新潟県から鳥取県の日本海側の沿岸で広く水揚げされていて、富山県限定の魚種ではありません。

ただ、多くの県が底引き漁で捕獲するに対し、海岸近くまで大群で押し寄せてくるのは富山湾だけなので、富山県がホタルイカ漁のメッカみたいになっているわけですね、漁獲量的にみると富山県は全国第二位で、第一位は兵庫県という結果になっていて、兵庫県新温泉町の浜坂漁港はここ一港で富山県全県に匹敵するほどの水揚量があるそうです。

ただ、深海底に住むホタルイカが産卵期を迎え、一斉に岸に押し寄せ、打ち上げられる際にパッと蒼白く光る「身投げ」は富山湾特有の現象といってよく、水揚量だけではない付加価値が富山湾のホタルイカの魅力といえそうですね。

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