「穏やかさ」をビジネスの基礎に据える ー 「NO HARD WORK」

「小さなチーム、大きな仕事」や「強いチームはオフィスを捨てる」などで、テレワークや小さな組織の提案など、新しい「働き方」について斬新な提案を行ってきたアメリカのソフト会社「ベースキャンプ」のメンバーによる新しい「働き方」の提案が本書『ジェイソン・フリード「NO HARD WORK」(早川書房)』である。

筆者たちが所属するIT業界といえば、長時間労働が当たり前のような世界であるのだが、そういう業界の風潮にあえて逆らって、

マズいことに、このところ、そういう長時間の労働や、過密スケジュールや睡眠不足を名誉の勲章みたいに考える人が増えている。
でも、慢性的な疲労は勲章なんかじゃない。
クレイジーな状態の象徴

と公言する「働き方改革」の提案本である。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめに
大志は抑えて
自分の時間を大切に
組織文化を育てる
プロセスを解体する
ビジネスに力を入れる
おわりに

となっていて、普通、アメリカのスタートアップ企業やIT企業というと、できるだけ早期に黒字化して会社を売却するか、ストックオプションでビリオネヤーを目指すために、ハードワークの上にハードワークを重ねる、といったイメージなのだが、本書の場合は「カーム(穏やかさ)を基本として、

がんばり屋は、仕事のアイデアが頭のなかで渦巻いている。
この終わりなきやる気の波は、骨の髄まで仕事にどつぷり浸かっていることを示している。
そろそろ、そこから脱出すべき

と主張するあたりが、シリコンバレー企業の働き方とはちょっと異なるところである。

そして、これは企業の経営のスタイルにもいえて、

この目標を立てないというマインドセツトのおかげで、ベースキャンプはビジネスの世界で異端児扱いされている。
そして、僕らみたいな少数派のなかには、「目標がなんの役に立つのか」単にわかつていない人もいる。
けれども僕らは、日標が役に立つことは理解している。
ただ、その効果に関心がないだけだ。
僕らは取りこぼしたお金があっても気にしないし、レモンを最後の一滴まで絞りだす必要も感じていない。
いずれにしろ、最後の数滴はたいてい苦みが混じる

であったり、

ベースキャンプでは、忙しくしていることがいいとは考えていない。
それより、効率が大事だと思っている。
(略)
効率を上げるというのは、予定のないあき時間や、仕事以外のことに使える時間を増やすことだ。

といったあたりは、スケジュールをぱんぱんに詰め込んで、何かを追いかけるように動くことを至上命題のようにしてきた、今までの「働き方」の信奉者からすると目をむくようなことであるだろう。
ただ、このあたりは、ひょっとすると根拠のない焦燥感にかられて必要のないところまで、効率性や採算性を追い求めているせいかもしれない、といったあたりは我が身を振り返って点検しておくべきことであろう。

さらに、

会社は「我々はみんな家族だ」と宣言するのが好きだ。
でも、会社全体が家族なんてことはない。
僕らの会社ベースキャンプも家族じゃない。
僕らは仕事仲間だ。

といったあたりは、仕事がハードになって、働く環境がギスギスしてくると、ふいに頭をもたげてくる「家族主義」への皮でもあるので、経営層は特に肝に銘じておかないといけないでしょうね。

【レビュアーからひと言】

日頃、能率を上げたり、ムダをなくしていく「ビジネス本」に偏って読んでいると、この本のような「立ち止まる」「無理をしないこと」を推奨するビジネス本を読むと、ちょっとホッとすることは確かですね。今までも「テレワーク」など刊行当時は、先端的なところだけでしょ、と思われていたものが、ごく身近になっていることを考えると本書の提案も数年先には、「常識」になっているかもしれないですね。

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