古代の覇権国「ローマ」を脅かした男「ハンニバル」の戦い始まる=「アド・アストラ」1・2

紀元前3世紀、地中海をその支配下に収めつつあった強国「共和政ローマ」に反旗を翻し、ローマ史上最大最悪の苦難をもたらした、アフリカ大陸北岸にあったフェニキア国家「カルタゴ」の将軍・ハンニバルと、彼を斃し、ローマを滅亡の危機から救った救国の武将「スキピオ」の戦いを描いたローマ戦国史『カガノミハチ「アド・アストラ」(ヤングジャンプコミックスDIGITAL)』シリーズの第1弾から第2弾。

あらすじと注目ポイント

第1巻 ローマ最悪最強の敵「ハンニバル」登場

第1巻の構成は

第1話 怪物誕生
第2話 常識を疑え!
第3話 若獅子のめざめ
第4話 煽動
第5話 邂逅、天才と怪物
第6話 深謀

となっていて、物語の本編は紀元前241年、20年間にわたって続けられてきた第1次ポエニ戦争の終盤の頃からスタートします。

第1次ポエニ戦争はシチリア島の統治をめぐってローマとカルタゴが戦った戦役で、物語のおよそ8年前、本シリーズの主人公「ハンニバル・バルカ」の父「ハミルカル・バルカ」がカルタゴの将軍としてシチリア島をほぼ掌握したのですが、勝利を目前にして、ハミルカルの政敵であった「ハンノ」が海軍を縮小したことがきっかけで、紀元前255年にチュニスの戦いで大敗した海軍を立て直したローマによって、シチリア周辺の制海権を奪取され、その後、補給路を絶たれたシチリアのカルタゴ軍は降伏します。

この第1次ポエニ戦争の悲劇の将軍「ハミルカル・バルカ」が「ハンニバル」の父親ですね。

シリーズの主人公「ハンニバル」は、この第1次ポエニ戦役で敗北後、さらにサルディーニャ島やコルシカ島へ食指を伸ばし、カルタゴの和平条約違反をでっちあげて賠償金と贖罪を強要するローマの使節団の前に服従する大人たちを尻目に、使節団に喧嘩をふっかけ、カルダ人の造反を促す、というショッキングなデビューを果たしています。

ここでは、冷静な観察力と分析力を持ちながら、感情が欠落しているようなハンニバルと、カルタゴの現地政府に無理難題をふっかけるローマの執政官たちの姿が注目ポイントです。その軍事力と政治力によって地中海世界を支配していた「ローマ」が一皮剥くと、同盟者というよりも、とても横暴な支配者でもあったことが読み取れますね。さらに、この場面で、ハミルカルや周囲のカルタゴ人の行動に文句をつけるカルタゴの有力者はおそらく、第1次ポエニ戦役で海軍を縮小してカルタゴ敗戦の端緒をつくった大物政治家「ハンノ」であろうと推測されるとことです。

第2章からはいよいよハンニバルがカルタゴ軍を率いてローマへ反旗を翻すのですが、ここで並列して、後にハンニバルに立ちはだかった「大スキピオ」こと「プブリウス・コルネリウス・スキピオ」が登場しています。ただ、シリーズの前半のところは、ハンニバルが「ローマ」をコテンコテンにやっつけるところがメインで、スキピオは戦役には参加しているのですがまだ修行中といった位置づけです。

巻の中盤以降は、冒頭シーンから20年後。成長し、カルタゴの派遣軍を率いることとなったハンニバルが、ヒスパニア(現在のスペイン)のローマの同盟都市「サグントゥム」へ侵略し、これに対抗して進軍してきたローマの大軍と戦った第二次ポエニ戦役が始まります。

