超S級美人霊媒師が、怪奇事件の謎を解く ー 相沢沙呼「霊媒探偵・城塚翡翠 medium」

相沢沙呼

美人高校生マジシャンや廃墟に住むサディスティックな美女探偵など、魅力的な探偵キャラを生み出してくれた筆者が、今回夜に出したのは、一見するとツンデレ系の霊媒師なのだが、実は大金持ちの帰国子女で、純粋で、初(うぶ)な霊感が強い美少女・城塚翡翠。
その姿は

人形のように完璧に整った精巧な顔付きをしていて、この薄暗さの中でもわかるほどの肌の蒼白さ、その非生物的な印象を強調していた、長い黒髪は毛先に向かうにつれて、緩やかなウェーブを描き出している(略)日本人的な顔立ちをしているがもしかしたら北欧系の血が混ざっているのかもしれない。切り揃えられた前髪の舌から香月たちを見る双眸は、美しい碧玉色をしていた

という超S級美女が、推理作家とともに怪奇な殺人事件の謎を解き明かすのが本書『相沢沙呼「霊媒探偵 城塚翡翠 medium」(講談社)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一話 泣き女の殺人
インタールードⅠ
第二話 水鏡荘の殺人
インタールードⅡ
第三話 女子高生連続絞殺事件
インタールードⅢ
最終話 VSエリミネーター
エピローグ

となっていて、 それぞれの話は単独の事件の謎解きなのですが、話間に挟まる「インタールード」が、最終話のところへ誘導する役目をする、連続女性殺人鬼の独白となってます。

まず第一話の「泣き女の殺人」では、推理作家・香月史郎が、今巻の主役である、霊媒師の城塚翡翠と出会うところからスタートします。彼の後輩である「倉持結花」という女性が、一ヶ月ほど前に占い師に運勢を占ってもらってから、女の人が自分を見て泣いている夢をみるようになり、その相談で「翡翠」のもとに訪れたのに香月も同行した、という導入ですね。

その後、結花の相談に再度応じるために、彼女に再会した香月は、彼女が、その時の雰囲気とは打って変わった、あどけない少女のような可愛らしい姿であることを発見し、好意を持つのですが、その日、倉持結花が自宅の部屋で、テーブルの角に頭をぶつけて殺されるという事件がおきます。

その現場にかけつけた香月と翡翠の二人なのですが、翡翠は「犯人は女の人だ」と断言し、床に落ちている涙の跡のような水滴に「泣き女・・・」とつぶやくのですが・・、という展開です。翡翠は、人が衰弱したり、精神が病んでいく匂いを感じ取ることができるといい、彼女の霊を身体に降ろし、犯人の様子を香月に伝えると提案しします。そして、彼女が示した犯人は意外にも、結花と親しい・・という展開です。

ちなみに「泣き女」というのは、古い時代の東アジアの葬式で故人を惜しんでなく役目をする女性のことではなくて、近い将来に死んでしまう人が出る時に出現して泣き声をあげるというアイルランドの妖怪ですね。今話では、城塚翡翠との出会いの部分だけでなく、今回の殺人は、泣き女のような怪異が誘導したのではないか、といった疑惑を播くもとにもなってます。

第二話の「水鏡荘の殺人」では、香月史郎の先輩作家で、怪奇ミステリー作家の黒越篤が、自宅の水鏡荘で殺されます。

彼は自宅の仕事場としていたところで殺されていて、デスクの片隅には放射状に血痕が飛び散っていて、その真中には「卍」のような印が描かれているという様子です。この水鏡荘には、明治の始めの頃、日本へやってきた英国人が建築したもので、その人物が魔術やら降霊やらの秘儀を書き記すために建てたもので、当時は「黒書館」と呼ばれていて、その秘儀を記した魔術書が完成した時に、その英国人も夥しい量の血溜まりを残して姿をけしてしまった、という伝説が残っています。

そして、黒越の家族たちも、夜中にものとが聞こえたり、鏡に見知らぬ女性が映っていたり、といった怪異がおきていたと黒越に訴えていた中での、彼の変死事件です。この家の怪異な噂と黒越の殺人を結びつける話が出る中、翡翠は、黒越の弟子の別所が犯人だと香月に打ち明けるのですが、何も証拠がない中、果たして・・・、という展開です。

続く第三話の「女子高生連続絞殺事件」は、香月史郎がサイン会でファンの女子高生・藤間菜月から、彼女の高校でおきている女子高生の連続絞殺事件を解決してほしいとの要請をうけたことから始まります。

