ローマの大敗北後、猛将・マルケルスはハンニバルへの反撃を開始する=「アド・アストラ」7・8

紀元前3世紀、地中海をその支配下に収めつつあった強国「共和政ローマ」に反旗を翻し、ローマ史上最大最悪の苦難をもたらした、アフリカ大陸北岸にあったフェニキア国家「カルタゴ」の将軍・ハンニバルと、彼を斃し、ローマを滅亡の危機から救った救国の武将「スキピオ」の戦いを描いたローマ戦国史『カガノミハチ「アド・アストラ」(ヤングジャンプコミックスDIGITAL)』シリーズの第7弾から第8弾。

前回では、ハンニバルの見事な作戦により、ローマ軍がカンナエで大敗し、スキピオの許嫁の父である執政官のアエミリウスやその旧友の将軍・ミリアヌスなどローマ軍の名だたる武将が戦死し、スキピオの友人のガイウスも片目を失う負傷を負います。今回のタームでは同盟都市のローマからの離反が始まる中、敗残兵ととしてシシリアに送られたスキピオが猛将・マルケルスのもとで復活を果たしていきます。

あらすじと注目ポイント

第7巻 スキピオは猛将マルケルスとともにハンニバルへの反攻開始

第7巻の構成は

第39話 同盟都市カプア
第40話 将の器
第41話 打倒マハルバルのために
第42話 ノラ攻防戦
第43話 それはスキピオ
第44話 孤高の将
第45話 忠臣の使命

となっていて、カンナエの大敗北の後、捕虜となった兵士の買い取りをハンニバルはローマに要求するのですが、ローマ元老院は拒否し、徴兵年齢を17歳まで下げるとともに奴隷を兵士として徴用することとなります。買い取りの拒否はハンニバルに多額の軍資金が渡ることを避ける意味があったのですが、それ以上にこれからのローマに影響を及ぼしたのは、「市民の崇高な責務」とされていた兵役を「奴隷出身者」にも解放したことではないか、と思います。以後のローマ史で、奴隷出身の将軍や皇帝が出現した基礎になっているように考察します。

そして、中盤ではローマの同盟都市「カプア」がハンニバル軍に城門を開き、ローマへ反旗を翻しています。

この場面で「カプア市民は異民族であるローマ人の・・」というシーンがあるように、当時、エトルリア人が主流であったと思われる「カプア」の人々にとって、フェニキア人のハンニバルもローマ人も異民族であることには変わりがなく、どちらが優勢かで帰趨を決めたというところなんでしょう。この決断が最終的にどういう結末を招いたかは、後巻で明らかになるのですが、これはカプアの為政者の選択ミスというより「不運」だったとしかいえないですね。

そして、この離反が続く同盟都市の動きの中で特異な動きをしたのが「ノラ(ノーラ)」という現在のナポリ近くの都市です。ここは、カンナエの戦いでハンニバルに命を助けられ忠誠を誓った「バンディウス」が統治していたのですが、彼を「戦士」として丁重に扱ったマルケルスによって、ローマ側に転じ、以後「ノラ」はローマ側の重要な拠点として、ハンニバル戦争(第二次ポエニ戦争)の間に三度にわたって激しい戦闘が行われています。

さらに、世話になった村人をマハルバル勢によって惨殺された「ガイウス」も帰陣し、マハルバル打倒を目標にマルケルスのもとで厳しい剣修行をすることになります。

で、この「ノラ」攻防戦なのですが、攻めるハンニバルのほうは、マルケルスを軍の先頭に立って突進してくるだけの、時代遅れの武将と侮っていることがミエミエで、得意の包囲網を敷いて殲滅しようとするのですが、このマルケルス軍にスキピオが参陣していることに気づいていません。「ノラ」攻防戦の最初の戦闘では、ハンニバルの陽動作戦を真似たスキピオの作戦にハンニバル軍が翻弄され撤退を余儀なくされています。

さらに、カルタゴ本国に援軍を依頼するために帰国したハンニバルの弟「マゴ・ガルバ」が政敵ハンノの策略によって、援軍どころかヒスパニア(スペイン)にある銀鉱をローマ軍から守るために派遣されるとなり、ハンニバル本軍のほうでは、挙兵以来の部下である「マハルバル」がハンニバルの慎重な態度に不満をもって造反を考え始めるなど、ハンニバル軍の統率が乱れていく種が芽吹き始めます。

第8巻 ノラ攻城戦で、ガイウスはハンニバル軍の重鎮・マハルバルを斃す

第8巻の構成は

第46話 ノラ、次なる戦いを前に
第47話 長槍vs投擲
第48話 勇猛と臆病と
第49話 シラクサの天才科学者
第50話 シラクサ潜入作戦
第51話 確率勝負

となっていて、冒頭では、ハンニバルの作戦に大っぴらに不満を示し始めたマハルバルを懲らしめるため、ハンニバルは彼に指揮を任せることとにします。マハルバルの才覚がそんなにではない、という判断なのですが、これはハンニバルの見込み違いで、意外な将才を見せることになります。

そのマハルバルに対し、ローマ軍の指揮官・マルケルスが採ったのは、海戦用の「長槍」の活用です。ハンニバル軍の機動力の中心となるヌミディア騎兵やイベリア・ガリア騎兵の突進攻撃を長槍で食い止める作戦なのですが、スキピオの予測通り、遠方から飛んでくるバレアレス投石兵の投石攻撃と抜群の操馬術を駆使して投槍を仕掛けて突撃してくるヌミディア騎兵の攻撃に翻弄されてしまいます。攻め込まれる中で、スキピオの忠告を思い起こすマルケルスは、長槍を捨てて防御戦に方針転換することとなり、という筋立てです。

一方、スキピオのほうはガイウスに仇を討たせるため、マハルバルを挑発し、森の中へと誘い込みます。そこには、スキピオが用意していた縄梯子の罠が仕掛けられています。これによって馬から降ろされたマハルバルに対し、ガイウスの剣が襲いかかり・・という展開です。

後半部分では、国王の死亡に乗じて、カルタゴ陣営に入り、ローマ軍を悩まし始めた「シラクサ」の攻略hへスキピオが派遣されます。

このシラクサでローマ軍を翻弄しているのは、天才数学者「アルキメデス」です。

彼の開発した、巨大な鈎爪で城壁に近寄る敵艦船を釣り上げて破壊する「アルキメデスの鉤爪」や光を集めて帆船の帆に火をつける武器でローマ軍を悩ましています。このシラクサにマケドニアの密使に扮してスキピオが潜入し、アルキメデスと接触を図るのですが・・という展開です。

レビュアーの一言

今回はローマ軍を「カンナエの戦い」で撃破し、勢いの衰えないハンニバル軍に対し、じわじわとローマ軍が楔をうち始める様子が描かれます。

カンナエの戦い以後、ハンニバル軍はマケドニア近海で「ギスコ」、ノラ攻城戦で「マハルバル」を失い、カルタゴの反ハンニバル派によって弟「マゴ」がイベリアに遠ざけられるなど、戦力が削られていっています。

ローマ軍と違って、兵力の補給もガリアやイベリアの傭兵に頼らざるをえなかったハンニバル軍にとって、味方戦力が削られていく影響は大きかったと思われるのですが、これを補う新しい才能が登場してこなかったのは、孤高の天才であるハンニバルの存在が大きすぎたことにもあったのかも、と思う次第です。

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