ロレンツィオ・メディチの病状悪化の中、ジョヴァンニは一族念願の枢機卿に=惣領冬実「チェーザレ」8~10

どんな手段や非道徳的な行為であっても、結果として国家の利益を増進させるのであれな許されるという「マキャベリズム(権謀術数主義)」を唱えた、イタリア・ルネサンス期の政治思想家であるニッコロ・マキャベリから、「理想の君主」と讃えられながら、志半ばで戦乱に斃れたチェーザレ・ボルジアの半生を描いたシリーズ『惣領冬実「チェーザレ」(モーニングKC)』の第8巻から第10巻まで。

前回で、チェーザレがコーディネートしてジュリア―ノ・メディチに建設させていたピサの工場へ放火した犯人の正体がわかり、そのせいで、ジュリア―ノは昔から一緒に過ごしていた従兄弟や忠実と思っていた配下を失ったのですが、今回はスペインにおける国土回復運動「レコンキスタ」が終結し、ヨーロッパからイスラム勢力が追放されたほか、ジョヴァンニ・デ・メディチがピサ校を卒業し、いよいよ枢機卿への道が開けます。

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あらすじと注目ポイント

第8巻 ピサ大司教とメデイチの和睦の陰に、暗雲が忍び寄る

第8巻の構成は

Virtù62 1492年
Virtù63 星の下で
Virtù64  フィレンツェ
Virtù65  フィレンツェ2
Virtù66  遭遇
Virtù67  ニュクス―夜の女神―
Virtù68  パッツィ家の陰謀
Virtù69  闇に潜む者
Virtù70  掌の中
Virtù71  祝祭

となっていて、前半では、イスラム教徒から八百年ぶりに国土を取り戻したスペインの王族やキリスト教徒が祝杯をあげるなか、ヨーロッパに覇を唱えることを目論むフランス王シャルルの姿が描かれます。さらに教皇庁でもミラノに拠点をおくスフォルツァの一族+ロドリーゴ・ボルジア枢機卿とジェノヴァにを拠点にしてフランスとも通じているローヴェレ枢機卿との対立が表面化していて、イスラムの脅威を排除した後は、お家芸の内部対立が激化してきているようです。

チェーザレのほうはパッツイの乱以後、仇敵関係になっているピサのラファエーレ大司教とロレンツォ・デ・メデイチを和睦させるため、大司教を同行してフィレンツェにやってきているのですが、和睦の計略がうまく進んでいくのと裏腹に、ボルジア家に巣食うジュリア・オルシーニと父との不倫に気づくこととなります。この当時、性的関係は相当自由であったのですが、さすがに愛人の連れ子とできてしまうのは誉められたことではなかったようですが、当事者のジュリアが成り上がっていく手段として有効活用しようとしているのが、なんともスゴイところです。

中盤では、ラファエーレ大司教とメディチ家の和睦の場面が描かれているのですが、対立の原因となった、ローマ教皇とフィレンツェの反メデイチ派の有力者パッツィ家と共謀して、ロエエンツォ、ジュリアーノを襲撃し、メディチ家を存亡の危機に陥れた「パッツィ事件」がとりあげられているのでおさえておきましょう。ルネサンス前後というと「優雅」なイメージがあるのですが、意外と血なまぐさい戦乱時代であったことがわかりますね。

そして、和睦成立の陰で、今後のフィレンツェの情勢を大きく変えていく、ある出来事が進行していることにチェーザレは気づくのですが・・という展開です。

第9巻 ローヴェレ枢機卿の大陰謀により、半島情勢が震撼する

第9巻の構成は

Virtu72  ローマの娘
Virtu73  波乱の幕開け
Virtu74  ヴァティカンの住人
Virtu75  飛び火
Virtu76  試される時
Virtu77  聖と俗
Virtu78  次世代たちへ
Virtu79  進むべき道
Virtu80  道標
Virtu81  決意

