地方が望んでも得られない「ガード下」という都会的なアイテム

 
ガード下っていうのは、どことなくうらぶれた都会の風味があって、辺境に住む身にとっては、きらびやかなビルやショッピングモールよりも、望んでも得られないレアアイテムのような気がする。
そんな「ガード下」のことを分析、レポしたのが小林一郎『「ガード下」の誕生ー鉄道と都市の近代史』(祥伝社)である。
 
構成は
Ⅰ ガード下とは何か?
 どうやってガード下ができたのか/歯牙にもかからないガード下研究の現状/ガード下のイメージ/ウラ町イメージの理由/ガード下の魅力/ガード下を法律で見ると/何に使われているのか/どのように使われているのか/時代区分で見るガード下
 
Ⅱ 生命力あふれつウラ町・ガード下の誕生
 昭和のアーチ駅舎とブリキ住宅/ドイツの香り漂う、有楽町のガード下/辰野金吾の万世橋駅とガード下/ヤミ市から町を興したアメヤ横丁/理念の旗を振り、ガード下から立ち上げた秋葉原電気街/流行の先端を演出する場所/巨大なキャンティレバーは歴史の回廊/ガード下にカモメが舞う隅田川/ガード下から生まれ変わる町/ミヤコ蝶々も暮らした大阪・美章園ガード/ヤミ市を起源に一キロ続く商店街/泉も神社もある阪神・御影ガード下
 
Ⅲ 高度経済成長に誕生したガード下 ー その再生とオモテ化
 光が眩しい洞窟の魅力/住んでみたい町No1。自己完結型をめざす吉祥寺
 
Ⅳ 新時代に挑むガード下 ー ホテル・保育園
 パリのパサージュが二一世紀東京・赤羽のガード下に誕生/机上で進めるガード下環境/夢の国のガード下は、リゾートホテル/人身売買バイバイ作戦と黄金町コンバージョン
 
おわりに ー 庶民のエネルギーがあふれるガード下と、環境整備されるガード下
 
となっていて、ガード下の誕生、利用形態から、東京を中心とした実際のガード下のルポである。もともと「・・下」というからには「・・」にあたるウワモノがないと始まらないわけで、それが鉄道という人口集積的で、しかも通過的なアイテムであることがガード下の
 
理由はどうであれ、ガード下利用が始まって以来、ガード下は、町の中心にあるにもかかわらず、ウラ町としての印象とイメージに包まれ、一種独特のガード下文化を生み出し、現在では世の中のためになる社会的な使命を担う空間利用も次々と誕生してきている(P32)
 
という商店街やビジネス街などと違う都市的なでありながら、すさんだ風情を身にまとっている所以であろう。
 
しかも、万世箸架道箸から神田駅まで RCなのだが表面に煉瓦を張っているところにみられるように
 
モダンデザインを追求していくと、前近代的な過剰な少食を主体とした近代建築は否定されるべきふだという結論に達する
だが、このまがい物が結構素敵である。鉄もセメント自体もギリシャ・ローマ時代からあったものだが、産業革命以降、新たな素材として開発された。その新素材を巧みに用いながら鉄でアーチを造り、セメントで巻き立て、旧来の素材を用いて外見上アーチのレンガ造りに見せかける、というのも悪くない(P106)
 
というしなくてもいいような言い訳をさせてしまう「いかがわしさ」を感じさせるのが「ガード下」の「ガード下」の面目躍如というところか。
 
ただ、個人的な感傷めいたことをいうと、学生生活で東京にでた最初は、なにか怖くてうろつくとこのできなかったガード下が、しばらく暮らすうちに、まあ小汚い通りや店を、さも子供の頃から知っているかのように歩いたりできるようになったのだが、その過程は都会地になじみ、すれていく過程でもあって、若気の至りともいうべき数々の恥ずべき所業をしてしまうのも「「ガード下」の魔力でもあるのだろうか。
 
辺境の地で暮らし始めて長くなり、時折訪れるも仕事に追われ、「ガード下」から遠ざかって久しい。また、本書の「ガード下は誰をも受け入れてくれるはずだ(P228)」の言葉をたよりにあの妖しげなスポットを探索してみましょうかね。
 

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