その高校は2月と6月に1年生と2年生の女子高生がそれぞれ、なにか柔らかい布状のもので絞殺されて遺棄されるという事件が起きる。二つの事件とも、制服が乱れている形跡はあるが、性的暴行の痕跡はない、というもの。

その殺人現場に来た翡翠は突然「先輩、どうしてこんなことを」と叫び、苦しそうに喉元をいじり、ブラウスのボタンを外し始めるのですが、落ち着きを取り戻したところで、彼女は、犯人は「女の子だ」と断言し・・という筋立てです。

この後、香月と翡翠は、捜査の依頼をしてきた藤間菜月を始めとする生徒たちから、事件の被害者に関する聞き込みを始めるうち、図書委員をしている藁科琴音という女子生徒から。被害者の一人は蓮見綾子という写真部の部長をしている三年生の憧れていたのでは、という情報を聞くのですが果たして本当に彼女が犯人・・・?、という展開です。

捜査が遅々として進まない中、捜査依頼をした藤間菜月が第三の被害者となり、さらに第四の被害者が・・・と発展していきます。第四の事件現場を、菜月の霊に共鳴した翡翠が示して犯人の犯行を阻止するあたりはかなりサスペンスな仕上がりですね。

そして、それぞれの話の間の「インタールード」では、、女性を誘拐して監禁し、ナイフで刺殺することを繰り返している「鶴岡文樹」という殺人鬼の犯行と、彼がターゲットを翡翠に定めていく独白が展開されていきます。彼はスレンダーな女性を狙って犯行を重ねているのですが、それはある実験をすすためだ、とうそぶいています。彼の犯行の底には過去のトラウマがあるようななのですが、被害者の女性にナイフを突き立て、「痛くないはずだ。そうだろう」と声をかけ、

「二つ目の質問がまだだ。・・・なぁ、そっちには、なにがあるんだ?なにが見える?なにかあるなら俺に教えるんだ」

と言うあたりには、かなりの猟奇性を感じますね。

最終話の「VSエリミネーター」は最終話では連続殺人魔に誘拐され監禁されてしまった翡翠と殺人鬼・鶴岡とか対決する場面です。翡翠を騙して、彼の別荘に監禁した鶴丘は、翡翠の命を助けるかわりに、幼い頃になくなった彼の姉と降霊をしてくれ、と脅迫します。彼の姉は、昔、強盗にあって殺害されていたのですが、その姉の霊に聞きたいことがあるというのです。翡翠は殺人魔に拘束されて

「あ、あなたは・・・、あなたは悪魔だわ・・・」
潤んだ双眸が雫を零しながらも、毅然とこちらを睨みつける
「こうやって、多くの女性を騙し続けてきたんでしょう・・・」
美しい歯を、がちがちと鳴らしながら、彼女は気丈に言う。
(略)
だがその強靭な反抗心も、なんの表情も替えない彼を見て、無意味なものだと悟ったのだろう。それが最後の抵抗だった。
ナイフの先端を掲げると、翡翠は瞼を閉ざした。

と絶体絶命の危機に陥るのですが、ここから彼女は不気味な笑いを浮かべ始め、思っても見なかった逆転劇が始まります。「翡翠ちゃんはどうなるんだ」とハラハラさせての大どんでん返しは驚きの連続です。

この殺人鬼の正体については、ミステリー好きなら途中の辺でなにか感づくところがあると思うのですが、「翡翠の豹変」は、当方全く想定しておらず驚愕でありました。ネタバレはここまでにしておきますので、詳細は本書のほうで

【レビュアーからひと言】

本書の最初のほうを読んで、神秘的で美しい霊能者の姿を「カバー」にしながらも、実はあどけなく、可憐な「城塚翡翠」のファンになってしまった方は、最後のほうの突然の出来事でひっくり返ってしまうかもしれません。

ただ、高校生マジシャン・酉乃初、廃墟のサディスティック系美女探偵・マツリカに続いて、第三の魔女が出現したことは間違いないようです。美人霊媒探偵・城塚翡翠はこれからどんな事件を解決してくれるか、楽しみなところではあります。

medium 霊媒探偵城塚翡翠
★★★★★ 五冠獲得! ★第20回本格ミステリ大賞受賞 ★このミステリーがすごい! 1位 ★本格ミステリ・ベスト10 1位 ★SRの会ミステリベスト10 1位 ★2019年ベストブック さらに2020年本屋大賞ノミネート、第41回吉川英治文...

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