ヨーロッパの有名な童話の主人公である可憐な少女「赤ずきん」とは大きく違って、口八丁手八丁の「赤ずきん」が旅をしながら、謎解きと冒険を繰り広げていく、異色の童話ミステリー「赤ずきん」シリーズの第2弾が本書『青柳碧人「赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う」(双葉社)』です。
第1弾の「赤ずきん、旅の途中で死体と出会う」では、クッキーと赤ワインを持って旅に出た「赤ずきん」がその途中で、「シンデレラ」の馬車のおこしたひき逃げ事件や「ヘンゼルとグレーテル」が犯った魔女殺しと継母殺しなどの謎を暴く名推理をしたのですが、今回は、バラバラになったピノキオを拾ったことをきっかけに「親指姫」「白雪姫」や「ハーメルンの笛吹き」「三匹の子豚」が巻き起こす事件の謎に迫ります。
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あらすじと注目ポイント
構成は
第一幕 目撃者は木偶の房
第二幕 女たちの毒リンゴ
第三幕 ハーメルンの最終審判
幕間 ティモシーまちかど人形劇
第四幕 なかよし子豚の三つの密室
となっていて、第一話の「目撃者は木偶の房」では、赤ずきんが、森の奥に住む猟師のおじさんのところへクッキーとワインを届けにいく途中で、木でできた人形の右腕を拾うところから始まります。
その右腕は自分の名前が「ピノキオ」であること、本当の人間になるために家出したのですが騙されて旅回りの一座に売られ、「マダムおやゆび」の一座の見世物にされていることを紙に書いて助けを請います。まったく気ののらない赤ずきんだったのですが、ピノキオに同情したお母さんの言いつけで、ピノキオ救出に乗り出す羽目になり・・といった筋立てです。
しぶしぶ「マダムおやゆび」の親指一座に出向いた赤ずきんだったのですが、マダムおやゆびはピノキオは金貨百枚でないと売らないと法外な値をふっかけ、赤ずきんをあしらった末に放り出されてしまいます。
その日はやむなく憤慨しながら家へ帰った赤ずきんのもとへ、翌日、親指一座のスタッフである「キツネのアントニオ」が絞殺されたと警察がやってきます。さらに、赤いずきんを被った女の子がひもで首を絞めていたのを見た、とピノキオの「頭部」が証言し、赤ずきんが犯人として捕まりそうになります。赤ずきんは濡れ衣を晴らすため真犯人をつきとめようとするのですが・・という展開です。
この第一話の最後で、ピノキオの胴体と左腕と二本の足が魔女に盗まれてしまい、赤ずきんは成り行きでそれを取り戻しに旅に出るというお決まりのいいかげんなスタートです。
第二話の「女たちの毒リンゴ」では、童話の世界で悪役の代表格とされる「白雪姫」の継母のお妃「ヒルデヒルデ」が主人公となります。
王様が死んだ後、国政に関する方針の対立から白雪姫を猟師プッチにいいつけて森に追放した「ヒルデヒルデ」は、ある時、魔法の鏡で白雪姫の様子を観察していると彼女が厄介になっている小人たちの家で、一人の小人が、実と根を同時に食べると死ぬが別々に食べれば無害な「ゴブリンビーンズ」を食べて死ぬところを目撃します。「白雪姫」が目障りな「ヒルデヒルデ」は今までも「白雪姫」の暗殺計画を練っていたのですが、彼女は自らが人に手をかけて殺すち魔力が失われてしまうという弱点をもっていたため、踏み切れずにいたのですが、このゴブリンビーンズを使えば、自ら手ぞ下さずに「白雪姫」を亡き者にできるアイデアを思いつきます。
そして、童話どおり「ヒルデヒルデ」は「リンゴ売りのおばあさん」に扮してゴブリンビーンズの根の汁を注入した毒リンゴを白雪姫に食べさせます。その後、ゴブリンビーンズの実入りのクッキーを誰かにもっていかせて食べさせれば、実行犯が「ヒルデヒルデ」になることなく「白雪姫」を暗殺できるという計画なのですが、実はその計画は白雪姫が見抜いていて、白雪姫はそれを逆に利用したある犯行計画を仕掛けていて・・という展開です。
この話では「ヒルデヒルデ」が子育てに苦労する母親を支援する政策をおこなうのですが、贅沢好きの「白雪姫」がそれをぶち壊しにして国家財政に大穴をあけている、というトンデモない事情が明らかになるので、ディズニーの「白雪姫」ファンはお怒りになりませんように。
このほか、ネズミを退治した後、町の人が報酬を払わないので町の子供を連れて行ったハーメルンの笛吹き男は、その後、町の人の捜索でリューベックの町で確保され、今後、子供を連れ去る曲が吹かれてもその音をかき消すように、一日中マンドリンを弾く罰を受けているのですが、赤ずきんが、本当の「ハーメルンの笛吹き男」の正体を明らかにする「ハーメルンの最終審判」や魔女の弱みを掴んで、100年の命を手に入れた「三匹の子豚」の兄弟が、さらに百年の命を手に入れる儀式を行う前に連続死をとげる「なかよし子豚の三つの密室」が収録されています。
ちなみに、最終話では「三匹の子豚」は攫ってきた人間や人間の子供を「豚」に変えて「奴隷豚」として使役して暴利をむさぼっている大悪党に変身しています。
レビュアーの一言
「むかし話」ミステリー・シリーズと並んで、人気の「赤ずきん」シリーズなのですが、今巻でも、童話の世界では、あどけなかったり、無邪気な主人公たちが実は「悪意」に満ちた人物で、悪役とされている人物が善玉だった、という逆転の構図は健在です。たった一人の例外はピノキオで、これは原作のように、嘘つきで怠け者で、人に騙されやすいおっちょこちょいとして描かれています。
まあ、ピノキオまで悪党になってしまうと、本編中、悪者だらけのノア―ル・ミステリーになってしまうわけで、こうなると世のお父さんお母さんやよい子たちからの猛非難は必至なことは間違いないので、作者としてはそこまで「火中の栗」は拾えなかった、ということでしょうか。
さて、西洋の有名な童話のほとんどを、赤ずきんが謎と秘密を暴いてしまったわけなのですが、次はアラビアンナイトあたりに出没してもらうと嬉しいですね。
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