マタギ本をいろいろとレビューしてきたのだが、今回はマタギをはじめとした「猟師」たちがどんな肉を食べていたのか、といったことを取り上げた田中康弘「日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?」をレビュー。
構成は
肉を食べに南へ北へ
第1章 南の島のカマイ
第2章 秘境のむらの猪猟
第3章 山中の鹿肉のレストラン
第4章 畑荒らしのハクビシン
第5章 狢と呼ばれる狸・穴熊
第6章 厳寒の礼文島のトド猟
肉食の旅を終えて
となっていて、取り上げられている「肉」は、南から北まで、取り上げる肉は「イノシシ」から「シカ」から「ハクビシン」「タヌキ」といった具合に多種多様である。
で、当然南から北までを扱うから、肉の扱いも同じイノシシ肉でも
骨を除くと、まるで鯵の開きのようなカマイがべろんと台の上に広がる。それをささささっと適当な大きさに切ると、ビニール袋に手早く詰め込み始めた。これも見慣れた解体風景とはずいぶん違う。マタギも含めて一般的な解体は部位を均等に分けていく。つまりマタギ勘定である。そのため台の上には人数分の肉の塊が積み上げられるのだが、ここにはそれがない。・・この蝿の中で切り分けた肉を悠長に台の上に置いておくことはとてもできないのだ。(P38)
西表島のカマイは、食べ方が独特だ。基本的に刺身でどの部位も食べてしまう(P39)
といった感じで、同じ「獣肉」の扱いでもエラく違うものだな、と認識を新たにする。
ここで、やはり気になるのは、今回集中的に読んでいる目的の「有害鳥獣駆除とジビエ」ということなのだが、そこは厳しい現実があるようで、
鹿は数が豊富で一頭から取れる肉量も多い。その割にはあまり喜ばれていないように感じられる。理由としては、日本的な煮込みには不向きな素材であることが考えられる。基本的には猟師料理は簡便なものである。捌いて焼いて食べるか、味噌、酒、砂糖、醤油で味を付けた煮込みがほとんどである。このやり方だと、血の気が多い鹿肉はひたすら固くなるのだ。そこで猟師に喜ばれるのが刺身なのだ。生で食べるか、または逆にしっかり煮込むことで柔らかくなって実に美味しくなるのも鹿肉の特徴だ。このように、鹿は日本的な料理の仕方にはあまり向かないのではないだろうか。刺身は最新の注意を払って解体作業が行われない限りNGである。煮込みも、中途半端な加熱は飲み込むのも困難なほどの岩石肉を生み出すだけだ。鮮度の命に手早く食べる日本風ではなく、熟成から時間をかけて、さらに調理にもじっくりと手間暇かける洋風が鹿肉にはあっているようだそしてもうひとつ鹿が喜ばれない理由は、恐らくダニの問題だ。(P87)
といったところを読むと、頭で考えた施策の難しさを感じる。
どうも「有害鳥獣駆除」というのは「食文化」の創造あたりから始めないといけないのか、と今後の展開の困難さに少々暗澹としてくるのが実感、
まあ、それはそれとして、本書は、日本各地の様々な「食肉」(少々ゲテモノも混じって入るが・・)の記録として読めば良いと思う。日本は広い、獣肉の食べ方もいろいろ、食べる獣肉もいろいろと実感する読み物である。
コメント