日本生命の重役を経て、オンラインの生命保険の先駆けである「ライフネット生命」を総創業して事業を軌道の乗せた後、立命館アジア太平洋大学(APU)の学長となるなど、まさに八面六臂の活躍をしている筆者が、「何人かのリーダーに「これを読め」と勧めた本」が、本書でとりあげる「貞観政要」。
我が国でも「北条政子」や「徳川家康」「明治天皇」が愛読したといわれる、「リーダー論の古典」を、筆者が自らの経験を紹介しながら解説してくれるのが本書『出口治明「貞観政要 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」」(角川新書)』です。
【構成と注目ポイント】
構成は
はじめに
時代を超えた「帝王学の教科書」ー『貞観政要』
名君と呼ばれる人の「2つの絶対条件」
僕が座右の銘にしている「三鏡」の考え方
歴史上の為政者たちが愛読した「リーダー論の原点」
序章 「世界最高のリーダー論」はどうして生まれたかーものごとの「背景」を押さえる
第1章 リーダーは「器」を大きくしようとせずに、中身を捨てなさいー「権限の感覚」と「秩序の感覚」
第2章 「部下の小言を聞き続ける」という能力ー「諫言」の重要性を知る
第3章 「いい決断」ができる人は、頭の中に「時間軸」がある「「謙虚に思考」し、正しく「行動」する
第4章 「思いつきの指示」は部下に必ず見抜かれる
第5章 伝家の宝刀は「抜かない」ほうが怖いー「チームの仕事」の重要なルール
第6章 有終の美は「自分」にかかっているービジネスを「継続」していくために
おわりに
本書を「座右の書」に
となっていて、第一章が「貞観政要」が生まれた時代背景、第2章から第5章は事業の創成と維持、そして第6章が作り上げた事業の「継承」について、原典をひもときながら、筆者が解説する、というつくりになってます。
本書でとりあげる原典「貞観政要」の著者である唐の太宗(李世民)は父親ととも前王朝である「隋」を滅ぼした新王朝創設の立役者ではあるのですが、皇位に就くときは、兄と弟を謀殺し、さらに父親を幽閉して「皇帝」となっていて、相当「暗い」経歴の持ち主ではあります。
しかし、彼の治世は「貞観の治」といわれる善政が敷かれた時代とされていて、そうなった理由を筆者は「後世で自分が悪く言われないためには、善政を敷くしかない」というところに求めていて、暗い即位の経歴をもつがために、普通の状態で即位した君主より相当強いプレッシャーがあったことは間違いないでしょうね。そして、筆者が読み解いた「リーダーが組織マネジメントをするための要点」は
①組織はリーダーの器以上のことは何一つできない
②リーダーは、時分によって都合の悪いことをいってくれる部下をそばに置くべきである
③臣下(部下は茶坊主になってはならない。上司におもねってはならない
④君主(リーダー)が舟で、人民(部下)が水、舟は見ず次第で、安定もすれば転覆もする
⑤リーダーは常に勉強し続けなければならない
というところにあるようですが、筆者らしくこれは「僕が独断と偏見で選んだもの」なので、「自分で読み解いて、独自のヒントを受け取ってください」ということなので、本書を道標にしながら、原典を読んでいくという作業が必要なようです、そのへんは、楽をしていては身につかない、ということでもあるでしょうし、「テキスト」の読み方が人それぞれで良い悪いはない、ということでもあるのでしょう。
そして、もうひとつ本書で注目しておきたいのは「後継者育成」についてですが
多くの場合、リーダーは自分の部下の中から後継者を選びますが、部下としての優秀さと、リーダーとしての優秀さは、必ずしも同じではありません
であったり
やらせてみないかぎりトップの資質の有無はわかりませんし、やらせてみなければナンバー1の能力は永遠に身につかない
というところを読むと、この後継者育成というのがやはり、リーダーにとって一番難しいことのようです。ちなみに、「貞観定要」のモデルの「唐の太宗・李世民」も後継者づくりには失敗しているようなので、このへんはさらに他のアドバイス本を探さないといけないのかもしれませんね。
【レビュアーからひと言】
本書によると、ついていきたいと思われるリーダーになる方法は
①部下から愛される上司になる
②圧倒的な能力の』差を見せる
③必死に働く姿を見せる
の3つあって、一番現実的なのは③だそうです。
もっとも「必死に」といって長時間労働するということではなくて、「何が起こっても逃げない」ということのようですので、「昭和な上司」の方はお気をつけください。
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