「最速」という言葉は、常日頃、タスクに追われているビジネスマンには、一種の「キラー・フレーズ」で、この言葉がチラとでも見えると、思わず手に取ってしまうのは、一人二人ではあるまい。
本書はGoogleのデザインパートナーをしていた人たちによるもので、「スプリント」とは「個別の作業、プロトタイプ作成の時間、逃れられない締切をワークショップに加えて、開発したプロセス」「アイデアをプロトタイプのかたちにすばやく落とし込み、それを顧客としてテストすることによって、たった5日間で重要な問題に答えを出す手法」で「デザインの短距離走(スプリント)」として名付けられたもの。
本書の構成は
INTRODUCTION スプリントとは何か?
SET THE STAGE 準備をする
第1章 「課題を見抜く」
第2章 「オーシャンズ7」を決める
第3章 「時間」と「場所」を確保する
MONDAY 目標を固める
第4章 「終わり」から始める
第5章 「マップ」をつくる
第6章 「専門家」に聞こう
第7章 「ターゲット」を決める
TUESDAY 思考を発散させる
第8章 「組み替え」と「改良」に徹する
第9章 「スケッチ」する
WEDNESDAY ベストを決める
第10章 「決定」する
第12章 「ガチンコ対決」をする
第13章 「ストーリー」を固める
THURSDAY 幻想をつくる
第13章 「フェイク」する
第14章 「プロトタイプ」をつくる
FRIDAY テストをする
第15章 「現実」を知る
第16章 「インタビュー」をする
第17章 「学習」する
おわりにー「仕事のやり方」が根本的に変わる
となっていて、1週間で製品開発ないしは既存の製品・サービスの改善を仕上げるといった内容。
ただ、
過去のワークショップの結果を見直してみると、ある問題に気づいた。ワークショップのあとで実行に移され、成功したアイデアは、喧々囂々のブレーンストーミングで生み出されやものではなかったのだ。最良のアイデアはちがう場所で生まれていた。
といった刺激的な言葉で始まるように、ここで提案される手法も結構刺激的である。
それは
普通に考えれば、自分のソリューションを紹介し、そのねらいを説明する機会を、誰もが公平に与えられるべきだ。たしかにその通りだが、スプリントではそうしない。アイデアを説明することには、いろんな弊害がある。感動的な主張をした人や、カリスマ性のある人の意見に流されがちだ
とか
民主主義は国をまとめるにはいいが、スプリントには向かない
とか
優れているが相容れない2つのアイデアがあるとき、どちらか一方を選ぶ必要はまったくない。両方のプロトタイプをつくって、金曜日のテストで顧客の反応を見ればいい
などといったフレーズでも明らかで、結構小気味いいのは確か。
もっとも、本書で取り上げられている例は、ブルーボトルコーヒーの販売成績UP、「スラック」というグループウェアの販促といったものであるし、短期間に、ひとつのプロジェクトを発端からある程度の仕上げ(顧客テストまで)をするまでの仕事の手法として応用範囲は広いことは間違いない。
ただ、この「スプリント」という手法、筆者群はGoogleベンチャーの出身ということもあって、IT企業色が強いし、「ドット投票」など、当方の属するような古いタイプの企業組織では、導入にはかなり説得作業が要るよなと思わせるものもある。さらには1週間の間、プロジェクトメンバーの拘束を職場風土が許容してくれるかな、といった懸念がでるのも事実。全ての企業に、本書の全ての提案が適用可能ではないだろうなということを考慮すると、まあ、翻案しながらやってみたら面白そう、といった感じでまずは進めるのがよいかもしれない。
なんにせよ、本書によれば
スプリントは当たれば大きい、リスクの多いソリューションをテストするのに一番向いている。だから普段とは優先順位を逆にして考えよう。成功まちがいなしの小さなチャレンジなら、わざわざプロトタイプをつくる必要もない。そういう楽勝案はパスして、大きく大胆な賭けを選ぽう。
とのこと。
食わず嫌いせずに、どんな課題解決でもいいので、あれこれ試してみるのが一番本書の目的に沿うのかもしれませんね。
ー追記ー
大きなプロジェクトだけでなく、巻末のQ&Aによれば、会議での小さな決定や問題が行き詰った時でも「どうすればメモ」(P111)、「4段階スケッチ」(P159)、「メモって投票」(P207)、「顧客インタビュー」(P273〜)が有効であるそうなので、詳しくは原書で確認の上、試してみてくださいな。
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