「生涯、一つの職場で勤務すること」が崩壊した「今」の職業人生とは — 山口 周「天職は寝て待て 新しい転職・就活・キャリア論」(光文社新書)

転職、天職が探しが、仕事人生の一コマとして当たり前のように語られるのは、リーマンショック以降、一生を通じて一つの会社に勤めることが、個人的な原因ではなく社会的原因で困難な時期と符合している気がする。ただ、言われるようになって久しいにもかかわらず、相変わらず、日本型雇用形態批判やアメリカ型雇用形態を手放しで礼賛するものが多くて、多くの勤め人あるいは勤め人予備軍の肌感覚とはちょっと遠いところにあるような気がしている。

本書は、そのちょうど間ぐらいの立ち位置で、今の仕事を取り巻く環境に少しでも疑問を持っている、大多数の人にとって、読みやすい内容といっていい。

 

構成は

 

はじめに

天職探しの旅

本書の読者について

第1章 転職はなすべきか、なさざるべきか

転職の是非

転職の技術がなぜ求められているか

転職はなぜ不道徳と考えられるのか?

第2章 従来の転職の「方法論」の問題

従来のキャリア戦略の問題点

第3章 いい偶然を呼び込むには

第4章 「攻め」の転職と「逃げ」の転職

「逃げの転職」の注意点

「攻めの転職」の注意点

第5章 エモーショナル・サイクル・カーブへの対処

 

となっている。

 

もっとも、最初の方で

 

産業や社会が安定的に発展していた 2 0世紀後半のような時期ならともかく 、現在のような変化の速い時代には 、こういったバックキャスティングのキャリア設計はうまく機能しないのではないかと私は考えています 。これは当の産業組織論をベ ースにしたロジカルな競争戦略論の限界が露呈しつつあるのと同じことで 、次に紹介する研究結果もこの仮説を支持しています 。

 

と、2012年の出版ということもあって、日本型雇用批判が根っこにあるのは間違いないのであるが、

 

いまの制度下では 、 3 0歳を過ぎたころから自分で働いて得た金の一部をデポジットとして会社に預け続け 、定年前の 1 0年間に 、実質的には仕事をせずに年金のような形で払い戻してもらう仕組みになっているので 、ある程度以上の年齢になると 、預けているデポジットの累積額が大きくなり 、転職できなくなるからです 。会社にロックインされてしまうわけですね 。まさに飼い殺しになるわけです 。私が常々 「会社と従業員との関係は貸し借りなしがいい 」と主張しているのも 、その点に大きな理由があります 。

 

という主張とともに

 

実際に仕事をやってみて 、自分がどういうときに達成感や幸福感を得られるか 、が少しずつ見えてくる 。そういう経験を経た上であれば 、より達成感や幸福感を得られる仕事の純度を高めるような転職を志向することも可能ですが 、こういった達成感は 、最低でも 2 ~ 3年程度の経験を積まないと得られないものではないかと思います.

 

であるとか

 

自分が何かの意思決定をしようとしているとき、その選択は本当に内発的な同期なのかどうかをいま一度考えてみる、といおうのも、転職を検討する際の大事なポイントだと思います。

 

といった風に、無闇矢鱈の転職の勧め、フリーへの勧めではないところに、勤め人として古い世代に属する当方としては、ぞわぞわせずに冷静に話を聞くことができる。

 

そして、数度の転職経験をもとに

 

従業員にとって実は最も虚意宇力な反対意見表明の方法は「退職」なのだ、ということがお分かりいただけると思います。是非の判断は留保するとしても、とにかく実態として日本企業のガバナンス構造においては、従業員が経営者に対して強く反対表明をする方法は退職以外にない、ということなのです

 

といったあたりは、日本企業の雇用構造ないしは内部の権力構造の本音のところ言い当てている。

 

で、当方が、転職の賛否双方に目配りがされている本書に注目するのは、年金受給年齢も上がり、平均寿命も上がり、という時代になって、一頃のように「人生で一つの職場」というのが、多くのサラリーマンで不可能になる。つまり退職後の「第二の人生」ではなく、退職後の勤め先も人生最初のそれと「対等な勤め先」になった時代を迎え、「転職」の持つ意味が変わっているのではと思うからなのである。

極論を言えば、人生100年となり、多くの人が「転職」をして、第二、第三の職場を経験せざるを得ない時代になりつつあるのでは、ということで、このあたり「LIFE SHIFT」の主張と重なってくる。

 

さて、そんな時代にあっては、

 

「転機」というのは単に「何かが始まる」ということではなくて、むしろ「何かが変わる」時期なのだ、ということです。逆に、「何かが終わる」ことで初めて「何かが始まる」とも言えるのです。

 

であったり、

 

ここで重要になるのが「中立圏」です。一見、どっとつかずの宙ぶらりんな段階に見えるかもしれませんが、それは決して消極的なものではない、ということに注意してください。慣れ親しんだもの、去りつつあるものを見つめつつ、それがなくなてもやっていけるように過去を統合しながら、わくわくもするけれど不安もある世界に、気持ちを少しづつ向けていく、という大事な時期なのです

 

といった風に、「職を変わる」といったことに対する意識も変化させないといけないかもですね。

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