となっていて、冒頭部分ではアンジェロの依頼で、チェザーレの側近のミゲルがフィレンツェにあるアンジェロの祖父の工房を訪問しています。アンジェロ自体は架空の登場人物なので、ここは当時の工房やサン・マルコ地区の雰囲気を味わっておきましょう。

中盤部分では、これからイタリアの政治情勢が大きく動く原因となるローヴェレ枢機卿の大陰謀が姿を見せてきます。それは、いままで敵対関係にあったナポリ王国と教皇庁が和解し同盟を結ぶ、というもので、これは、ナポリ・ミラノ・フィレンツェの三国同盟の解消にもつながり、さらには教皇庁の軍事を担っているヴェネツィアにも影響するというもので、次期教皇選での大波乱を予測させるものとなります。

一方、チェーザレのほうは、ナポリと教皇庁の情報をローマのボルジア本家へ送った後、サン・マルコ修道院でのサヴォナローラの説教会に潜入しています。こちらのほうも、「反メディチ」「反教皇庁」を鮮明ししたもので、サヴォナローラの宗教改革も波乱の目となりそうな雰囲気ですね。

後半部分ではアンジェロが幼馴染のミケランジェロに再会したり、焼失後再建されたピサのメディチ工場にキンツィカの貧民区にいた子供の就職をあっせんしたり、工房周辺の整備に頑張っています。このへんは次の伏線というより、チェーザレと過したピサでの思い出の伏線回収というところでしょうか

第10巻 チェーザレの意地悪質問を乗り越え、ジョヴァンニは一族待望の枢機卿になる

第10巻の構成は

Virtu82  とある雪の日
Virtu83  卒業
Virtu84  卒業Ⅱ
Virtu85  卒業Ⅲ
Virtu86  春の訪れ
Virtu87  道標 波光
Virtu88  風の中で
Virtu89  空と海と
Virtu90  若き担い手たち
Virtu91  新たなる旅立ち

となっていて、前半からは、ジョヴァンニがピサ校を卒業するための口頭試問が始まっています。

ジョヴァンニの希望で試験会場にはピサの一般民衆が傍聴しているのですが、試験官は学校側が選抜した人々で、そんなに厳しい質問がされるわけもなく、ジョヴァンニはそつなく答えていきます。

そんな中、最後の試験官となったチェーザレが発した質問は「銀行家が利子をとるのは聖書の教えに反するかどうか」というもので、銀行業を本業とするメディチへの批判ともとられる設問です。厳しく追及してくるチェーザレの質問に対し、ジョヴァンニの答えは彼の正直な心情の吐露ともいえるもので、ということで詳細は原書で。もちろん結果は合格で、学位を取得したジョヴァンニは枢機卿への任用資格を獲得することとなります。

後半部分では、一族の念願であった枢機卿を出し、権勢も極まったメディチ家の様子が描かれていくのですが、病に伏せるようになったとロレンツォに対し、メデイチ家の力を誇示し、フィレンツェで貧しい民衆の支持を集め始めているサヴォナローラを力でねじ伏せようとしている現当主・ピエロの姿が描かれます。

少しネタばれすると、ロレンツォの死後、ピエロの強硬路線がメディチ家を滅亡させかねない動きへとつながっていくのですが、ここのところは次巻以降のお楽しみですね。

レビュアーの一言

本シリーズで、イタリア諸国に干渉してくるフランス王国は、14世紀半ばのシャルル七世のときにジャンヌ・ダルクの活躍でイングランド軍を押し返し、百年戦争に勝利してからは中央集権化によって強国への道を歩み、

この物語当時国王・シャルル8世の時には、婚姻によってブルターニュ公の所領を手にいれ、さらに得たインノケンティウス8世からナポリ王への推薦を得たことから、ナポリ王国の王位継承権を主張して1494年にイタリアに侵攻して第1次イタリア戦争を引き起こしています。この時期にジョヴァンニもフィレンツェを兄弟とともに追放されています。

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