中堅ゼネコンの連続死事件の陰に隠れた悪党に裁きの鉄槌を=中山七里「祝祭のハングマン」

おおがかりな経済事件や汚職事件で犠牲者や自殺者がでて、そこで捜査が打ち切られて実行犯までしかわからないという結末をみて、この事件の本当の黒幕は、今でもぬくぬくと私腹を肥やしているのかもしれないな、と義憤を感じたことはあなたもあるかと。

父親の勤務する会社でおきた連続死事件を担当することになったのをきっかけに、そこに潜む「隠れた悪党」を娘の刑事が糾弾していく現代版「必殺仕事人」ミステリーが本書『中山七里「祝祭のハングマン」(文芸春秋)』です。

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あらすじと注目ポイント

構成は

一 暗中模索
二 疑心暗鬼
三 愛別離苦
四 遅疑逡巡
五 悪因悪果

となっていて、冒頭は、本編の主人公「春原瑠衣」が朝食も早々に警視庁本部の刑事部の大会議室で開かれている捜査本部の会議に滑り込むところから始まります。

捜査本部が立ち上げられた事件は、都内のホテルで開催されたパーティーで参加者二十名のうち、日坂国会議員を含む十七名が毒殺されたという大量殺人事件で、この捜査には筆者の他の作品の主要キャストとなる「麻生班」の「麻生」や「犬養」も登場しているのですが、今回は直接の関係はありません。

「瑠衣」の所属しているのは、あまり成果をあげていない「宍戸班」で、同僚の志木とともに毒殺現場のホテルへ地取りにでかけるのですが、ホテルのある新橋駅の周辺で、歩道から突き飛ばされた男性がトラックに轢かれて死亡するという交通事故に遭遇します。

その被害者が偶然、父親・誠也が勤める中堅ゼネコン「ヤマジ建設」の資材課の責任者・藤巻という人物で、父親の同期ということがわかります。藤巻が突き飛ばされたという話を聞いて、捜査の状況を細かく教えてくれと頼む誠也に対し、瑠衣は守秘義務があるからと冷たく突っぱねます。この行動の底には、現在、被害者に国会議員が含まれている大量毒殺事件への捜査で大忙しということも隠れていて、一介のゼネコン社員の事故死の捜査など小さな事件、といった本庁刑事の自負と驕りもあるようです。

しかし、成績の芳しくない捜査班に属している瑠衣のチームは、このヤマジ建設社員の事故死事件の聞き込みに回されることとなり、父親との接触を故意に咲けているうちに、二人目の犠牲者が出ます。場所は地下鉄の半蔵門駅の5番出口で、階段の最上段から後ろ向きに転倒して死亡したもので、誰かに知突き落とされた可能性が高い状況です。

社員の連続死ということで会社の中枢部から情報をとろうとする「瑠衣」と相棒の志木なのですが、会長秘書の妻池の固いガードの前に、公式情報以上のネタはとることができない上に、半蔵門線駅の聞き込みでは、藤巻の葬儀のときにも参列していた「鳥海」という私立探偵から、聞き込みが杜撰だとせせら笑われてしまいます。
さらに、瑠衣の父親・誠也が、二番目の犠牲者・須貝の葬儀の時に、ヤマジ建設の会長につかみかかろうとして排除され、怪我を負うという事態もおき、父親ルートでヤマジ建設の内部情報を手に入れるという方法も使えなくなってしまいます。

そして、藤巻も須貝も父親の同期だということなのですが父親は何を隠しているのか、と瑠衣の疑惑が膨れ上がりつつあるところで、今度はその父親・誠也が建設現場で落下してきた鉄骨の下敷きになって死亡するという事件がおき・・という筋立てです。

この後、事件被害者の肉親ということで、瑠衣はヤマジ建設の一連の事件の捜査から外され、大量毒殺事件の地取り捜査のほうへとまわされるのですが、仕事の合間を縫って、勝手に独自の捜査を継続します。
そこに現れたのがゼネコンの裏ガネづくりと収賄事件の隠密調査をしている東京地検特捜部の神川という検事です。彼の話から、父親がヤマジ建設が関わる汚職事件に巻き込まれていたらしいことを察した瑠衣なのですが、それ以上は踏み込むことができず、独自調査をしていることがバレ、謹慎処分をを命じられてしまいます。

そんな折、半蔵門駅であった私立探偵「鳥海」がやってきて「(父親を含む)三人を殺した犯人はわかっている」と告げ、その証拠を見せると、瑠衣を「鳥海」たちの秘密のアジトへと連れていきます。
どうやら、「鳥海」たちは「法律で裁けない悪党たち」をして私的に始末する行為を繰り返しているようで、瑠衣は当初その行動に反発を覚えるのですが、のうのうと我が世の春を謳歌している父親を殺した犯人たちの様子に怒りをおぼえて・・という展開です。

レビュアーの一言

今巻で主人公の瑠衣がヤマジ建設事件のほかに関わっている「富士ホテル大量毒殺事件」は、筆者の生み出した稀代のダーク・ヒロイン、蒲生美智留と有働さゆりが登場する「嗤う淑女 二人」で起きる最初の事件で、これからバス爆発や中学校放火殺人と立て続けに凶悪事件がおきてくるのですが、「瑠衣」はその捜査部隊の下っ端の一人として駆り出されたということかと。

さらに父親の汚職事件とのかかわりを調べるために自宅の家宅捜索にやってきた東京地検検事の「神川淳平」は、筆者の数少ない恋愛サスペンス「月光のスティグマ」で、ヒロインの八重垣麻衣・優衣の美辞姉妹の幼馴染として登場する人物ですね。となると、今回のヤマジ建設の贈収賄も「震災育英基金」の事件と関連しているのかもしれないですね。

さて、今巻では春川瑠衣は、現役の警視庁捜査一課の係員のままで物語を終わっているのですが、様々な暗部に関わってしまった彼女はどうするのでしょうか

佳依子からの電話はそれで切れた。
お元気で、か。
肉体的にはすこぶる調子がいい。だが精神の一部が失われたまま、虚しく隙間風が吹いている、
この虚ろはいったいどうしたら埋まるのだろうか。

とつぶやく彼女と物語最後の「私刑執行人(ハングマン)」とが妙にリンクするよね、と思うには私だけでしょうか。「続編を乞う」といったところですね。

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