この巻では、執政官スキピオ(このシリーズの主人公「大スキピオ」の父親です。名前が一緒なので混同されることから「父プブリウス」と呼ぶそうです。)に率いられた75万の大軍とハンニバルの5万の軍が対決するわけですが、ここでハンニバルがとった作戦が、あの有名な「アルプス越え」ですね。ただ、ローマ軍の意表をついたこの作戦のキモは、アルプスを越えてきた戦象の群れがローマ軍に襲いかかるド派手な部分ではなく、ローマの支配下にある「ガリア」「イベリア」の諸部族がハンニバル陣営に加わって戦っている、というローマvs周辺諸国の半ローマ勢力というところにあると思われます。

実際の戦闘シーンは原書のほうで。

第2巻 ハンニバルの指揮下、ローマ歩兵軍団は包囲殺戮にさらされる

第2巻の構成は

第7話 もう一人の執政官
第8話 トレビアの戦い
第9話 トレビアの戦いー投石と戦象ー
第10話 トレビアの戦いー怪物の戦術ー
第11話 トレビアの戦いー天才の知略ー
第12話 英雄の犠牲

となっていて、第1巻の後半で、ハンニバル軍に加わっているガリア、イベリアの諸部族の動揺と離反を誘うため、4千人の先遣隊で示威行動を行ったことが裏目にでて、ハンニバル軍に無惨に敗れるシーンを喧伝され、さらに指揮官である執政官の「父プブリウス」が負傷したローマ軍は、その指揮権が、もう一人の執政官「センプロニウス」へと移ります。貴族出身者と平民出身者一人ずつで組織される執政官制度では、一方の執政官が指揮を執れない場合は、もう一人の執政官に指揮権が譲られるというきまりのようですが、「独裁」を避けるこの制度が吉と出るか凶とでるかは相手次第、というところでしょうね。

貴族に対し対抗心を燃やし、功名心にはやる執政官「センプロニウス」は、平民中心に組織されている「ローマ歩兵」の大軍をトレビア河を渡らせ、正面から敵軍にぶつけ、ということで第8話からは「トレビアの戦い」の開始です。

戦闘の最初の頃は、トレビア河の渡河で冷え込んだ体のため、戦意が振るわなかったローマ軍だったのですが、指揮官・センブロニウスの煽動で戦意をかき立てられ、遠くから飛んでくる投石攻撃や戦象にもひるまないローマ歩兵は、ハンニバル軍の正面軍を圧倒して押し込んでいきます。

ハンニバルの騎兵に押しまくられるスキピオたちの属するローマ騎兵と対象的に、ローマ歩兵を中心とする主力軍の戦況はローマ軍有利に進んでいくように思えるのですが、実はこれはハンニバルの作戦。敵陣深く入り込んだローマ軍の背後から、ハンニバルの弟「マゴ」が率いるアルプス越えを経験した2000人のハンニバル軍最強の精鋭部隊が襲いかかり・・といった展開です。

ローマ歩兵軍団を包囲したハンニバル軍の殺戮に近い戦場の様子をただ見守るしかなかったスキピオだったのですが、偶然、戦象に追われるローマ軍のラッパ手から受け取ったラッパからローマ歩兵の救出作戦を考えつきます。

それは、援軍が来たかのように偽装するものだったのですが、それはハンニバルが用いた戦法を見事にトレースした方法で・・ということで、ここらが後にハンニバルの好敵手となるスキピオの戦場デビューの瞬間ですね。

レビュアーの一言

物語の最終盤では、この「トレビアの戦い」の責任をとらされて、「父プブリウス」はイベリア戦線へ左遷、敗戦の主原因となった「センプロニウス」は執政官解任の上、公職追放という処分をくだされます。

ただ、この後任としてでてくる人物というのが、これまたローマが苦境に陥る原因となって・・ということで、最初のほうのカルタゴ中央政府の失態がシチリア島を失ったように、軍事の失敗というより政治的な失敗が戦況が不利になっていく原因となっています。

このへんは、軍人による専制や、一人の独裁者への権力集中を回避する「民主制」「シビリアンコントロール」の仕組み上、避けられないところなのでしょうが、ヒーローの活躍を望む一般大衆からは不評をかいやすいところでもありますね。

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